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「降り止まない雨」


喧嘩をした。
ただの意見の食い違いによる口論だった。
だったのだが、頭に血が昇っていたのか、つい口調が強くなってしまった。

彼が出て行った玄関は、少しだけ開いていて、風が入ってくる。冷たかった。そのまま玄関を開けると、ポツポツと雨が降り出した。
すぐにハッとした。そして、急いで傘を持って走った。

彼を探している途中、雨は無情にも強くなるばかり。これでは私の声も彼の声も聞こえはしない。
バシャリと水溜まりを踏んだ横断歩道で彼を見つけた。
信号が青になった途端に走り出す。傘を投げ出して、彼を抱きしめるために腕を伸ばす。傘なんかどうでもいい。今はただ彼を抱きしめたい。

彼の体は冷たかった。抱きしめる力を強くして、なんとか温めようとするが、私も雨に濡れて体の芯から冷えていたのであまり意味はなかったかもしれない。

「…許してくれますか」
神にでも聞くかのように丁寧に、そして思いを込めてそう聞いた。

「…」


彼は小さく、ただ‘はい’とだけ。
彼の許しを受ける。ちょうど雨も上がったところだ。

5/25/2024, 3:09:03 PM