瑠璃

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9/11/2024, 11:59:00 AM

《記念日》
(刀剣乱舞/後藤藤四郎)


ある日、近侍を務めていた後藤藤四郎は、審神者の部屋に飾られた暦にふと目が止まった。

「なぁ大将。ここの日に印あるんだけど、なんかの記念日か?」

審神者は暦を見て、「あぁ」と頷き、

「その日は誕生日なんだよ、私の」

と続けた。


それは今日から一週間後のことだった。


後藤は驚き、「なら祝おうぜ!」と提案した。

審神者は「いいのに」と笑いながらも嬉しそうだった。



後日開かれた宴は、とても賑やかなものだった。

審神者も刀剣男士からの祝いの言葉に照れながらも笑い、楽しそうに過ごしていた。


後藤はそんな審神者の顔を見ながら、これから先、何年、何十年と同じように祝えるように、この本丸が続くようにと願っていた。











9/10/2024, 10:43:29 AM

《心に穴が空く》
(刀剣乱舞/厚藤四郎)


その本丸で、厚藤四郎は初鍛刀だった。

初々しい審神者を初期刀と共に支えてきた。

負けた時の悔しさも、勝った時の喜びも、修行から戻ってきた時の更なる強さを誇れた気持ちも。

酸いも甘いも味わってきた。


気付けば顕現してから数十年経ち、審神者も随分と老いた。

そしてその命が閉じられる日が訪れた。


鼓動が止まり、冷たくなった審神者を見た時。

今まで戦場で人々の死を見てきた時には感じなかった「喪失感」を抱いた。


人の身を得て初めて実感するこの感情。


厚藤四郎は初めて知るその感情を抱きながら、静かに審神者を弔った

9/9/2024, 10:41:57 AM

《世界で1つしかない存在》
(刀剣乱舞/骨喰藤四郎)


骨喰藤四郎は焼ける前の記憶が無い。

どこで焼けたのかすらぼんやりとしていて覚えていなくて、同じく再刃された鯰尾藤四郎は前向きに明るく振る舞うが、骨喰はそうもいかなかった。


そもそも何故かつての人間は焼けた自分を再刃したのか。

「焼ける前の"骨喰藤四郎"の写しが現世にはあると言うが、ならば俺が居なくても良かったんじゃないか....?」


馬当番でふと零れた独り言に、ハッとしたがもう遅い。

共に当番の鯰尾は「うーん、そうだなぁ」と手を止めて何かを考える。


「骨喰や俺やいち兄が再刃されたのはさ?やっぱり元の主とか吉光作だからーとかあると思うよ?でもさ?
人が骨喰藤四郎を愛してたから再刃したんだと思うんだよねー」

「俺を愛してたから....」

「ここに居る刀剣男士は皆、人によって大切にされたからここにいられるんだよ」

「骨喰も俺もいち兄も、写しがいたって、世界で一つしかない存在だから再刃されたって思えるよ」


そう言って笑う鯰尾は、とうに修行を終えているせいか、前より達観していて、明るく、強く見えた。


自分も、修行を経るとそうなれるのだろうか。


骨喰はそう思いながら、これからの事を考え始めた。

9/8/2024, 12:40:11 PM

《刀の本能》
(刀剣乱舞/一期一振)


一期一振は再刃された刀である。

かつて乱刃の刃文をもっていたが、現世の帝にある一期一振は直刃の刃文だ。


故に、かつての一期一振と今の一期一振は別とも言えるかもしれない。

刀剣男士の一期一振とて同じこと。

かつての主の記憶は記録を見ているようで、自身のことだと実感できぬまま。

だからこそ、平和な世しか知らぬ一期一振にとっては、血なまぐさい戦場はどこか縁遠いものだった。




しかし、一期一振は紛れもなく"刀剣"であった。


ある日の戦場にて、一騎打ちまで追い込まれた事があった。

その時、一期一振は今まで浮かべたことの無い笑みを浮かべたのだ。


(あぁ、そうか。これが刀として、武器としての本能であり、本望が見せる高揚感か)

そしてその高揚感は高鳴る鼓動として全身を脈打った。


血が駆け巡り、脳が冴える。


「これ以上、好きにはさせん!」


振るう刃は、美術品としてのお飾りの美しさだけではなく
実践刀としての鋭い切れ味を誇り、敵を斬る。


そして敵を殲滅し、傷だらけのボロボロな姿で、

一期一振は笑っていた。

9/7/2024, 11:22:48 AM

《踊るように生きて》
(刀剣乱舞/鬼丸国綱)


鬼丸の今代の主は、一言で表せば"自由な人"だった。

喜怒哀楽がはっきりしていて、好きなように生きている。

縛られずに生きることをモットーとしている姿は、鬼を斬ることしか興味がない自身からすれば縁遠いものだった。


1度、「何故そんなふうに生きられるのか」と鬼丸が尋ねたことがあった。

審神者は、「1度きりの人生なら、踊るように楽しく生きなきゃ後悔すんじゃん?」と笑って答えた。

鬼丸はその答えにも、やはり自分とは縁遠いものだと思いつつも、"1度きりの人生"という言葉だけは身近に思えた。


ならば、自分は審神者のように踊るような刃生を送ることは出来ずとも、審神者の人生が踊るようなものであれるように、力を貸そうと思えた。

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