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「夜の海」 



夜の海には行っちゃいけないよ。怖いお化けに連れ去られるからね。

俺の婆様が生きてた頃にずっと俺に言い聞かせていた話。正直、夜に出歩くのは危険だからやめろ、という注意を子供に覚えさせるための作り話だと思った。

俺は別に幽霊とか宇宙人とか、そんなの信じちゃいなかったし。
正直、婆様は俺のことを子供に見すぎている。
14歳だった俺に、怖いお化け、なんてこと言って信じるとでも思っていたのだろうか。
だけど、婆様は俺に優しくしてくれたし嫌いでもなかったからそんな野暮なことは婆様が亡くなってからも言わない。

俺の16歳の誕生日、望遠鏡を買ってもらったのを覚えてる。16歳の俺の趣味は星を見ることだったから、とても心躍ったのを覚えているし、その日の夜は寝ずに星を眺めていたのを覚えてもいる。

ある夜、その日はとても綺麗な夜空だったから外に出て星を見たかった。
親に言っても反対されるだろうと思ったし、それに星を見る場所は前から決めてた近くの海の砂浜だったから平気だと思い、家を抜け出した。


砂浜の砂が靴に入るのを鬱陶しく思いながら海を見る。
海には夜空が映っていた。むしろ海が夜空のようだったと言った方が、表し方に合っているのかもしれない。

いざ望遠鏡を覗こうとすると、後ろから足音がした。
まさか父さんにバレたのか?そう思いながら振り返ると、そこには一人の人、がいた。

綺麗な金髪、いや銀髪だろうか。どちらにせよ綺麗な髪色をした人がいた。年は俺より2個下だろうか。
少し袖が余るくらいの白のカッターシャツを着て、足は裸足だった。女、だろうか。

その人は俺のことをじっと見つめている。少しの沈黙が流れた後、その人は口を開いた。


『ここはおれの家の土地だぞ』


なんと、男だったのか。いやそれよりも、此処が私有地だったとは。すぐに彼に背を向けて急いで望遠鏡を片付けて、彼に謝ろうと前を向く。

「ごめん、ここが私有地だったとは知らなかった」

『…』

彼は黙ったままだった。怒っているだろう。勝手に知らない奴が家の庭に入ってきて、勝手に望遠鏡で星を見ようとしたんだ。

『星、好きなのか』

彼はそう言った。
俺はすかさず頷いた。それが彼にとって可笑しかったのか、クスリと笑った。

『おれも星は嫌いじゃない。だけど海の方がおれは好きだ』

海を指差す彼は、どこか懐かしそうな顔で海を見る。
まるで故郷が海であるかのように。

『おれの先祖は海賊なんだ』

彼はポツリとそう言った。

それが彼奴との出会いの話。

8/16/2024, 2:19:40 AM