《待つ時間も楽しく思える》
(刀剣乱舞/博多藤四郎)
博多藤四郎は商人魂を持った短刀で、本丸内でも現代的なものに最も興味を持つ短刀だった。
現代遠征へ向かう際に渡されたスマホも早くに使いこなしていた。
手紙よりも声よりも早く届く電子ツールは、博多にとっては何よりも惹かれるものだった。
LINEも勿論使いこなしており、審神者や仲間たちとのメッセージのやり取りもそつなつこなしていた。
だからこそ、返事が来るのが待ち遠しく、もどかしく、楽しく思えるのだ。
「返事が来たァ!嬉しかー!」
《この身が朽ちるまで》
(刀剣乱舞/秋田藤四郎)
秋田藤四郎は、かつての主の元では戦場に出ることが無く、秘蔵っ子だった。
故に外の世界に疎く、何にでも興味を持つ子供のような天真爛漫さがある短刀の刀剣男士。
けれども。戦に出ていないからと言って、弱い訳では無い。
その小さな体で、かつての主を守る守刀として務めてきた。
大きな逸話も戦績もない。
でも、守ることが出来る体がある。
今の主君を守る事こそが刀の役目。
たとえこの命が燃え尽き、破壊してしまうことがあれど、
《守刀》としての矜恃を保っている。
「お命貰います!」
血まみれになりながら敵を倒し、主君を守り、歴史を守る。
外の世界の恐ろしさも美しさも知った秋田藤四郎は、
その身に抱く子供らしさと刀らしさを見せながら、
その鋭き刃を今日も振るう。
《その目に映る色》
(刀剣乱舞/前田藤四郎)
まだ日が昇る前。辺りは暗いが、不思議と目が覚めてしまった。
同室の兄弟達は深い眠りについており、前田はそっと起き上がり部屋の外に出た。
「まだ誰も起きていない静かな本丸は特別感がありますね.....」
なんせ顕現数は100を超えた。
毎日が賑やかで仕方ない本丸なのだ。
賑やかな本丸の静かな時間。早起きしたからこそ味わえる空気と景色は格別だった。
暫く縁側で景色を眺めていると、徐々に空が明るくなってきた。
青くて暗い空の色が、段々と桃色と黄色が混じった色になる。
「確かこの色は、東雲色でしたっけ...」
前に秋田藤四郎が見せてくれた本に書いてあった事を思い出しながら、夜明け前の空の移ろいを瞳に写してゆく。
《この心を知らない》
(刀剣乱舞/信濃藤四郎)
刀剣男士は人の姿をしているが、人には成れない存在。
神の端くれと言えど付喪神。
人に愛され、守られて受け継がれた心の形。
しかし信濃藤四郎は「恋」とか「愛」が分からない。
審神者への忠誠心とも、かつての主に寄せる気持ちとも違うとは言うけれど、どう違うのか分からない。
悩んだ末、審神者に直接聞いてみる事にした。
審神者は「定義は無いけどね」と前置きをし、
「恋は"戀"って書いたの見たことあるけど、多分ね?
糸しい(愛しい) って、心が言うから戀なんじゃないかな。
ある人の受け売りだけどね」
と笑った。
信濃はその答えに「ふーん...難しいね」と返すだけだった。
「本気の恋とか、人間臭い事は無理してやらなくていいんだよ。そんなの抱えて刃が曇ったら困るだろうし」
「大変な心だね」
「それでも刀剣男士に心を与えたんだよ、私達は」
そう言った審神者の表情は少しだけ悲しそうだった気がした。
《記念日》
(刀剣乱舞/後藤藤四郎)
ある日、近侍を務めていた後藤藤四郎は、審神者の部屋に飾られた暦にふと目が止まった。
「なぁ大将。ここの日に印あるんだけど、なんかの記念日か?」
審神者は暦を見て、「あぁ」と頷き、
「その日は誕生日なんだよ、私の」
と続けた。
それは今日から一週間後のことだった。
後藤は驚き、「なら祝おうぜ!」と提案した。
審神者は「いいのに」と笑いながらも嬉しそうだった。
後日開かれた宴は、とても賑やかなものだった。
審神者も刀剣男士からの祝いの言葉に照れながらも笑い、楽しそうに過ごしていた。
後藤はそんな審神者の顔を見ながら、これから先、何年、何十年と同じように祝えるように、この本丸が続くようにと願っていた。