《大切なものは増えるばかり》
初めて出来た宝物は何だっただろう。
時が経つにつれ、守りたいもの。大切にしたいものが増えるばかりで、宝物がひとつ、またひとつと増えた。
両手で抱えきれないほどの宝物が出来た頃には
その全てを守りきれない現実も知った。
何かを大切にすると、何かを諦めなければならない事を知ったあとでも、私はまたひとつ宝物を得て生きてゆく。
《籠の鳥》
(刀剣乱舞/蜂須賀虎徹)
長曽祢虎徹の真作。
それが蜂須賀虎徹である。
しかし、あの浅葱色の羽織を着た男が振るったのは贋作の虎徹だった。
真作以上に贋作がその名を、その斬れ味をもって広めることがもどかしく思えた。
「何故真作の俺が使われず、贋作が虎徹の名を広めているのだ....」
どうか、この俺を振るってくれ。
大事に仕舞われるだけなんて御免だ。
飛べる翼を持ちながら、飛ぶことを許されぬ籠の鳥のように。
俺は誇れる斬れ味を持っているのに、刀の役割を果たすことなく、平和な籠の中で生きてゆくのだろうか。
「飾られるだけの刀では無いのに....」
真作であるが故に、大事にされすぎた名刀の話。
《最期に浮かぶ顔》
(刀剣乱舞/ 誰でも)
『パキッ..._____』
己の本体にヒビが入る音がした。
傷だらけボロボロの重傷なのに、己を過信して進軍をした結果がこれだった。
ヒビは広がり、軽やかに折れる音がした。
それは余りに軽すぎる己自身の命の音。
途切れゆく意識の中、脳裏に浮かぶのは審神者と本丸のみんなの顔。
(あぁ...もう、会えないんだ....)
後悔ばかりが浮かぶ中、意識は闇の中に吸い込まれた。
《叫ぶ声、届かぬまま》
(刀剣乱舞/長曽祢虎徹)
「この刀は"虎徹"ですよ」
その言葉に、その刀に宿る付喪神は目を見開いた。
「おぉ、これがあの虎徹か!」
自分を手にする男の目は輝く。
それに反し、自分は焦るばかり。
「違う!!ソレは虎徹ではない!!」
声が枯れるほど叫んだ。
「俺は、源清麿の刀だ!!長曽祢虎徹ではない!」
それは"源清麿"から"長曽祢虎徹"と呼ばれるようになった始まりの日。
新撰組、近藤勇の愛刀として振るわれた一振の刀の物語
《何度でも始めよう》
(刀剣乱舞/蜂須賀虎徹)
その審神者は一度審神者業を辞めた人間だった。
あの日の本丸はもうどこにもない。
また一から始めることとなった。
審神者は始まりの刀を選ぶ際、迷うことなく蜂須賀虎徹を選んだ。
「前の本丸の始まりの刀も蜂須賀だったから。いつかまたあの刀に会えたら、ちゃんと謝りたいんですけどね」
そう言って笑う審神者に、蜂須賀は「何度でも選んでくれるなんて、蜂須賀虎徹ならみんな嬉しく思うよ」と笑って返した。