いい夜を

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4/7/2026, 12:52:00 PM

「ほんとに真っ赤だね」


「んね、燃えてるみたい」


「うちさ、赤い空って好きなんだよね」


「え、急に?」


「夕陽が沈む時とかさ」


「続けんの?」


「なんか、空って青いのに急に真っ赤になるとさ、非日常感があってワクワクする」


「非日常…………ね」


「ねえ、私がどう思おうが勝手じゃん」


「えー? だってさ、今空赤いのに非日常感なんて言われちゃあねえ?」


「この状況だって十分非日常だからいいじゃん!」


「まあ、確かに」


「…………世界の終わりって、ほんとに空が赤くなるんだねえ」


「それな、なんか感動」


「ね、生きているうちに世界の終わりと対面するとは思わなかった」


「あんたライブ行ってたじゃん」


「そっちのセカオワじゃねえよ」


「あはは!」


「…………メンタル強すぎん?」


「アンタも大概だかんね、なんで急に好きを語りだすのよ」


「世界の終わりだからこそ告白をするものよ」


「やっすい告白、もっとディープなのをしなさいよ」


「どんなのよ」


「ツ◯ッターでひたすらアンチとレスバしてたとか」


「ねえ! やめて! 忘れてたのに!」


「してたんかい」


「アンタもなんか告白しなさいよ! 世界の終わりにはディープな告白をするもんなんでしょ!?」


「あー…………」


「何よ! 私にさせておいて自分だけしないとかなしだからね!」


「…………じゃあ、この際だからするけど、引くなよ?」


「鼻で笑ってやるよ」


「やめれ」


「あはは! じょーだん、じょーだん!」


「…………あんね」


「うん」


「アタシ、あんたのことがずっと好きだったんよ」


「…………へ?」


「…………」


「マジ?」


「ああ! もう隕石落ちるまで後1分だって!」


「誤魔化すな! ちゃんと説明しろ!」


「いや、ほんま勘弁して…」


「じゃあ、せめていつから、いつから好きだったん!?」


「…………中3の時」


「わお! 思ったより前!」


「いや、マジ、もう忘れて」


「えー? やだ、忘れない」


「…………マジ勘弁」


「え? どうする? 最後に手でも繋いどく?」


「ムリ」


「どうせ最後だから、何してもいいじゃん」


「…………」


「あはは! 手ぇアッツ!」


「うるせえ」


「可愛いじゃん」


「黙れ」


「…………地球が終わっても来世ってあるのかな」


「さあ、死んだらわかんじゃない?」


「冷たっ! 態度冷た!」


「…………」


「ねえ、もし来世があったらさ」


「ん」


「そこでは付き合ってあげてもいいよ」


「…………バカ」


「ロマンチックっしょ?」


「…………そうね」


「ねえ、じゃあさ、こんな湿っぽい終わりは無しにしよっ!」


「まあ、それは賛成」


「じゃあカウントダウンしよ! 隕石が落ちるまで!」


「年越しかよ」


「似たようなもんでしょ!」


「まあね」


「じゃあ5秒前からね!」


「ん、おっけー」


「……5!」


「4」


「3!」


「2」


「1!」

4/6/2026, 4:21:52 PM

「オキュロフィリア、ってご存知ですか?


眼球そのものの造形や、視覚を通じた官能に異常なほど執着する性的嗜好。
まあ、簡単に言えば眼球愛好者ってところでしょうか。


お恥ずかしながら、私もそういう性癖を持っている人間でして、好きな目を見るとどうしても手に入れたくなる。


あなたの目を初めて見たとき、思わず足を止めてしまいました。


色、形、大きさ……全てが私の理想通りで


『ずっと見つめていたい。』そう思ったのです。


私は、自分の本能に従順すぎるらしいのです。どうしても、あなたの目を手に入れたい。


でもね、私は学びました。過去の経験から。


目っていうのは、人の体から離れると死んでしまうんです。


まあ、中には死んだ目が好きだという人もいるようですが、私はダメでした。


あんなに好きで好きでたまらなかった眼球たちも、ホルマリンに沈めた途端、ただのガラクタに見えてしまう。


何度も試しました。
けれど、すべて無駄でした。


試行錯誤の末、ようやく気づいたのです。


私が欲しかったのは、“生きている目”なんだと。


……だから、方法を変えました。


あなたは記念すべき、私のコレクションの第一号、ということですね。


大丈夫、健康管理はお任せください。あなたには、長生きしてもらわないといけないので。


ああ、部屋は少し狭いし、身動きはほとんど取れませんが、これもあなたの美しい瞳を守るためなんです。


おや、どうしました? そんなに震えて。


……ああ、やっぱりあなたの目は美しい。その感情に溢れた目、生き生きとしている!


大きく開いた瞳孔。震える視線。滲んだ涙。


……どれも、たまらない。
これだから、目は生きている方が好きなんです。


…おや、少し話しすぎましたね。もうこんなに遅い時間になってしまいました。


あなたも寝た方がいいですよ。寝不足は目に悪いですからね。


それでは明日、またあなたの瞳に会いに来ます。


おやすみなさい。」

4/5/2026, 4:18:12 PM

「うわぁ! キレー! やっぱりこの山にしてよかったね! すっごい綺麗な星空!」


「ああそうかい、そいつはよかったな」


「本当に綺麗。全部見てるみたい。」


「そんなもんだろ、星なんて」


「たっちゃんも見てみなよ!  今見とかないと損だよ?」


「俺は深夜に叩き起こされて最悪なんだよ。 満足したら帰るからな」


「もう、相変わらず冷たいんだから!」


「こんな時間に起こされれば誰だってこうなるって。 ほら、さっさと降りるぞ」


「ああん! 待ってー」


「それ、俺が持つよ」


「え? ああ! いいよ、自分で持つ。結構重いし、たっちゃんにこれ以上負担はかけられないよぉ」


「叩き起こされた時点で限界なんだよ。いいからよこせ」


「あ……相変わらず乱暴!」


「るっせ」


「じゃあ帰りの車は私が運転する!」


「ばっか、車の方が任せらんねぇって。 また俺の仕事を増やす気か?」


「だって、それだったら私何にもしてないじゃない!」


「だからなんもするなって!  大人しくしてろ!」


「頑固者!」


「そっちだって」








「ねえ、たっちゃん」


「ん?」


「次はどこ行く?」


「はぁ?  お前まだ俺を振り回す気なのかよ」


「いいじゃん! どうせたっちゃん引きこもりなんだから!」


「うるせえ! 俺はもう行かねえからな」


「ねえ、私ニュージーランドに行ってみたい」


「話聞け」


「ニュージーランドってね、星空の世界遺産があるんだって」


「そうか、1人で行ってこいよ」


「ひっどーい!  たっちゃん星空好きでしょ?  行こーよ!」


「俺はもうお前の衝動に振り回されるのは勘弁なんだよ」


「えー?  でも2人だったらきっと大丈夫だよ! いつもみたいに!」


「俺が大丈夫じゃねえの!」


「私たっちゃんのこと大好きなのに!」


「な…… 馬鹿野郎! そんなことでっかい声で言うな! ほら、さっさと乗れ!」









「たっちゃん、たっちゃん」


「ん?」


「ごめんね、いつも振り回しちゃって」


「いや、本当に」


「でもさ、こんなわがまま聞いてくれるのも、頼れるのもたっちゃんだけだからさ」


「……ん」


「たっちゃん








ありがとね、








いつも死体の処理手伝ってくれて」


「おう」


「大好き」


「…うん」

4/4/2026, 5:24:56 PM

 仕事から帰って、家の鍵を開けたら同居人がドアの前でうずくまってた。

 おそらく外に出ようとしたんだろう。いつもスウェットを着ていた彼は珍しく服を着替えて、靴を履いていた。

 足元から荒い息が聞こえる。本人は、今の状況に精一杯のようで、なかなか顔を上げようとしない。

 「ゆうくん?」

怯えている小動物に触れるように、彼の名前を呼んだ。

ゆうは顔をなんとかあげた。
涙に濡れた目で、助けを求めるようにこちらを見る。

 「さ、さと、くん、ごめ、ぼ、僕、ひと、で、」

乱れた呼吸のまま、必死に何かを言おうとしている。言い訳みたいに。

 「大丈夫、落ち着いて。一回呼吸を落ち着かせようか。息、吐ける?」

 その場にしゃがみ、ゆうの目線に合わせる。 過呼吸の対処はよくわかる。相手を落ち着かせるために、優しい声で語りかけ、吸いすぎた息を吐くように促す。

 背中を一定のテンポでさする。
少し骨ばった背中、少し力加減を間違えたら折れてしまいそうだ。 

 しばらく背中に手を当てていると、上下の動きが少なくなり、ゆうの呼吸が一定になってきたことがわかる。顔も心なしか先ほどより穏やかになった気がする。

「落ち着いた?」

 一瞬、2人の呼吸の音しか聞こえなくなる。
次の瞬間、ゆうの顔が一変した。
焦ったような、怯えたような顔に。

「さ、佐藤くん! ごめ、ごめん。また、君に迷惑かけちゃって。あの、このままじゃダメだって、いつまでも佐藤くんに甘えてちゃダメだって、思って、1人で外に出てみようと思ったんだけど、できなくて。ごめん、ごめんなさい、勝手なことしなきゃよかった。ごめんなさい。」

 ゆうの口から勢いよく謝罪の言葉が飛び出す。おおかた言い終わった後、彼の目から、堰を切ったように涙が溢れる。

 もう話せないようだ。必死に涙を拭こうと、袖で目を擦っている。

「大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。怖くなっちゃったんだよね?」

 できるだけ優しい声で話しかける。先ほどとは少し違う、小さい子供を慰めるように。

「ごめん、ごめん、変わろうとしたんだけど」

 またゆうの口から言葉が出る。先ほどの勢いはなく、小さく、消え入りそうな声で。

「大丈夫だよ。無理に変わろうとしなくて。そのままでいいよ。」

 震える肩を抱き寄せる。腕の中の熱が、自分のものになったような気がした。

「でも、めい─」

「迷惑なんかじゃないよ。俺はゆうくんの助けになれたらそれでいいからね。それに、外は怖いんでしょ? じゃあ無理に出なくていいじゃない。ここだけは、安全だよ、絶対にね。ゆうくんのことを1番わかってるのは俺だしね。」

 ゆうはポカンとした後、目線を下に落とした。考え込むみたいに。

「ねえ、今日はもう疲れたでしょ? 少し休みなよ。大丈夫、俺がいるから」

ゆうの両手を取り、移動を促す。

「そう、そうだね… そうするよ」

俺が立ち上がれば素直にゆうも立ち上がる。
ゆうが振り返ったので、隣に立ち背中に手を回した。

 こういう日には慣れている。今までにも何度かあったから。

 しかし、まさか外に出ようとするとは思わなかった。前々から、ずっと外のことを話してはいたが、実際に行動に移すことはなかった。

 迷惑なんてちっともかけてないのに、そこにいるだけでいいのに、ずっと謝ってくる。

 …どうしたら









 どうしたら君にとっての安全地帯は、俺の家だけだって、ちゃんとわかってもらえるかな。

 そんなことを考えながら、忘れないうちに鍵をかけた。

4/3/2026, 3:39:07 PM

「一つだけ、あと一つだけ、なあ、頼むよ」

「またそんなことを言って。一体、これで何回目なんでしょうね?」

「こ、今度こそ、今度こそ最後だ、なあ、どうせ持ってるんだろ?」

「うーむ、どうしましょう」

「お、おい! いま、今更渡さないとか言うなよ? わ、私はお前のお得意様だろ?」

「いやね、確かに貴方にはよくうちの商品を買っていただいている」

「じゃ、じゃあ」

「だからこそオレはこれを売りたくないんですよ」

「…は?」

「貴方、覚えてます? オレが最初に言ったこと」

「な——」

「まあ、そんなに必死じゃ覚えてないか…

いいですか? 物にはね、なんでも限度があるんですよ。やりすぎは毒ということです。
水だって、摂取し過ぎれば命を落とす。これだって一緒、このまま使用を続ければ貴方は確実に壊れてしまうでしょう。お得意様が使い物にならなくなれば、こちらだって損が生じる。」

「そ、そんなの、
そんなのお前の都合だろっ!
……ふざけるな。
……ふざけるなよ!
お前の! 都合なんて知ったことか!
出せ、早く出せよッ!!」

「人の話は最後まで聞く物ですよ、先生」

「っ…」

「なぁに、オレは意地悪をしにきたわけではありません。 ただ、一つ提案をしにきたんです。
先生、新しい商品に興味はおありで?」

「…」

「沈黙は肯定とみなします。うちのボスの方針なんです。
最近、うちの開発部が新しい商品を開発しましてね、体へのダメージは前のものより軽減、でも効果は前より強く、長く効きます!」

「…そんなものが」

「はい! 
実は…… 本日、なんと! たまたま! 新商品のサンプルを持っているのですよ!
よかったら差し上げます。 無料で」

「…あ」

「では先生、また来ます。 次もまた、金曜日の深夜に。 その時までにお返事を考えておいてください。 今後とも、よろしくお願いしますよ」










「おや、貴方、うちの商品に興味がおありで?」




「おーい、無視はひどいなぁ。」




「貴方ですよ、貴方、先ほどオレたちのやりとりをずぅっとみていたでしょう?」

「残念ながら、サンプルはもうないんです。
だから、また金曜日の深夜にお会いしましょう。」

「あ! そうだ、オレから一つアドバイスを」


「あまり盗み聞きはするもんじゃないですよ







——見せもんじゃねえんだぞ」






「……それでは、おやすみなさい」

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