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6/9/2024, 1:37:52 PM

「朝日の温もり」


朝は目を覚ましてベットから起き上がる。その動作は体に染み付いていて、意識しなくとも自然とそうなる。
自室は、窓はなく机と椅子とベットだけというシンプルなものだった。見慣れている光景だから、別にどうと言う感情も湧かない。

当たり前の動作と考えを終えて、椅子に座る。自分の太腿の上に置いた自分の手を見つめながら、今日は何をしようかと考える。これも自分にとって当たり前の動作であり、やはり自然とそうなるのだ。そして、次にやはり自分はおかしいのだと思う。

これは夢だと思うと、次の瞬間にはいつもの見慣れた無機質でなんの感情も抱いていなさそうな白い天井があるのだから。

今回ではどのくらい寝てしまっていたのだろう。一週間か、それとも1ヶ月か。
冬眠、とでと言うのだろうか。吸血鬼というのは不便なものだ。蝙蝠に擬態できるとはいえ、流石に代償が大きすぎるだろう。
いや、そんな事よりももっと言うことがあった

「私っ、を、ち、っそく…させる、気か…此奴…!?」

布団が重い。勢いに任せて思い切り蹴飛ばすと、ちょうど部屋に入ってきた私を窒息させようとしてきた張本人に当たってそのまま後ろへ倒れた。

ゲホゲホと咳き込みながら布団から這い上がる。そのままカーテンを開けると、朝日が差し込んできた。
私が起きたことに気付き、驚く彼を横目に見つつ、久しぶりの朝日をゆっくりと見つめる。

いつの日か、また外に出てみたいものだと思いながら。

5/27/2024, 2:47:33 PM

「天国と地獄」




お前の罪は私が背負おう。だから、何も心配する必要はない。


そう言われたのは、わたしが赤い目の男に会って数ヶ月したところだったと思う。




赤い目の男と会う前のわたしの人生は、全てが苦痛でしかなかった。元々、愛想の良いわけではなかった。そのせいか、親戚にたらい回しにされ、結局引き取られた先でも捌け口にされる。わたしの年は、いくつか忘れてしまいかけていたけど、確か12であったと思う。
無論、学校でも自分の噂が流れているのでいい気はしなかったが、幾分かマシだった。

そんなとある日だった。

夜遅くに家の外へ追い出されたのは、きっと酒でも飲んで気がおかしくなっていたのだろう。髪を掴まれ引きずられながら外へほっぽり出された。
雪が積もっていて、朝まで生きられるかどうか。
いっそこのまま眠ってしまえば楽なのではないか。そう思いながら目を瞑った。

何らかの気配を感じ、顔を上げる。月明かりが眩しい夜だった。
目の前には人。自分よりも遥かに大きかった。180…いや190センチであろうか。そんな事よりも、どうして人がこんなところにいるのだろう。

赤い目が、ぎらりと光ったのを今でも覚えている。

それが、赤い目の男とわたしの出会いであった。

その赤い目の男は、わたしを見るなり奥歯をぎしりと音がするほどに噛んで、わたしを抱えた。
寒さでおかしくなったのだろう。疲れと寒さで目が閉じる。

そのあと起こったことは知らない。
気付いたらマンションの一室にいて、赤い目の男がご飯をくれて。

どうしてこの男は私にこんなに尽くしてくれるのだろう。
不思議でしょうがなかった。

赤い目の男。
初めて会ったはずなのに、どうしてこんなに。
わからない。しらない。私は知らない。


ただ赤い目の男の眼を見ると、どうしても嫌なものが映る。


誰だ。私はお前なんて知らない。
弓矢で射られたその男を、、私は知らない。

5/25/2024, 3:09:03 PM

「降り止まない雨」


喧嘩をした。
ただの意見の食い違いによる口論だった。
だったのだが、頭に血が昇っていたのか、つい口調が強くなってしまった。

彼が出て行った玄関は、少しだけ開いていて、風が入ってくる。冷たかった。そのまま玄関を開けると、ポツポツと雨が降り出した。
すぐにハッとした。そして、急いで傘を持って走った。

彼を探している途中、雨は無情にも強くなるばかり。これでは私の声も彼の声も聞こえはしない。
バシャリと水溜まりを踏んだ横断歩道で彼を見つけた。
信号が青になった途端に走り出す。傘を投げ出して、彼を抱きしめるために腕を伸ばす。傘なんかどうでもいい。今はただ彼を抱きしめたい。

彼の体は冷たかった。抱きしめる力を強くして、なんとか温めようとするが、私も雨に濡れて体の芯から冷えていたのであまり意味はなかったかもしれない。

「…許してくれますか」
神にでも聞くかのように丁寧に、そして思いを込めてそう聞いた。

「…」


彼は小さく、ただ‘はい’とだけ。
彼の許しを受ける。ちょうど雨も上がったところだ。

5/19/2024, 10:23:48 AM

「突然の別れ」



声も出ない。時間の感覚がない。
呆然としたまま、その場に膝から崩れ落ちることしかできなかった。

「……ぁ」

やっと出てきた声は、とてもか細くて弱々しい。

嬉しいのか、はたまた驚きか、というよりも、それよりもその事実が信じられない。

後ろでドアが開く音がして振り返ると彼が居た。
私のことをとても白い目で見てくる。 


「…」


「…それはどこで手に入れた。申せ。言え。早く。」


何も言わずにすぐさま回れ右して逃げた。
私は失念していた。そう言えば彼は吸血鬼だからその気になれば飛べることを。彼が吸血鬼の能力を忌み嫌い使わなかったことですんごい忘れていた。



数時間後、パチパチと火の燃える音がキッチンから聞こえてくる。それと啜り泣く声が。


せっかく見つけた彼の幼い頃の写真が……

5/18/2024, 2:06:17 PM

「恋物語」


とある男の叶わぬ⬛︎でした。

第一印象は最悪で、出会って一日目で喧嘩をしました。

自分と大体同じような10歳くらいの年齢なのに、彼の高圧的な態度に何度も嫌気が差しましたが、その大体は的を得ている発言で、男は何も言えませんでした。

何ヶ月かすると、彼と男の間には友情とも愛情とも絆とも言えぬ関係に落ち着きました。


とある日、男はとある噂を聞きました。

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎はこの国を不幸にしている。
彼奴は元々異国の者だ。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を火炙りで殺そう。彼奴は怪物だ。殺さなければ。殺さなければ。』


男はゾッとしながら、急いで彼を探しました。
彼は自室で本を読んでいました。

男は彼に告げました。この国にいてはいけない。
君は殺されてしまうから、急いで逃げて。

彼は目を見開いて驚きました。そして男に詰め寄りました。何故、何故自分がこんな仕打ちを受けるのかと。



死んだような夜でした。


男は彼の手を引いて、森を走っていました。
奥からは国の兵士たちが追ってきます。

男は、彼の手を離さないように力強く握り締めました。
彼もまた握り返しました。


ヒュン。と音がしました。男の胸には一筋の矢。
赤く赤く、白かったシャツが染められていきました。

彼は後ろを振り返り、男の手を取りました。
男はその手を振り解きました。

はやくにげろ。どうかいきてほしい。

そう男は言うと、男の目は濁っていきました。


彼は酷く困惑しました。途端に涙が溢れてきました。
何故か胸がとても痛い。
矢に打たれたのは男の方なのに。

兵士たちは、彼を捉えようと手を伸ばします。
ですがその手は空を掴んで倒れます。真っ白の兵士。身体中の血液を全て喰われたかのようでした。

彼は、男の屍に抱きつきました。


彼にとって初めての友人に感謝と別れを告げました。



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