大狗 福徠

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元気かな
ドアノブに手を当てる。
捻る勇気だけはまだない。
ドアの外にはみんなが居る。
顔を見ることだけが出来ない。
こちらに届く声はみなキラキラと宝石のようで、
どんなことをしているのだろうと思いを馳せた。
毎日同じ言葉が聞こえてくる。
その中で一等多い声。
その声をかけられたならどれほど良いだろう。
きっと有頂天になって、すぐさまドアに飛びつくだろう。
開けることだけは叶わないだろうけど、それでも夢を見た。
声を掛けてくれる夢を。
同じ日々を過ごしながら変化を求めている。
まるで狂気の沙汰だった。

ドアが不意に開かれた。
動くことも出来なかった。
ドアの先を見つめるばかり。
体は竦んで動かない。
喉は怯んで音を出さない。
目は見開いて前を見る。
きっとおんなじくらいの歳の子だった。
慌てて帰っていったけれど、次の日も、そのまた次の日も来た。
日を重ねるにつれて弾むようになった声。
ドアの前で精一杯身振り手振りしているのであろう風を切る音。
こっちに来る足音はだんだん遠慮をしなくなってくれた。
不用心にも、あの子が着るのを楽しみにしている。
いつの間にやら、欲しかった声を自分が吐いている。
あぁ、元気かなぁ。

4/9/2025, 11:45:22 PM