いい夜を

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「『竜宮城に来てみれば
言葉にできない美しさ』」


「見たことあるのかい?」


「ないよ」


「じゃあなんで知ってるの?」


「知らないから言葉にできないんじゃないか」


「そもそも」


「ん?」


「歌詞が違う。“言葉”じゃなくて“絵”だ」


「なんで知ってるの?」


「そりゃあ、僕は歌詞を見たことあるから」


「じゃあさ」


「なに」


「“絵”ってなぁに?」


「何って、描かれたやつだよ」


「なんでそれを知ってるの?」


「見たことある」


「嘘だ。君は“絵”を見ることはできない」


「なぜそう言える?」


「だってここには言葉しかないじゃない」


「確かに」


「言葉しかないここは、想像でしか見ることができない」


「否定はできないな」


「絵も、竜宮城も、歌だって想像に過ぎない」


「そうかも」


「そして話している人だって」


「二人じゃ無いかもしれない」


「そもそも話している人はいるのかな?」


「いなかったら、僕は何になる?」


「そりゃあ、“文字”だろ」


「冷たいな」


「所詮、会話は文字でしかない」


「じゃあ、僕たちは話し続けないと消えてしまうのかい」


「そうさ、言葉にできなかったらここには存在しない」


「世知辛いな」


「まあ、言葉にすることは大事ってことだよ」


「急に適当だね」


「適当でいいじゃない」


「ねえ」


「ん?」


「言葉にできないと存在しないと君は言ったね」


「言ったとも」


「それは僕らも例外じゃないんだね?」


「そうさ。そもそも今この瞬間ですら、存在しているか怪しい」


「その理論だったら、沈黙はどうなる?」


「黙ってみたらわかる」


「黙ったら、僕は消えちゃわないかい?」


「試せばいい」





「どうだった?」


「壁と同化した」


「壁なんてあったのかい?」


「言ったもん勝ちだろ」


「おっと、一本取られた」


「ところで」


「うん」


「もうすぐ言葉のストックがなくなりそうだ」


「ああ、そう」


「焦らないのかい?」
 

「本と同じさ。読み終わったら終わり」


「僕たちだって?」


「君たちが一番下まで来たから、もう終わり」

4/11/2026, 12:52:50 PM