七風

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「うわぁ、眩しい、まさに快晴って感じだなぁ」

午前中の講義を終えて空きコマの暇を潰すために、屋上までやってきた
大学で一年間過ごして友達ができなかった僕の憩いの場所それが、この屋上だ
季節は春、新入生が入学してきて僕は晴れて大学2年生になった
と、言ってもこの自由度の高い大学において、学年というものは、ただの数字に過ぎない
強いて言うなら新入生だからという免罪符が効かなくなったくらいだろう

「春だけど日が当たると、結構暑いんだなぁ」
誰に言うでもない独り言が空に消えていく
元々友達付き合いは上手くないし、自分から積極的に作ろうともしない
その結果がこれだ
…わかってたけど、ちょっと寂しい
校内を元気に歩く二人組や三人組の大学生を見て一人ため息をつく

まぁ、一人も気楽でいいけど

僕は周りを見て、誰もいないことを確認し太陽で温まった屋上のデッキに腰を下ろす
寝っ転がって、空を見上げると午前まで曇っていたとは思えないぐらいの雲一つない晴天が目の前に広がる

──あぁ、寝れそうだ

半分も内容の入っていない午前の授業の疲れがどっと出て、このまどろみに身を任せたくなる

少しの間、目を瞑りデッキに寝転んでいると
まぶたに映る暖かな明るい光が急に消えた
何かと思って目を開けると、逆さの顔が目に飛び込んできた

「うわっ!」
僕は驚いて、飛び起きる
目の前に現れた男はこの暖かさには似合わない、 黒いタートルネックにロングコートを羽織り笑みを浮かべていた

「だ、誰ですか?」

「驚かせてしまって、すまない。
屋上に来てみたら、人が倒れているようだったから、
つい、死んでいるのではないかと気になってね。」

「あっ、それはすみません」

「いえ、構わないよ。
それにしても、今日は暖かいね、絶好のお昼寝日和と
いったところだろうか。」

「そ、そう…ですね」

男は不思議な話し方で、ただの雑談をペラペラと繰り広げる
無視するわけにもいかないので一応相槌を返すが
どこからどう見ても、変な人だ

「君!今、僕のことを変な奴だと思っただろう。」

「えっ?そ、そんなことないですよ!」

急に鋭い目になりそう僕に告げた男に
心を読まれたのかなんて、非現実的なことを考えてしまう
この人だったら、そんな能力持っていそうだが…

「いやいいんだ、変な人と思われることは、僕にとって
は、褒め言葉だからね。
存分に言ってくれたまえ。」

相当変な人だ、やばい、離れないと
そんなことを思っていると、男は急に距離を詰めてきた

「君、探偵に興味はないかい?」

「は? 探偵…ですか?」
意味がわからなすぎてつい聞き返してしまう

「そう探偵さ」

男は腕を組みうんうんと頷きながら、自信満々に僕の問いに答える
「探偵って、あの?」

「そう、あの探偵。
猫を探したり、浮気を調査したり…その探偵さ。」

「えっと、マジで意味わからないです。その探偵が何な
んなんですか?」
僕は混乱する頭の中で、なんとか状況を整理しようと話を進める

「ああ、申し遅れた僕はこういうものなんだ。」

彼はそう言うとコートの胸ポケットから名刺を差し出した

「探偵…サークル?」

名刺には〈探偵サークル部長〉と書かれている

「そう、僕は探偵サークルの部長をやっている。
とは言ってもサークルメンバーは、まだ僕一人。正式
にサークルと決まっているわけではないのだけれどね
今、メンバーを集めていて、たまたま屋上に来たら、
君がいた、というわけさ。」

「はぁ、」

男は熱心に早口でそうを説明する

「僕は、君が探偵に向いてると思うのだよ。」

「…向いてる?」

「そう!僕から見たら、君は探偵に向いている!
いや、正確には、探偵の助手に向いている!
僕という探偵の助手になるべきして生まれてきたと言
っても過言ではないだろう!!」

男は自信に満ちた顔でそう、断言する
いや、そんな意味わかんないこと言われても探偵とか興味ないですし、っていうか助手ってなんだよ
そんなことを思いながら、黙っているとどうやら、顔に出たようで

「おや、嫌かい?君なら喜んで引き受けてくれると思っ
たのだが。」

と、少しシュンとした顔で言う
何を根拠に言っているんだろうか?
とりあえず断らなければ、そう思い断る、口実を考える

「嫌というか急に言われても困るというか」

「そうか、急だからいけなかったんだね!
ならば、こうしよう!今から一週間、お試しで、僕の
助手をしてみるというのはどうかね?」

「お試し…?」

「そう、一週間のお試し期間さ、大抵のものにあるだ
ろ、トライアルってやつだ。」

「トライアルって、どちらかというと、僕が借りられる方
じゃないですか?」

「まぁまぁ、きっと一週間試したら、君は僕の助手にな
りたいと思うだろう!」

「ならなかったら、断っていいんですか?」

「あぁ、もちろんさ。
まあ、そんなことは絶対に起こらないだろうがね。」

本当にどう考えたら、その自信に繋がるのだろうか?
けれど、このまま話していても、この人は聞く耳を持たない気がする
諦めて一週間付き合ってみるか、どうせ暇だし

「分かりました、一週間だけお試ししてみます」

「本当かい?!ありがとう!!」

男は笑顔で僕に詰め寄り

「それでは、これからよろしくワトソン君!!」

そう言って手を握ってきた

「うおっ、は、はい」

こうして僕と男の奇妙な探偵生活が始まるのだった






というのが、僕と先生の出会いです

──へぇ、大学生の頃からのお付き合いなんですね。

まぁ、はいそこから色々あって、今のこの探偵事務所を開きました

──大学生のサークル活動からこの街で1番有名な探偵事務所になるなんて、物語の中のようですね。

ほんとそうですね、自分でも不思議な感じです
まるで誰かの書いた物語の中の主人公なんじゃないかってたまに思います
まあ、そんなわけないんですけどね


僕は、そう冗談まがいに笑いながら、あの日と同じような綺麗な快晴の窓の外を眺めていた




お題:『快晴』

4/13/2024, 1:21:33 PM