お題『とリとめのない話』
大神小真莉(おおがみこまり)はとりとめのない話を長々と喋る。ターゲットは決まって大神家長男天河(てんが)である。
小真莉「お兄ちゃん、聞いてや!今日な朝ラジオ体操で学校行ったんやけど、ずるい奴が居ったんよ。小真莉ははじめから体操してんのに。凛(りん)ちゃん、明日から旅行行くんやってえぇなぁ。小真莉もどっか行きーたいーなぁ〜。近所の駄菓子屋あるんやんかぁ……」
大神は夏季補習が終わってからバイトに行くまでずっと妹につきまとわれ話しかけられていた。
自分の部屋で机に向かって夏休みの宿題をしている現在(いま)も。いい加減耳障りな話に我慢の限界を超えかけ小真莉を叱ろうとしたその時、次男の健太(けんた)がドアをノックして部屋に入り声をかけた。
健太「アニキ、母さんが台所に来てって呼んでる」
大神(天河)「……わかった。今行くわ」
椅子から立ち上がり小真莉から離れる時小真莉は大神の腕を掴んだが、無言で簡単にそれを振ほどかれた。
部屋を出る時ドアの近くに居た、健太に小声で「助かった」と礼を言った。
小真莉は、その場で座り込んで、泣きそうになりがらも健太をキッと睨む。
小真莉「健兄(けんにい)のいじわる」
健太「いじわるちゃうわ。本当(ホンマ)に母さんに呼ばれたんやからしゃーないやろ。それに兄貴の勉強の邪魔したらあかんやろ」
複雑な話になるが大神家3兄弟妹(きょうだい)は全員血が繋がっていない、異母兄弟妹である。長男の天河は前妻の子、次男の健太は愛人の子、長女の小真莉は後妻(今の母親)の子なのである。
End
お題『風邪』
今日はとても楽しみしていたイルミネーションの日。夜からだというのに朝からクローゼットの前でそわそわしている。
萌香「どうしょう〜。どんな服着て行こうかな」
すると、机の上に置いていた携帯からピロロン♪という音がなった。携帯を手に取り画面を見る。LeLien(ルリアン)に2通のメールが届いていた。
真珠星(すぴか)『ドタキャンでごめん💦昨日の夜から熱があってさ、体の怠さはマシになったんだけど、今朝になっても熱下がんなくてさ……。萌香がすごく楽しみにしてるの分かってるのに行けなくて本当(マジ)でごめん🙇♀️治ったらまた連絡する』
委員長『輪通(わづつ)さん、お早うございます。
あの当日の連絡でごめんなさい。祖母の体調が悪く看病する為今日行けなくなりました。本当にごめんなさい。』
2人の突然のキャンセルメッセージを読みそわそわから一気にずーんと心が沈んでしまった。たけど2人だって楽しみにしていたはずだとポジティブに考えた萌香は2人に『分かった。お大事に』という返信を返した。
昼過ぎ大神に2人の事を連絡しようとメールを作成していると大神から突然の電話の着信が来た。萌香は一瞬ドキッとして携帯を手から離してしまい床に落としてしまった。
萌香「あ、携帯が!?は、早く出なくちゃ」
鳴り続ける着信音。震える手で床から携帯を拾い電話に出る。
萌香「は、はい。もしもし」
大神『あ、やっと出てくれた。今日のイルミネーションの件なんやけど……。悪いんやけど延期にしても良(え)ぇかな。なんか今朝になって誘った友達皆んな体調悪いから行かれへんって言い出してドタキャンの嵐があったさかい–––––』
大神の声は聞こえている。しかし、話が全然頭に入ってこない。【延期】という言葉を聞いた後からだ。萌香は、携帯画面の受話器を切るアイコンをタップして電話を一方的に切った。切る間際まで大神は『もしもし』と言い続けていた。
数分後大神から延期にしてしまった謝罪のメールが届く。
夜、T Vを観ながら晩御飯を食べていると緊急放送が流れた。
T Vアナウンサー『昨日から季節外れのインフルエンザが流行しています。風邪のような症状が続く、または高熱が続く場合は個人で判断せず病院で診察を受診するようにして下さい』
萌香の母親「萌香も気をつけてね」
萌香「……うん」
萌香は食べ終えた食器を流し台へ置き自室に向かい大神からのメールを返すのだった。
End
お題『雪を待つ』
とても寒い日、幼い頃あたしはよくベランダから庭に出ては外で何かを待っていた。
幼少期の萌香「きょう、ふる?」
幼い萌香の問いに遊びに来ていた萌香の母親の友達、英里(えり)が答える。
英里「う〜ん。寒いから降るかもね」
幼少期の萌香「ちゃっくさん、ふるかな?」
英里「降ったら萌香は嬉しい?」
幼少期の萌香「うん!」
英里「あたしは微妙だなぁ」
幼少期の萌香「どうちて?」
英里「仕事に行けなくなるから……」
すると買い物から帰ってきた萌香の母親が庭にやって来た。
萌香の母親「英里。子守させてごめんね。すごく助かった。ありがとう」
英里「いいえ」
空から白くて丸い冷たいものが落ちてきた。
萌香の母親「降ってきたね。萌香〜。寒いからお家の中入ろう〜」
母親の呼びかけに答えベランダから家に入る。
そう、萌香の待っていたのは“雪“だったのです。
End
お題『イルミネーション』
夏季補習最終日の3時限終了後、萌香は意を決して大神に連絡先を聞いてみた。すると大神の反応は焦っていたりドキドキしている様子もなく全く表情を変えず制服のズボンのポケットから携帯を取り出しアドレス帳を萌香に見せた。
大神「ほい。怪しいサイトに俺の情報渡さんといてや〜(笑)」
萌香「怪しいサイトって何?」
大神は一瞬驚いた。
大神「……えっ!?まぁ、そんなん知らんで当たり前やな。(笑)俺もよう知らんし……。あ、下手に調べたらあかんで!!」
萌香「?…うん」
このネット社会で怪しいサイトがあることを知らない人が身近にいるとは思わなかった。10コ下の妹でさえそのサイトにアクセスしなくてもそういう情報は知っている。授業で習ったと自慢げに話していた。最近は授業の一環でプログラミングを習うらしい。
大神と萌香は荷物を持って教室を出た。
廊下を歩き一階へ向かう。萌香は少し寂しげに話す。
萌香「夏休みが終わるまでしばらく大神君と会えないんだね。寂しいなぁ、せっかく連絡交換したばかりなのに……」
チラリと大神の顔を見上げる。大神はこちらに見向きもせず答えた。
大神「そんなん言わんでも。いつでも、連絡してくれたらえぇやん」
萌香「本当に?」
大神「おう!」
やっとこちらの顔を見たかと思ったら目の前は靴箱だ。大神と萌香はそのまま別れ二人は家路に着く。
夕方萌香の携帯にメッセージが届いた。
『お疲れ。子猫ちゃん!今週の土曜日の夜に俺とイルミネーショ見に行かん?友達連れてみんなで遊ぼうや!!』
萌香は天にも昇る気持ちだ。速攻で返事を返した。もちろん答えは「Yes」しかないのである。
End
お題『愛を注いで』
毎月第3日曜日は商店街で町内バザーが開催されている。
祖父と祖母そして私(わたくし)の3人家族は毎月それに
出品側として参加していた。出品目は祖父が作った季節の野菜だ。小規模な畑で作る為数に限りはあるし、形が歪な物もあるのだが、それなりに人気があるようだ。
来場者は近所の人が多く、他県の人が来ることは滅多にない。
近所の人A「今月は何がおすすめですか?」
祖父「葉にんじんとトマトです」
近所の人A「じゃあ、それをいただくわ」
祖父「ありがとうございます。葉にんじんは1袋売りになりますが、よろしいですか?」
近所の人A「えぇ。良いですよ。あ、トマトは3つお願いします」
祖父「わかりました。袋詰めを致しますので、先に隣でお会計をお願いします」
近所の人Aは祖父の隣に立つ委員長に向かう。
祖父の後ろで祖母は手際よく野菜を袋つめしていく。
会計が終わった頃合いを見て、祖母は近所の人Aに袋を手渡す。
近所の人A「ありがとう。私ね、毎月、秋更(あきざら)さんの作るお野菜楽しみしてるの。また来るわね〜」
祖父「ありがとうございます。こちらもお待ちしております」
祖父は一礼した。商社で営業職に長年勤めていた祖父は退職した今でもバザーの時は昔を思い出し積極的に接客をしてくれている。
近所の人曰く祖父の対応はすごく丁寧である。それでいて祖父の作る野菜は美味しいと評価が高い。それは一つ一つ我が子のように愛を注いで作っているからだろう。
End