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8/26/2024, 4:49:02 PM

「私の日記帳」


9月7日 晴れ

今日は彼奴が飴をくれた。2日後はおれの誕生日だから、毎日こうやってものをくれるのだと。
誕生日の当日はもっとすごいのをくれるらしい。
楽しみだ。きょうは少し早めに寝よう。
最近、疲れてるのか、すぐに息切れを起こしたりする。
外に出て運動でもするか。


9月8日 曇り

今日は体調がすぐれない。そのせいで彼奴に心配をかけてしまった。明日はおれの誕生日だから、海に行ける日だ。おれの先祖はなんでも海賊だったらしい。その影響だとは思わないが、おれは海が好きだ。
どこまで自由に続く海が昔から好きだった。
咳がひどい。熱も出てきた。明日は病院に











彼奴の日記帳を受け取ったのは、彼奴の葬式の三日後

8/19/2024, 2:33:04 PM

『空模様』


「傘を返してくれ」
下駄箱で、くすくすと笑う“男”と“女”を見てそう言った

時間は放課後。昼間はカンカンに晴れていたのに、今は雨が音を立てて降っていた。天気予報では一日中晴れ間が続くと言われていたので傘を持ってきた奴はおれの他に少しだけだった。
皆んなも占いぐらいすれば良いのに。心の中でそう思いながら教室から出る。
家で朝と夕と夜、少なくとも計3回はタロットカードの結果で物事を決めている。それに、占いの結果が外れたことなんてないから親も何も言ってこない。いや、そもそも親なんて自分にはいるようでいないものだから違うかもしれない。
前に学校でタロットカードを取り出したら周りの奴らに盗られそうになったから学校では占いができない。
親なんて呼ばれたら今日食べるご飯もなくなる。別にご飯なんて出されたことないけど。おれは昔からお婆様に育てられてきたから、自分の母にあたる女の作った飯の味など知らない。

ぐるぐると要らない思考が入ってくるのを頭を振って忘れようとする。下駄箱に着き、自分の靴を取り出して傘を取ろうとするが、そこにはあるはずの自分の傘がない。周りをキョロキョロと探すが、やはり見つからない。
誰かに隠されたか、それともなくしたか。
暫く探していると、後ろからクスクスと複数の笑う声が聞こえた。やっぱりか、そう思いながら後ろを振り返ると、いつもと同じ顔ぶれだ。
化粧の濃い、汚い女
爪が長くて、おれのカードを奪った女
口が汚く、うるさい男
髪色が汚く、下品極まりない男。
嫌になるほど憂鬱な気分になる。見てるだけで気が滅入るようなこんな下品な集団に自分のものを触られたと考えるだけで吐き気がする。

「傘を返してくれ」

そう言うが、やはり嘲るかのようにこちらをニヤニヤと見ながら笑う。気持ち悪い。

「あれは、おれの大切な物だ。返せ」

少しだけ語気を強くする。あの傘は、おれの爺様から貰った、いわば形見のような物だったから。
すると、そいつらおれの反応が気に入らなかったのか、ズカズカとおれに近づいて胸ぐらを掴む。

『#/@tjegP@mxpaWjp@!!』

何を言っているんだろう。聞く気がないから何を言っているのか分からない。こいつらの言う言葉は聞く価値もないので、おれが聞くとよく分からなくなる。
おれの胸ぐらを掴んできたやつは、右手で拳を作り、振りかぶっておれの左頬を殴った。
唇の端が切れて血が流れる。目にも当たったせいでちかちかする。
それでも尚、そいつらを睨みつけていると、そいつらの後ろから見慣れた奴がそいつらをバットで殴りつけた。
死んではいないだろうが、気絶はしているだろう。そう思いながら襟を直す。

バットで後ろから殴りつけた奴は、おれの家の近くに住んでいる。いわゆる不良だが、成績優秀で家庭科が得意だ。同じくそいつとつるんでいる真っ赤な紅色をした男も、不良だが勉強ができる。
というか、何故こいつらここにいるのだろうか。ここは市の北にある高校なのだが、こいつらの学校は南にあるのだ。

『おい、お前なんでまた絡まれてんだよ。殴ればいいだろーが。馬鹿が。』

『大丈夫か?これ、傘。お前のだろ?』

傘を受け取り、礼をして帰路につく。
あいつらはバイクの二人乗りで帰って行った。


今の空模様は晴れ。先ほどの雨は天気雨のようだ

8/16/2024, 2:19:40 AM

「夜の海」 



夜の海には行っちゃいけないよ。怖いお化けに連れ去られるからね。

俺の婆様が生きてた頃にずっと俺に言い聞かせていた話。正直、夜に出歩くのは危険だからやめろ、という注意を子供に覚えさせるための作り話だと思った。

俺は別に幽霊とか宇宙人とか、そんなの信じちゃいなかったし。
正直、婆様は俺のことを子供に見すぎている。
14歳だった俺に、怖いお化け、なんてこと言って信じるとでも思っていたのだろうか。
だけど、婆様は俺に優しくしてくれたし嫌いでもなかったからそんな野暮なことは婆様が亡くなってからも言わない。

俺の16歳の誕生日、望遠鏡を買ってもらったのを覚えてる。16歳の俺の趣味は星を見ることだったから、とても心躍ったのを覚えているし、その日の夜は寝ずに星を眺めていたのを覚えてもいる。

ある夜、その日はとても綺麗な夜空だったから外に出て星を見たかった。
親に言っても反対されるだろうと思ったし、それに星を見る場所は前から決めてた近くの海の砂浜だったから平気だと思い、家を抜け出した。


砂浜の砂が靴に入るのを鬱陶しく思いながら海を見る。
海には夜空が映っていた。むしろ海が夜空のようだったと言った方が、表し方に合っているのかもしれない。

いざ望遠鏡を覗こうとすると、後ろから足音がした。
まさか父さんにバレたのか?そう思いながら振り返ると、そこには一人の人、がいた。

綺麗な金髪、いや銀髪だろうか。どちらにせよ綺麗な髪色をした人がいた。年は俺より2個下だろうか。
少し袖が余るくらいの白のカッターシャツを着て、足は裸足だった。女、だろうか。

その人は俺のことをじっと見つめている。少しの沈黙が流れた後、その人は口を開いた。


『ここはおれの家の土地だぞ』


なんと、男だったのか。いやそれよりも、此処が私有地だったとは。すぐに彼に背を向けて急いで望遠鏡を片付けて、彼に謝ろうと前を向く。

「ごめん、ここが私有地だったとは知らなかった」

『…』

彼は黙ったままだった。怒っているだろう。勝手に知らない奴が家の庭に入ってきて、勝手に望遠鏡で星を見ようとしたんだ。

『星、好きなのか』

彼はそう言った。
俺はすかさず頷いた。それが彼にとって可笑しかったのか、クスリと笑った。

『おれも星は嫌いじゃない。だけど海の方がおれは好きだ』

海を指差す彼は、どこか懐かしそうな顔で海を見る。
まるで故郷が海であるかのように。

『おれの先祖は海賊なんだ』

彼はポツリとそう言った。

それが彼奴との出会いの話。

8/14/2024, 2:21:13 PM

「自転車に乗って」 




自転車に乗って、森を走り抜ける。
森があけたら花畑を走り抜ける。

天気のいい日だったから、君に会いたくて来た。
なんてドラマチックな歯痒いセリフを考えながら、自転車を漕ぐ。
風が気持ちよかった。優しく包み込むような風。
海が近いからか、潮の匂いが少し香ってくる。

彼の家は海の近く。彼が言うには、
「俺の先祖は海賊だったから、ひいひい爺様がここに家を建てた。」らしい。 

海賊と聞けば、ここの土地には古くからの言い伝えがあった。

ある海賊船の船長と、この土地で一番勇敢だった警官が四度渡り合ったらしい。三度目までは、警官と海賊の対談で済んだのだが、四度目に渡り合ったときそれは起こった、警官が海賊の額に銃を突きつけた。これ以上、この島に滞在するのなら撃つと、けれど引き金は引けなかった。警官はこの海賊船の船長を知っていたのだ。
なんでもその海賊と警官は幼馴染であり、昔は兄弟とも言えるような仲だったと言う。

警官が迷っていると、その海賊はこう言った。

『引き金を引け。海賊の、それも船長に情けをかけるのか。おまえは、』

警官が未だ迷っていると、海賊は踵を返す。
警官は慌てて声を張り上げる。

『待て!!そこで止まれ、貴様のような悪党を見過ごせはできない。』


海賊は心底愉快そうに微笑み、船へ飛び乗った。
警官と海賊が渡り合った場所は島の海が一望できる崖で、船と崖の距離は十メートル近く離れていた。
それを海賊はいとも容易く軽やかに飛んだ。

綺麗な淡い色をした長い金髪が風に吹かれているのを呆気に取られながら見ていた。
…というのがこの土地の伝説だった。


なんともまぁ御伽話のようなものだと思う。
でも、あいつが海賊の子孫だと言うのは少しだけ納得してしまうかもしれない。

あいつはこの村の中で一人の金髪で、それもただの金色ではなく、淡く、角度を変えれば銀色のようにも見えるのだ。

海賊と警官の伝説。あいつが海賊ならば、おれは警官だろうか。そんなことを考えながら自転車を漕ぐ。
そよ風が吹き、自分の髪がなびく。短く切り揃えた茶色というか赤毛の髪が目にかかって少しチクリとした。


〜〜〜〜〜〜〜.


《海賊と警官の伝説》

(中略)曰く、この伝説を書き記したとされる者の日記には、海賊の髪が月のようだとしたら、警官は赤く燃えるような、優しい太陽のような髪色だったと記されていたと言う。

8/13/2024, 1:02:07 PM

「心の健康」

立っている。ただそこに立ち尽くしている。

前身も後進もせず、ただそこに己は立っていた。

圧倒的な不安に押し潰される。
目が霞む、呼吸がしづらい、手も足も感覚がない。
ただその不安に恐怖するしかできない。
助けも呼べない。助けを呼んだところで誰か自分なんかを助けてくれるんだ。思い上がりも甚だしい。

怖い。いつかこの不安が自分の体を壊してしまうような感覚が体を巡った。まだ自分の頭、首、手足があることを確認した。壊れていない。

いつか内側から破裂しそうな不安、恐怖、罪悪感、日々それらに怯えながら過ごしている自分自身がただひたすらに愚かに思えた。

謝罪してどうにかなるものでもなければ、死んで償うことなど到底出来ず、ただひたすらに苦しむだけ。



声に出す
「まだ生きている。」 

自分自身がこの場に存在していることを、自分が認めることで肯定する。大丈夫。

ひび割れていたらくっ付ければ良い。
ドロドロに溶けていたらかき集めて無理やり肩に当てはめれば良い。
半分無くしてしまったのなら違うもので埋めてしまえばいい。
全て無くしてしまったら代わりを見つければ良い。
自分が自分でなくなる感覚も、すぐなれるから。

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