「後悔」
「やらかした」
頭を抱えて項垂れる。
つい先月、私は親友を残して死んだ。
せめて死ぬのなら老衰が良かったなと思いながら死んだのを覚えている。若い頃、いや年取っても健康優良児だったハズだったんだが。人間は意外と根性論でどうにかならないらしい。
毎日毎日、甲斐甲斐しく見舞いに来てくれる彼の顔を見ると、コイツより絶対に長生きしてやると息巻いていた。
直接言ってみたこともある。そしたら彼は鼻で笑った。
「当たり前だよ」
歳かな。たったそんな言葉で涙腺がバカになった。
彼はそんな私を小馬鹿にするかと思えば、案外、優しいところはあるようで、微笑みながら泣き止むのを待っていた。
ちなみにこんな奴なのでちゃんと葬式にも参列してくれた。葬儀場の照明のせいか、死人が言うのもあれだが、今にも死ぬのではないかと思う顔をしていた。
そんな良い友人を残して死んだ私は後悔に満ちている。
死んでも死にきれない、という言葉がまさか自分にも当てはまる時が来ようとは。
そして、死んでも死にきれない、成仏しきれない私は現在親友の目の前に立っている。
化けて出る、とはよく言うが、実際にそんな融通は効かないようで、見えないらしい。
「愛を叫ぶ」
ORASのSwitch移植を何卒
「モンシロチョウ」
人は死んだら蝶になる。
そう私に言ったあの男の葬式は、つい、先月のことだった。
その男とは腐れ縁とも言おうか。私は自分でも自覚があるのだが、どうにも友人と言うには恥ずかしいのである。
その恥ずかしいという感情が、嬉しいという感情だと分かっているはずなのに。難儀な生き物だと思う。
__話がそれてしまったので戻そう。年寄りになると無駄に話が長くなる。
そんなあの男とは随分と、自分たちが思っているよりも長い付き合いになっていたと思う。
最初は、確か、私が30かそこらで、あの男は20になったばかりの頃か。同じ研究員のチームとしてデスクが隣りだったことから始まった。
私とは違って明るい奴だった。若さゆえかな。違うか。
当然、人間なので会話の一つや二つを交わす。そしたら何とも反りの合わない人間であることがお互いに判明した。
そして、まぁ、つまりとても仲の悪い奴らとして同じ研究チームの同僚からは揶揄われることとなった。今では笑い話か、一緒に笑っていたハズだった男は先月死んでしまったが。
しかしお互いに思考は似通っていたのか。食の好みは意外に合うし、仕事のやり方などはお互い目を見張るものがあった。
結局、月日を重ねるうちに、反りは合わないが一緒にいて不快にはならない、という不思議な関係に落ち着いたのである。
そんな腐れ縁の男が死んでしまった私は、1人寂しく墓の前でせっせこ花を変えてやっているのである。地獄のアイツも報われることだろう。天国かもしれないが。まぁ地獄でも良いだろ。タフだし。
「生まれ変わったら蝶になるとかなんとか、くっさいこと言っていたけど、結局、人は死んだら骨だけだよ」
まだ梅雨入り前だというのに少し湿っぽい風が肌にまとわりつく。空はからりと晴れた晴天であるのに。
強い日差しを浴びた花は、首をもたげて項垂れる。
あれでは蝶も寄り付かないだろう。ちらりと横目に見てそう思う。私も随分、詩的な人間かもしれない。
ふと視線を戻すと目の前に白いものがある。
モンシロチョウであった。
それはヒラリと身を翻すと、私の鼻に止まってまた空へと飛んでいく。
化けて出るには早いというのに。
ふ、と笑いを漏らす。
あぁ 歳はとりたくない。涙腺がバカになってきかないからだ。
「明日世界が終わるなら……」
大して美味くなかった牛タンが最期の食事は嫌すぎるので、それよりは美味いものが食べたい。
「ところにより雨」
「あら?やっぱり、てるてる坊主なんて意味ないじゃないですか!もうっ!」
「てるてる坊主は悪くないだろう」
いま、俺の目の前で文句垂れる女は生粋の雨女である。
いくらニュースで明日が晴れだと言われようと、いくらてるてる坊主を作ろうと、この女が一歩外に出れば、なんと不思議。立ちどころ雨が降り出す始末。
1度だけ「お前は雨女だ」と言ったことがある。
そしたらコイツはなんと返してきたと思う。
「そんなはずありません!人を揶揄うのはやめてください!」
なんなんだコイツは。
そうして今日も雨が降る。
この復興地の畑は今日もうるおう。
そうして1人の軍人の男と1人の修道士の女は、今日も雨に濡れながら街の復興作業にいそしむのである。