「ほんとに真っ赤だね」
「んね、燃えてるみたい」
「うちさ、赤い空って好きなんだよね」
「え、急に?」
「夕陽が沈む時とかさ」
「続けんの?」
「なんか、空って青いのに急に真っ赤になるとさ、非日常感があってワクワクする」
「非日常…………ね」
「ねえ、私がどう思おうが勝手じゃん」
「えー? だってさ、今空赤いのに非日常感なんて言われちゃあねえ?」
「この状況だって十分非日常だからいいじゃん!」
「まあ、確かに」
「…………世界の終わりって、ほんとに空が赤くなるんだねえ」
「それな、なんか感動」
「ね、生きているうちに世界の終わりと対面するとは思わなかった」
「あんたライブ行ってたじゃん」
「そっちのセカオワじゃねえよ」
「あはは!」
「…………メンタル強すぎん?」
「アンタも大概だかんね、なんで急に好きを語りだすのよ」
「世界の終わりだからこそ告白をするものよ」
「やっすい告白、もっとディープなのをしなさいよ」
「どんなのよ」
「ツ◯ッターでひたすらアンチとレスバしてたとか」
「ねえ! やめて! 忘れてたのに!」
「してたんかい」
「アンタもなんか告白しなさいよ! 世界の終わりにはディープな告白をするもんなんでしょ!?」
「あー…………」
「何よ! 私にさせておいて自分だけしないとかなしだからね!」
「…………じゃあ、この際だからするけど、引くなよ?」
「鼻で笑ってやるよ」
「やめれ」
「あはは! じょーだん、じょーだん!」
「…………あんね」
「うん」
「アタシ、あんたのことがずっと好きだったんよ」
「…………へ?」
「…………」
「マジ?」
「ああ! もう隕石落ちるまで後1分だって!」
「誤魔化すな! ちゃんと説明しろ!」
「いや、ほんま勘弁して…」
「じゃあ、せめていつから、いつから好きだったん!?」
「…………中3の時」
「わお! 思ったより前!」
「いや、マジ、もう忘れて」
「えー? やだ、忘れない」
「…………マジ勘弁」
「え? どうする? 最後に手でも繋いどく?」
「ムリ」
「どうせ最後だから、何してもいいじゃん」
「…………」
「あはは! 手ぇアッツ!」
「うるせえ」
「可愛いじゃん」
「黙れ」
「…………地球が終わっても来世ってあるのかな」
「さあ、死んだらわかんじゃない?」
「冷たっ! 態度冷た!」
「…………」
「ねえ、もし来世があったらさ」
「ん」
「そこでは付き合ってあげてもいいよ」
「…………バカ」
「ロマンチックっしょ?」
「…………そうね」
「ねえ、じゃあさ、こんな湿っぽい終わりは無しにしよっ!」
「まあ、それは賛成」
「じゃあカウントダウンしよ! 隕石が落ちるまで!」
「年越しかよ」
「似たようなもんでしょ!」
「まあね」
「じゃあ5秒前からね!」
「ん、おっけー」
「……5!」
「4」
「3!」
「2」
「1!」
「オキュロフィリア、ってご存知ですか?
眼球そのものの造形や、視覚を通じた官能に異常なほど執着する性的嗜好。
まあ、簡単に言えば眼球愛好者ってところでしょうか。
お恥ずかしながら、私もそういう性癖を持っている人間でして、好きな目を見るとどうしても手に入れたくなる。
あなたの目を初めて見たとき、思わず足を止めてしまいました。
色、形、大きさ……全てが私の理想通りで
『ずっと見つめていたい。』そう思ったのです。
私は、自分の本能に従順すぎるらしいのです。どうしても、あなたの目を手に入れたい。
でもね、私は学びました。過去の経験から。
目っていうのは、人の体から離れると死んでしまうんです。
まあ、中には死んだ目が好きだという人もいるようですが、私はダメでした。
あんなに好きで好きでたまらなかった眼球たちも、ホルマリンに沈めた途端、ただのガラクタに見えてしまう。
何度も試しました。
けれど、すべて無駄でした。
試行錯誤の末、ようやく気づいたのです。
私が欲しかったのは、“生きている目”なんだと。
……だから、方法を変えました。
あなたは記念すべき、私のコレクションの第一号、ということですね。
大丈夫、健康管理はお任せください。あなたには、長生きしてもらわないといけないので。
ああ、部屋は少し狭いし、身動きはほとんど取れませんが、これもあなたの美しい瞳を守るためなんです。
おや、どうしました? そんなに震えて。
……ああ、やっぱりあなたの目は美しい。その感情に溢れた目、生き生きとしている!
大きく開いた瞳孔。震える視線。滲んだ涙。
……どれも、たまらない。
これだから、目は生きている方が好きなんです。
…おや、少し話しすぎましたね。もうこんなに遅い時間になってしまいました。
あなたも寝た方がいいですよ。寝不足は目に悪いですからね。
それでは明日、またあなたの瞳に会いに来ます。
おやすみなさい。」
「うわぁ! キレー! やっぱりこの山にしてよかったね! すっごい綺麗な星空!」
「ああそうかい、そいつはよかったな」
「本当に綺麗。全部見てるみたい。」
「そんなもんだろ、星なんて」
「たっちゃんも見てみなよ! 今見とかないと損だよ?」
「俺は深夜に叩き起こされて最悪なんだよ。 満足したら帰るからな」
「もう、相変わらず冷たいんだから!」
「こんな時間に起こされれば誰だってこうなるって。 ほら、さっさと降りるぞ」
「ああん! 待ってー」
「それ、俺が持つよ」
「え? ああ! いいよ、自分で持つ。結構重いし、たっちゃんにこれ以上負担はかけられないよぉ」
「叩き起こされた時点で限界なんだよ。いいからよこせ」
「あ……相変わらず乱暴!」
「るっせ」
「じゃあ帰りの車は私が運転する!」
「ばっか、車の方が任せらんねぇって。 また俺の仕事を増やす気か?」
「だって、それだったら私何にもしてないじゃない!」
「だからなんもするなって! 大人しくしてろ!」
「頑固者!」
「そっちだって」
「ねえ、たっちゃん」
「ん?」
「次はどこ行く?」
「はぁ? お前まだ俺を振り回す気なのかよ」
「いいじゃん! どうせたっちゃん引きこもりなんだから!」
「うるせえ! 俺はもう行かねえからな」
「ねえ、私ニュージーランドに行ってみたい」
「話聞け」
「ニュージーランドってね、星空の世界遺産があるんだって」
「そうか、1人で行ってこいよ」
「ひっどーい! たっちゃん星空好きでしょ? 行こーよ!」
「俺はもうお前の衝動に振り回されるのは勘弁なんだよ」
「えー? でも2人だったらきっと大丈夫だよ! いつもみたいに!」
「俺が大丈夫じゃねえの!」
「私たっちゃんのこと大好きなのに!」
「な…… 馬鹿野郎! そんなことでっかい声で言うな! ほら、さっさと乗れ!」
「たっちゃん、たっちゃん」
「ん?」
「ごめんね、いつも振り回しちゃって」
「いや、本当に」
「でもさ、こんなわがまま聞いてくれるのも、頼れるのもたっちゃんだけだからさ」
「……ん」
「たっちゃん
ありがとね、
いつも死体の処理手伝ってくれて」
「おう」
「大好き」
「…うん」
仕事から帰って、家の鍵を開けたら同居人がドアの前でうずくまってた。
おそらく外に出ようとしたんだろう。いつもスウェットを着ていた彼は珍しく服を着替えて、靴を履いていた。
足元から荒い息が聞こえる。本人は、今の状況に精一杯のようで、なかなか顔を上げようとしない。
「ゆうくん?」
怯えている小動物に触れるように、彼の名前を呼んだ。
ゆうは顔をなんとかあげた。
涙に濡れた目で、助けを求めるようにこちらを見る。
「さ、さと、くん、ごめ、ぼ、僕、ひと、で、」
乱れた呼吸のまま、必死に何かを言おうとしている。言い訳みたいに。
「大丈夫、落ち着いて。一回呼吸を落ち着かせようか。息、吐ける?」
その場にしゃがみ、ゆうの目線に合わせる。 過呼吸の対処はよくわかる。相手を落ち着かせるために、優しい声で語りかけ、吸いすぎた息を吐くように促す。
背中を一定のテンポでさする。
少し骨ばった背中、少し力加減を間違えたら折れてしまいそうだ。
しばらく背中に手を当てていると、上下の動きが少なくなり、ゆうの呼吸が一定になってきたことがわかる。顔も心なしか先ほどより穏やかになった気がする。
「落ち着いた?」
一瞬、2人の呼吸の音しか聞こえなくなる。
次の瞬間、ゆうの顔が一変した。
焦ったような、怯えたような顔に。
「さ、佐藤くん! ごめ、ごめん。また、君に迷惑かけちゃって。あの、このままじゃダメだって、いつまでも佐藤くんに甘えてちゃダメだって、思って、1人で外に出てみようと思ったんだけど、できなくて。ごめん、ごめんなさい、勝手なことしなきゃよかった。ごめんなさい。」
ゆうの口から勢いよく謝罪の言葉が飛び出す。おおかた言い終わった後、彼の目から、堰を切ったように涙が溢れる。
もう話せないようだ。必死に涙を拭こうと、袖で目を擦っている。
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。怖くなっちゃったんだよね?」
できるだけ優しい声で話しかける。先ほどとは少し違う、小さい子供を慰めるように。
「ごめん、ごめん、変わろうとしたんだけど」
またゆうの口から言葉が出る。先ほどの勢いはなく、小さく、消え入りそうな声で。
「大丈夫だよ。無理に変わろうとしなくて。そのままでいいよ。」
震える肩を抱き寄せる。腕の中の熱が、自分のものになったような気がした。
「でも、めい─」
「迷惑なんかじゃないよ。俺はゆうくんの助けになれたらそれでいいからね。それに、外は怖いんでしょ? じゃあ無理に出なくていいじゃない。ここだけは、安全だよ、絶対にね。ゆうくんのことを1番わかってるのは俺だしね。」
ゆうはポカンとした後、目線を下に落とした。考え込むみたいに。
「ねえ、今日はもう疲れたでしょ? 少し休みなよ。大丈夫、俺がいるから」
ゆうの両手を取り、移動を促す。
「そう、そうだね… そうするよ」
俺が立ち上がれば素直にゆうも立ち上がる。
ゆうが振り返ったので、隣に立ち背中に手を回した。
こういう日には慣れている。今までにも何度かあったから。
しかし、まさか外に出ようとするとは思わなかった。前々から、ずっと外のことを話してはいたが、実際に行動に移すことはなかった。
迷惑なんてちっともかけてないのに、そこにいるだけでいいのに、ずっと謝ってくる。
…どうしたら
どうしたら君にとっての安全地帯は、俺の家だけだって、ちゃんとわかってもらえるかな。
そんなことを考えながら、忘れないうちに鍵をかけた。
「一つだけ、あと一つだけ、なあ、頼むよ」
「またそんなことを言って。一体、これで何回目なんでしょうね?」
「こ、今度こそ、今度こそ最後だ、なあ、どうせ持ってるんだろ?」
「うーむ、どうしましょう」
「お、おい! いま、今更渡さないとか言うなよ? わ、私はお前のお得意様だろ?」
「いやね、確かに貴方にはよくうちの商品を買っていただいている」
「じゃ、じゃあ」
「だからこそオレはこれを売りたくないんですよ」
「…は?」
「貴方、覚えてます? オレが最初に言ったこと」
「な——」
「まあ、そんなに必死じゃ覚えてないか…
いいですか? 物にはね、なんでも限度があるんですよ。やりすぎは毒ということです。
水だって、摂取し過ぎれば命を落とす。これだって一緒、このまま使用を続ければ貴方は確実に壊れてしまうでしょう。お得意様が使い物にならなくなれば、こちらだって損が生じる。」
「そ、そんなの、
そんなのお前の都合だろっ!
……ふざけるな。
……ふざけるなよ!
お前の! 都合なんて知ったことか!
出せ、早く出せよッ!!」
「人の話は最後まで聞く物ですよ、先生」
「っ…」
「なぁに、オレは意地悪をしにきたわけではありません。 ただ、一つ提案をしにきたんです。
先生、新しい商品に興味はおありで?」
「…」
「沈黙は肯定とみなします。うちのボスの方針なんです。
最近、うちの開発部が新しい商品を開発しましてね、体へのダメージは前のものより軽減、でも効果は前より強く、長く効きます!」
「…そんなものが」
「はい!
実は…… 本日、なんと! たまたま! 新商品のサンプルを持っているのですよ!
よかったら差し上げます。 無料で」
「…あ」
「では先生、また来ます。 次もまた、金曜日の深夜に。 その時までにお返事を考えておいてください。 今後とも、よろしくお願いしますよ」
「おや、貴方、うちの商品に興味がおありで?」
「おーい、無視はひどいなぁ。」
「貴方ですよ、貴方、先ほどオレたちのやりとりをずぅっとみていたでしょう?」
「残念ながら、サンプルはもうないんです。
だから、また金曜日の深夜にお会いしましょう。」
「あ! そうだ、オレから一つアドバイスを」
「あまり盗み聞きはするもんじゃないですよ
——見せもんじゃねえんだぞ」
「……それでは、おやすみなさい」