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「自転車に乗って」 




自転車に乗って、森を走り抜ける。
森があけたら花畑を走り抜ける。

天気のいい日だったから、君に会いたくて来た。
なんてドラマチックな歯痒いセリフを考えながら、自転車を漕ぐ。
風が気持ちよかった。優しく包み込むような風。
海が近いからか、潮の匂いが少し香ってくる。

彼の家は海の近く。彼が言うには、
「俺の先祖は海賊だったから、ひいひい爺様がここに家を建てた。」らしい。 

海賊と聞けば、ここの土地には古くからの言い伝えがあった。

ある海賊船の船長と、この土地で一番勇敢だった警官が四度渡り合ったらしい。三度目までは、警官と海賊の対談で済んだのだが、四度目に渡り合ったときそれは起こった、警官が海賊の額に銃を突きつけた。これ以上、この島に滞在するのなら撃つと、けれど引き金は引けなかった。警官はこの海賊船の船長を知っていたのだ。
なんでもその海賊と警官は幼馴染であり、昔は兄弟とも言えるような仲だったと言う。

警官が迷っていると、その海賊はこう言った。

『引き金を引け。海賊の、それも船長に情けをかけるのか。おまえは、』

警官が未だ迷っていると、海賊は踵を返す。
警官は慌てて声を張り上げる。

『待て!!そこで止まれ、貴様のような悪党を見過ごせはできない。』


海賊は心底愉快そうに微笑み、船へ飛び乗った。
警官と海賊が渡り合った場所は島の海が一望できる崖で、船と崖の距離は十メートル近く離れていた。
それを海賊はいとも容易く軽やかに飛んだ。

綺麗な淡い色をした長い金髪が風に吹かれているのを呆気に取られながら見ていた。
…というのがこの土地の伝説だった。


なんともまぁ御伽話のようなものだと思う。
でも、あいつが海賊の子孫だと言うのは少しだけ納得してしまうかもしれない。

あいつはこの村の中で一人の金髪で、それもただの金色ではなく、淡く、角度を変えれば銀色のようにも見えるのだ。

海賊と警官の伝説。あいつが海賊ならば、おれは警官だろうか。そんなことを考えながら自転車を漕ぐ。
そよ風が吹き、自分の髪がなびく。短く切り揃えた茶色というか赤毛の髪が目にかかって少しチクリとした。


〜〜〜〜〜〜〜.


《海賊と警官の伝説》

(中略)曰く、この伝説を書き記したとされる者の日記には、海賊の髪が月のようだとしたら、警官は赤く燃えるような、優しい太陽のような髪色だったと記されていたと言う。

8/14/2024, 2:21:13 PM