道を歩いていると綺麗な石を見つけた。
私はそれを麻袋に入れて大事に抱えて歩みを進めた。
それをしばらく続けると麻袋は綺麗な石で一杯になって、気付けば抱えながら歩くのが苦痛になっていた。
足は引きずって麻袋を抱えていた腕は傷だらけになっている。
何のために私は抱えているのだろう。
とっても大切だったはずなのに。
いつから苦痛に感じるようになったのだろう。
とっても大切だったはずなのに…?
ふと横を見やると屈んで麻袋から石を捨てている人の姿が目に入った。
私はそれを見て「拾っておきながらなんて冷たい人だ」と思う気持ちと同時に「羨ましい」と感じた。
羨ましい…?
自分の中に湧いた嫉妬という感情に戸惑い、腕から麻袋を落としてしまう。
しかし、重りを手放した時に感じた苦痛からの解放。
私は1つ、また1つと麻袋から石を取り出してゆっくりと外に置いていく。
気付けば麻袋の中は今でも綺麗に輝き続けている石だけが残っていた。
私は麻袋を再び抱き締めるようにして抱える。
その麻袋から感じる温かさは私の歩く力の源となってくれた。
目を開くと私たちは海底に居た。
自分の周りには数えられない程の人たちが居て、何も考えずにひたすらに遊ぶ。
自分たちは遊んでいるとゆっくりと眩しい海面に向かって浮上していく。
しかし、いつの日か周りの人たちは明るい海面に向かってスイスイと泳ぎ始める。
自分も泳ごうと踠いてみるが、周りのように上手く泳ぐことができない。
段々と距離は離されていつの日か皆んなは手の届かない場所まで行っていた。
ふと周りを見渡してみる。
そこに人影はおらず、海面の明るさに目が慣れて周りが真っ暗闇、ただ自分だけが取り残されている様に感じる。
すると今まで普通に泳いでいた筈の海中がとても息苦しく感じて。
バタバタと腕を振っても海面には一向に近付かない。
もうこのまま誰にも気付かれることなく、暗闇の中で1人で溺れるんだって思ったら悲しいような、それでも良いような。
そう思いながら海面に手を伸ばしながら自分は目を閉じた。
big love(後編)
ある日、寝るために自分の部屋に向かうと私のベッドの上にギンタが寝転がっていた。
私は嬉しく思いながら眠る直前までギンタを撫で続けた。
しかし、次の日からギンタは私のベッドから動けなくなっていた。
もう立ち上がる力もなく、常に寝転がったままだった。
私はベッドの上にペット用のトイレシートを敷いて、エサは口まで運ぶようになった。
私は出来るだけギンタの横に居たいと思い、学校を休んでギンタの傍に着いて介護するようになった。
口元にエサを運んでも食べない物は多かったが、たまにエサを舐めてくれることもあって、その時は凄く嬉しく感じた。
そうして数日後の朝、目を覚ますとギンタは隣でいつもより身体をグッタリとさせながら吐いていた。
私は直感的に死ぬ間際だと感じ取った。
家族に急いで連絡して、出来るだけ吐瀉物が喉で詰まらないように支えながら撫で続けた。
着ていた服や布団は汚れたが、そんなことはどうでも良かった。
吐くのは治まってもギンタの呼吸は段々と小さくなっていく。
そんなギンタを家族皆んなで名前を呼びながら優しく撫でた。
吐いていた時間こそ苦しそうだったものの、家族皆んなに撫でられている時間はとても安らかな顔になっていた。
そうして数分後、ギンタはピクリとも動かなくなり、皆んなに囲まれながら虹の橋を渡っていった。
〜あとがき〜
1日にまとめたかったのですが長くなり過ぎて2日掛けてしまいました。申し訳ないです、そしてここまで読んで下さり有難うございます。
お察しの通りこれは自分の実体験を元にしたお話しです。
テーマが「big love」と出題されて浮かんだのがこのお話しでした。
あとがきで長くなりそうなので一言でシメますね。
貴方と貴方の周りで愛が広がりますように
big love(前編)
その日は唐突に訪れた。
私はいつものように朝起きると飼い猫「ギンタ」のもとへと朝の挨拶をしにベッドから出た。
キッチンでギンタを見つけて撫でるために近付く。
するとギンタが口から大量のヨダレを垂らしていることに気付いた。
私はそれを見て血の気が一気に引いていく感覚が襲ってきた。
急いで動物病院に連れて行くと、「もう1ヶ月も耐えられないかもしれない」と言われてしまった。
朝の様子から覚悟はしていたものの、改めて専門家の人に言われると胸が苦しくなった。
「1ヶ月間誰かが側に居てあげれるようにしよう」ということが家族で決まり、幸い母が専業主婦ということもあり、昼は母がそばに居て、夜は学校から帰ってくる私ということになった。
学校から帰ると毎日ギンタに薬をあげて、痛みが少しでも和らぐように撫でるという日々が続いた。
それから1ヶ月。
ギンタは医者が言った余命1ヶ月を乗り越え、さらには前よりも元気になっているように感じた。
嬉しく感じたが、ここで油断してはならないと思い、今までの1ヶ月と同じように薬をあげながら側に居てあげるようにした。
それからまた2ヶ月が経った。
元気になっていたのも束の間、定期的に薬をあげていたもののギンタは段々と弱ってしまい、ついには歩くときもフラフラとするようになってしまった。
食べ物も上手く喉を通さなくなってしまい、大好物だったおやつすら少し食べて辞めてしまうというようになって、段々と身体が痩せ細っていった。
放課後の教室。
日が沈んでいくのが教室の窓から見える。
教室には僕の他に人はおらず、それぞれ部活や家路に向かったのだろう。
1人静かな教室で沈んでいく夕陽を眺める。
僕の耳元でボクの声が囁いてくる。
「君が居なくても皆んな個人の日常を過ごすだけ。」
教室で1人そんな声を聞いていると、教室のドアがガラガラッと大きな音を立てて勢いよく開いた。
姿を現したのは隣のクラスの友人、僕の姿を見付けると満面の笑顔になって口を開く。
「まだ教室に居て良かった〜!一緒に帰ろ!!」
そんな元気の良い声に自然と笑みが溢れる。
僕は鞄を持つと友人のもとに駆け寄った。
もうボクの囁き声は聞こえない。