七風

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10/26/2024, 2:08:48 PM

「合言葉決めておこうよ!」
「合言葉?」
「そう!私たちだけの秘密基地に他の人は入らないように!二人だけの秘密の合言葉!」


小学生の頃、名前も知らない女の子と遊んでいた時期があった
どこの誰だかも知らない。学校も違う。
ただ年齢が一緒なこと。いつも同じぐちゃぐちゃの服を着ていること。運動が得意なこと。それだけ知っていた。
それだけしか知らなかったけど、僕は、彼女に惹かれていた。

半年ぐらいの間、毎週のように遊んでいた彼女はある日急に、秘密基地に来なくなった
彼女には、彼女の事情があるし、きっと急に引越しが決まったのかもしれない
それとも他に友達ができてそっちと遊ぶようになったのかもしれないし
いつも遅く帰ってくるというお母さんが早く帰ってこれるようになったのかもしれない
何にせよ、彼女が来なくなったという事実は変わらなかった
そこからだんだんと僕も秘密基地には行かなくなって
あの日決めた合言葉を使うこともなくなっていった




そこから十数年経ち、大人になった僕は
そんな秘密基地のことなんて忘れて普通の社会人としてありふれた毎日を過ごしていた

ある日、たまたま呼ばれた合コンで
たまたま隣の席になった女の子がいて、
たまたま帰り道が一緒だったから、
たまたま一緒に帰ることになった

二人きりの帰り道
初対面で話すこともないし、もう会うこともないだろうから
ふと思い出した子供の頃の話をした
半年間だけの、あの友達の話
初めの方は不思議そうに聞いていたみたいだけど、だんだんと彼女の表情が変わっていった

「...それで合言葉を決めたんだ。秘密基地に入るための合言葉」
「その合言葉が、「愛してる」」
「...え?」
彼女の声が、僕の声と重なった
僕とあの時の女の子しか知らないはずの合言葉
その合言葉が彼女の口から出た
「合言葉、愛してるでしょ?」
「なんで知って、?」
僕は、驚きの表情を隠せないまま彼女に問う

「その時の女の子、私だよ。合言葉を決めたのも、私」
思っても、みなかった事実に体が固まる
んだ、あの時、急に消えたのとか
なぜこの合言葉にしたのとか
聞きたいことがいっぱいあったはずなのに
いざ本人を目の前にすると、何一つ出てこない
「驚いた...よね?私も今話聞いてて、初めて知って」
「まさかこんなところで出会うなんて、元気してた?」
沈黙を破って、彼女が明るい声色で聞いてくる
それに返答できない僕を見かねて、彼女は言葉を続ける
「こんなの急に言われても困るよね。じゃあ...、私こっちだから...。...じゃあね。」

このままだと終わってしまう
また、きっと会えなくなる
何も聞けないまま、また彼女が僕の目の前からいなくなる
嫌だと思った瞬間、動かなかった体が弾かれるように動いた
遠ざかっていく彼女を追いかけて、腕を掴む
「あの!愛してる!」
突拍子もない意味もわからない
ただとっさにその言葉が口をついて出た

彼女が困惑した顔でこちらを見つめる
それはそうだ、こまるに決まってる...
落ち着いて、深呼吸して、それで...


「もうちょっとだけ、話しませんか...?」




お題:『愛言葉』

6/19/2024, 1:30:08 PM

―――きっと誰だってやった事あるだろ?


黒板に書かれた日直の名前に相合傘を書き足して
現実になれば なんて願って
恥ずかしくってすぐ消して
そんな甘酸っぱい想い出


やったところで何にもならないのわかってるのに

……ちょっとだけだから

すぐ、消すから……

イタズラに手が動いて君との間に傘を描く

「…っ、何してんだろ」
書き終わり、ふと、正気に戻る
「消そ、」
チョークで汚れてない手で黒板消しをつかみ消そうとした

その瞬間

その手が誰かによってとめられた

「えっ?」
「ストップ 。 なーに、可愛いことしてんの?」

顔を覗き込まれとっさに逸らす
――見られた、見られた… 見られた…!
恥ずかしさとか色んなものが込み上げて一気に顔が赤くなる
ち、違うって言わないと、

「え、いや、なにも、なく、て、」
動揺し、体ごと逃げようとする俺をつかんで、彼女は言う
「ふーん何も無いんだ、てっきり可愛い可愛い相方くんが、やーっと私のこと好きだって言ってくれるのかと思ったのに」
ざんねん、なんて言いながらも掴んだ手は離そうとしない
それどころか顔を覗き込もうとしてくる

今、顔なんて見られたら、赤いのがバレバレじゃないか
俺が、
俺が君のこと好きなのが、バレバレじゃないか…!
必死に抵抗するけど彼女に勝てそうもなくて
俺の涙目なった目と君の楽しそうな目が合う

「ねえ、それで…?」
「…へ?」
「私に言うことあるんでしょ?」


期待に満ちた彼女の目が
楽しそうな彼女の口元が
密着した手から伝わる彼女の温度が
その全てが俺に「すき」を自覚させる

あぁ、負けた
俺の負けだ

「っ!おれっ、君が…




お題:『相合傘』

4/13/2024, 1:21:33 PM

「うわぁ、眩しい、まさに快晴って感じだなぁ」

午前中の講義を終えて空きコマの暇を潰すために、屋上までやってきた
大学で一年間過ごして友達ができなかった僕の憩いの場所それが、この屋上だ
季節は春、新入生が入学してきて僕は晴れて大学2年生になった
と、言ってもこの自由度の高い大学において、学年というものは、ただの数字に過ぎない
強いて言うなら新入生だからという免罪符が効かなくなったくらいだろう

「春だけど日が当たると、結構暑いんだなぁ」
誰に言うでもない独り言が空に消えていく
元々友達付き合いは上手くないし、自分から積極的に作ろうともしない
その結果がこれだ
…わかってたけど、ちょっと寂しい
校内を元気に歩く二人組や三人組の大学生を見て一人ため息をつく

まぁ、一人も気楽でいいけど

僕は周りを見て、誰もいないことを確認し太陽で温まった屋上のデッキに腰を下ろす
寝っ転がって、空を見上げると午前まで曇っていたとは思えないぐらいの雲一つない晴天が目の前に広がる

──あぁ、寝れそうだ

半分も内容の入っていない午前の授業の疲れがどっと出て、このまどろみに身を任せたくなる

少しの間、目を瞑りデッキに寝転んでいると
まぶたに映る暖かな明るい光が急に消えた
何かと思って目を開けると、逆さの顔が目に飛び込んできた

「うわっ!」
僕は驚いて、飛び起きる
目の前に現れた男はこの暖かさには似合わない、 黒いタートルネックにロングコートを羽織り笑みを浮かべていた

「だ、誰ですか?」

「驚かせてしまって、すまない。
屋上に来てみたら、人が倒れているようだったから、
つい、死んでいるのではないかと気になってね。」

「あっ、それはすみません」

「いえ、構わないよ。
それにしても、今日は暖かいね、絶好のお昼寝日和と
いったところだろうか。」

「そ、そう…ですね」

男は不思議な話し方で、ただの雑談をペラペラと繰り広げる
無視するわけにもいかないので一応相槌を返すが
どこからどう見ても、変な人だ

「君!今、僕のことを変な奴だと思っただろう。」

「えっ?そ、そんなことないですよ!」

急に鋭い目になりそう僕に告げた男に
心を読まれたのかなんて、非現実的なことを考えてしまう
この人だったら、そんな能力持っていそうだが…

「いやいいんだ、変な人と思われることは、僕にとって
は、褒め言葉だからね。
存分に言ってくれたまえ。」

相当変な人だ、やばい、離れないと
そんなことを思っていると、男は急に距離を詰めてきた

「君、探偵に興味はないかい?」

「は? 探偵…ですか?」
意味がわからなすぎてつい聞き返してしまう

「そう探偵さ」

男は腕を組みうんうんと頷きながら、自信満々に僕の問いに答える
「探偵って、あの?」

「そう、あの探偵。
猫を探したり、浮気を調査したり…その探偵さ。」

「えっと、マジで意味わからないです。その探偵が何な
んなんですか?」
僕は混乱する頭の中で、なんとか状況を整理しようと話を進める

「ああ、申し遅れた僕はこういうものなんだ。」

彼はそう言うとコートの胸ポケットから名刺を差し出した

「探偵…サークル?」

名刺には〈探偵サークル部長〉と書かれている

「そう、僕は探偵サークルの部長をやっている。
とは言ってもサークルメンバーは、まだ僕一人。正式
にサークルと決まっているわけではないのだけれどね
今、メンバーを集めていて、たまたま屋上に来たら、
君がいた、というわけさ。」

「はぁ、」

男は熱心に早口でそうを説明する

「僕は、君が探偵に向いてると思うのだよ。」

「…向いてる?」

「そう!僕から見たら、君は探偵に向いている!
いや、正確には、探偵の助手に向いている!
僕という探偵の助手になるべきして生まれてきたと言
っても過言ではないだろう!!」

男は自信に満ちた顔でそう、断言する
いや、そんな意味わかんないこと言われても探偵とか興味ないですし、っていうか助手ってなんだよ
そんなことを思いながら、黙っているとどうやら、顔に出たようで

「おや、嫌かい?君なら喜んで引き受けてくれると思っ
たのだが。」

と、少しシュンとした顔で言う
何を根拠に言っているんだろうか?
とりあえず断らなければ、そう思い断る、口実を考える

「嫌というか急に言われても困るというか」

「そうか、急だからいけなかったんだね!
ならば、こうしよう!今から一週間、お試しで、僕の
助手をしてみるというのはどうかね?」

「お試し…?」

「そう、一週間のお試し期間さ、大抵のものにあるだ
ろ、トライアルってやつだ。」

「トライアルって、どちらかというと、僕が借りられる方
じゃないですか?」

「まぁまぁ、きっと一週間試したら、君は僕の助手にな
りたいと思うだろう!」

「ならなかったら、断っていいんですか?」

「あぁ、もちろんさ。
まあ、そんなことは絶対に起こらないだろうがね。」

本当にどう考えたら、その自信に繋がるのだろうか?
けれど、このまま話していても、この人は聞く耳を持たない気がする
諦めて一週間付き合ってみるか、どうせ暇だし

「分かりました、一週間だけお試ししてみます」

「本当かい?!ありがとう!!」

男は笑顔で僕に詰め寄り

「それでは、これからよろしくワトソン君!!」

そう言って手を握ってきた

「うおっ、は、はい」

こうして僕と男の奇妙な探偵生活が始まるのだった






というのが、僕と先生の出会いです

──へぇ、大学生の頃からのお付き合いなんですね。

まぁ、はいそこから色々あって、今のこの探偵事務所を開きました

──大学生のサークル活動からこの街で1番有名な探偵事務所になるなんて、物語の中のようですね。

ほんとそうですね、自分でも不思議な感じです
まるで誰かの書いた物語の中の主人公なんじゃないかってたまに思います
まあ、そんなわけないんですけどね


僕は、そう冗談まがいに笑いながら、あの日と同じような綺麗な快晴の窓の外を眺めていた




お題:『快晴』

2/5/2024, 2:13:25 PM

久しぶりの雪予報
昔は素直にはしゃげたのに
今は何となく憂鬱、そんなところで成長を感じる
電車止まるかな?バス遅れるかな?
なんて現実味のあることばかり考えて
19だけど
やっぱり大人になってるんだな、なんて思ったりして
窓の外で風に流れる雪を横目に
いつものようにスマホを手に取る



...ピコン

【雪積もったよ!】
【さっき雪だるま作ったんだ、見て!みて!】

はしゃいでる君からのLINEの通知
同い年のはずなのに
まだ雪にウキウキしてる君の姿を想像して
そんな君がかわいいなぁって
雪ではしゃいでる君を近くで見たかったなぁって
そんな君への気持ちで溢れてく

いつか絶対君と一緒に雪が見たい
雪ではしゃいで笑顔な君を
特等席で見せてほしい

それまでこの溢れる気持ちは
心の奥にしまっておこう



お題:『溢れる気持ち』

5/8/2023, 4:16:45 PM

“あなたは1年後、どうなっていたいですか?”
その質問を前に僕の手は止まった

大学2年生の春、4月生まれで20歳になったばかりの僕は未だに大学の交友関係もできず
サークルにも入っておらず
大学とバイト先と家をただただ往復するだけの毎日を過ごしていた
自分の興味のある分野に進んでみたものはいいものの
おじいちゃん先生が1時間半しゃべり続けるだけのつまらない授業
クラスの大半は、寝ているか、他の授業の内職をしている
今、僕の手元にあるプリントだって、提出物でも何でもないし
ただ、聞くだけでやることもない授業の暇つぶしとして行っていたワークシートだ

1年後どうなっていたいか
…正直、今の自分には全く想像ができない
なりたい職業も特にないし
やりたいことも特にない
1年後21歳になった僕は何をしているのだろうか
みんなと同じように就活の準備をして、足りない分の単位は適当に補って、何の代わり映えもない毎日を送るのだろうか
シャーペンを机の上でトントンと叩きながら、プリントとにらめっこしているうちに
キーンコーンカーンコーン
と授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った
いつものように手際よく荷物を鞄の中にしまい
誰よりも早く講義室を後にする

「ねぇ、君!」
講義室を出た瞬間後ろの方から大きな声が聞こえた
今、講義室を出たのは僕しかいない
つまり、この声は僕に話しかけているということになるわけだ
何かしてしまったかと恐る恐る振り返ると
そこには赤色の派手髪に、耳には複数のピアスが輝くスラッとした女性が立っていた
「はっ、はい僕になにか…?」
ビビりながら震える声で問いかける
すると彼女は距離を詰め、僕の両手を握り目を輝かせながら、こう言った
「私と一緒にバンドしよう!!!」
「え?」
思わず素っ頓狂な声が零れる
……ん?今彼女はなんと言った?バンドをしよう?
とっさのことに脳の処理が追いつかず固まってしまう
そんな僕を見ながら彼女は追い打ちをかけるように早口で続ける
「私と一緒にバンドをしよう!私がギターとボーカル、君はドラム!ピアノとベースはもう揃ってるから、君が来れば完璧!」
彼女は僕の手を握りながら話を進める
僕は圧倒されながらも必死に答える
「…バンド?いや、そもそもドラムなんてやったことないですし無理ですよ」
「えっ、やったことないの?リズム感完璧だからてっきりドラム経験者かと思った。でも大丈夫!君の実力ならすぐにでも叩けるようになるよ!」
彼女の熱量が、繋いだ手と見つめる瞳から伝わってくる
「いや、でも」
「でもじゃない!やってみなきゃ分かんないじゃん!?えっと…とりあえず、この後空いてる?」
「えっ、ま、まぁ」
「よし、なら決まり!私たちのバンド見に来て!」
そう言って僕の手を引き、人のほとんどいなくなった廊下をぐいぐいと進んでいく
「ものは試し試し!ほら、ついた!」
そう言って止まった先には少し古びた講義室の扉があった
彼女は扉の前に立ち、勢いよく扉を開ける
そして、僕のほうを振り返り、これでもかという満面の笑みで僕に言った

『私たちのバンドへようこそ!!!』

その時、
ただただ同じことを繰り返すだけだったボクの毎日が、彼女の手によって何か変わろうとしているのを感じた


一年後の自分は意外と楽しいことになってるかもしれない
僕はそう思いながら扉の中の世界へ足を踏み入れた




お題:『一年後』

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