瑠璃

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9/13/2024, 10:45:14 AM

《その目に映る色》
(刀剣乱舞/前田藤四郎)


まだ日が昇る前。辺りは暗いが、不思議と目が覚めてしまった。

同室の兄弟達は深い眠りについており、前田はそっと起き上がり部屋の外に出た。


「まだ誰も起きていない静かな本丸は特別感がありますね.....」

なんせ顕現数は100を超えた。

毎日が賑やかで仕方ない本丸なのだ。

賑やかな本丸の静かな時間。早起きしたからこそ味わえる空気と景色は格別だった。



暫く縁側で景色を眺めていると、徐々に空が明るくなってきた。

青くて暗い空の色が、段々と桃色と黄色が混じった色になる。

「確かこの色は、東雲色でしたっけ...」

前に秋田藤四郎が見せてくれた本に書いてあった事を思い出しながら、夜明け前の空の移ろいを瞳に写してゆく。

9/12/2024, 12:35:30 PM

《この心を知らない》
(刀剣乱舞/信濃藤四郎)


刀剣男士は人の姿をしているが、人には成れない存在。

神の端くれと言えど付喪神。

人に愛され、守られて受け継がれた心の形。


しかし信濃藤四郎は「恋」とか「愛」が分からない。

審神者への忠誠心とも、かつての主に寄せる気持ちとも違うとは言うけれど、どう違うのか分からない。


悩んだ末、審神者に直接聞いてみる事にした。

審神者は「定義は無いけどね」と前置きをし、


「恋は"戀"って書いたの見たことあるけど、多分ね?
糸しい(愛しい) って、心が言うから戀なんじゃないかな。
ある人の受け売りだけどね」

と笑った。

信濃はその答えに「ふーん...難しいね」と返すだけだった。

「本気の恋とか、人間臭い事は無理してやらなくていいんだよ。そんなの抱えて刃が曇ったら困るだろうし」

「大変な心だね」

「それでも刀剣男士に心を与えたんだよ、私達は」


そう言った審神者の表情は少しだけ悲しそうだった気がした。

9/11/2024, 11:59:00 AM

《記念日》
(刀剣乱舞/後藤藤四郎)


ある日、近侍を務めていた後藤藤四郎は、審神者の部屋に飾られた暦にふと目が止まった。

「なぁ大将。ここの日に印あるんだけど、なんかの記念日か?」

審神者は暦を見て、「あぁ」と頷き、

「その日は誕生日なんだよ、私の」

と続けた。


それは今日から一週間後のことだった。


後藤は驚き、「なら祝おうぜ!」と提案した。

審神者は「いいのに」と笑いながらも嬉しそうだった。



後日開かれた宴は、とても賑やかなものだった。

審神者も刀剣男士からの祝いの言葉に照れながらも笑い、楽しそうに過ごしていた。


後藤はそんな審神者の顔を見ながら、これから先、何年、何十年と同じように祝えるように、この本丸が続くようにと願っていた。











9/10/2024, 10:43:29 AM

《心に穴が空く》
(刀剣乱舞/厚藤四郎)


その本丸で、厚藤四郎は初鍛刀だった。

初々しい審神者を初期刀と共に支えてきた。

負けた時の悔しさも、勝った時の喜びも、修行から戻ってきた時の更なる強さを誇れた気持ちも。

酸いも甘いも味わってきた。


気付けば顕現してから数十年経ち、審神者も随分と老いた。

そしてその命が閉じられる日が訪れた。


鼓動が止まり、冷たくなった審神者を見た時。

今まで戦場で人々の死を見てきた時には感じなかった「喪失感」を抱いた。


人の身を得て初めて実感するこの感情。


厚藤四郎は初めて知るその感情を抱きながら、静かに審神者を弔った

9/9/2024, 10:41:57 AM

《世界で1つしかない存在》
(刀剣乱舞/骨喰藤四郎)


骨喰藤四郎は焼ける前の記憶が無い。

どこで焼けたのかすらぼんやりとしていて覚えていなくて、同じく再刃された鯰尾藤四郎は前向きに明るく振る舞うが、骨喰はそうもいかなかった。


そもそも何故かつての人間は焼けた自分を再刃したのか。

「焼ける前の"骨喰藤四郎"の写しが現世にはあると言うが、ならば俺が居なくても良かったんじゃないか....?」


馬当番でふと零れた独り言に、ハッとしたがもう遅い。

共に当番の鯰尾は「うーん、そうだなぁ」と手を止めて何かを考える。


「骨喰や俺やいち兄が再刃されたのはさ?やっぱり元の主とか吉光作だからーとかあると思うよ?でもさ?
人が骨喰藤四郎を愛してたから再刃したんだと思うんだよねー」

「俺を愛してたから....」

「ここに居る刀剣男士は皆、人によって大切にされたからここにいられるんだよ」

「骨喰も俺もいち兄も、写しがいたって、世界で一つしかない存在だから再刃されたって思えるよ」


そう言って笑う鯰尾は、とうに修行を終えているせいか、前より達観していて、明るく、強く見えた。


自分も、修行を経るとそうなれるのだろうか。


骨喰はそう思いながら、これからの事を考え始めた。

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