瑠璃

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9/14/2024, 11:01:07 AM

《この身が朽ちるまで》
(刀剣乱舞/秋田藤四郎)


秋田藤四郎は、かつての主の元では戦場に出ることが無く、秘蔵っ子だった。

故に外の世界に疎く、何にでも興味を持つ子供のような天真爛漫さがある短刀の刀剣男士。

けれども。戦に出ていないからと言って、弱い訳では無い。

その小さな体で、かつての主を守る守刀として務めてきた。


大きな逸話も戦績もない。


でも、守ることが出来る体がある。


今の主君を守る事こそが刀の役目。

たとえこの命が燃え尽き、破壊してしまうことがあれど、

《守刀》としての矜恃を保っている。


「お命貰います!」


血まみれになりながら敵を倒し、主君を守り、歴史を守る。


外の世界の恐ろしさも美しさも知った秋田藤四郎は、

その身に抱く子供らしさと刀らしさを見せながら、

その鋭き刃を今日も振るう。

9/13/2024, 10:45:14 AM

《その目に映る色》
(刀剣乱舞/前田藤四郎)


まだ日が昇る前。辺りは暗いが、不思議と目が覚めてしまった。

同室の兄弟達は深い眠りについており、前田はそっと起き上がり部屋の外に出た。


「まだ誰も起きていない静かな本丸は特別感がありますね.....」

なんせ顕現数は100を超えた。

毎日が賑やかで仕方ない本丸なのだ。

賑やかな本丸の静かな時間。早起きしたからこそ味わえる空気と景色は格別だった。



暫く縁側で景色を眺めていると、徐々に空が明るくなってきた。

青くて暗い空の色が、段々と桃色と黄色が混じった色になる。

「確かこの色は、東雲色でしたっけ...」

前に秋田藤四郎が見せてくれた本に書いてあった事を思い出しながら、夜明け前の空の移ろいを瞳に写してゆく。

9/12/2024, 12:35:30 PM

《この心を知らない》
(刀剣乱舞/信濃藤四郎)


刀剣男士は人の姿をしているが、人には成れない存在。

神の端くれと言えど付喪神。

人に愛され、守られて受け継がれた心の形。


しかし信濃藤四郎は「恋」とか「愛」が分からない。

審神者への忠誠心とも、かつての主に寄せる気持ちとも違うとは言うけれど、どう違うのか分からない。


悩んだ末、審神者に直接聞いてみる事にした。

審神者は「定義は無いけどね」と前置きをし、


「恋は"戀"って書いたの見たことあるけど、多分ね?
糸しい(愛しい) って、心が言うから戀なんじゃないかな。
ある人の受け売りだけどね」

と笑った。

信濃はその答えに「ふーん...難しいね」と返すだけだった。

「本気の恋とか、人間臭い事は無理してやらなくていいんだよ。そんなの抱えて刃が曇ったら困るだろうし」

「大変な心だね」

「それでも刀剣男士に心を与えたんだよ、私達は」


そう言った審神者の表情は少しだけ悲しそうだった気がした。

9/11/2024, 11:59:00 AM

《記念日》
(刀剣乱舞/後藤藤四郎)


ある日、近侍を務めていた後藤藤四郎は、審神者の部屋に飾られた暦にふと目が止まった。

「なぁ大将。ここの日に印あるんだけど、なんかの記念日か?」

審神者は暦を見て、「あぁ」と頷き、

「その日は誕生日なんだよ、私の」

と続けた。


それは今日から一週間後のことだった。


後藤は驚き、「なら祝おうぜ!」と提案した。

審神者は「いいのに」と笑いながらも嬉しそうだった。



後日開かれた宴は、とても賑やかなものだった。

審神者も刀剣男士からの祝いの言葉に照れながらも笑い、楽しそうに過ごしていた。


後藤はそんな審神者の顔を見ながら、これから先、何年、何十年と同じように祝えるように、この本丸が続くようにと願っていた。











9/10/2024, 10:43:29 AM

《心に穴が空く》
(刀剣乱舞/厚藤四郎)


その本丸で、厚藤四郎は初鍛刀だった。

初々しい審神者を初期刀と共に支えてきた。

負けた時の悔しさも、勝った時の喜びも、修行から戻ってきた時の更なる強さを誇れた気持ちも。

酸いも甘いも味わってきた。


気付けば顕現してから数十年経ち、審神者も随分と老いた。

そしてその命が閉じられる日が訪れた。


鼓動が止まり、冷たくなった審神者を見た時。

今まで戦場で人々の死を見てきた時には感じなかった「喪失感」を抱いた。


人の身を得て初めて実感するこの感情。


厚藤四郎は初めて知るその感情を抱きながら、静かに審神者を弔った

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