《明けぬ朝は無い》
(刀剣乱舞/にっかり青江)
草木も眠る丑三つ時、にっかり青江は目が覚める。
「はぁ....」
理由というのは悪夢を見たからである。
刀も夢を見るのかと思ったが、実際見ているのだから仕方が無い。
かつて自分が斬った女と子供の幽霊が出るのだ。
あの人おなじ笑みを浮かべた女と、無邪気に近寄ってくる子供の姿にゾッとして飛び起きる日々。
とはいえ解決しないままでは困る為、"夢の中"という特殊な状況にうってつけの刀・姫鶴一文字に"夢の中にもぐってもらう"ことにより、解決の糸口を探すことにした。
夢の中ではあの日のように女の霊が幼子を腕に抱いて笑っている。
「っ.....」
逃げ出したい気持ちを抑える。
その時、隣にいる姫鶴が「あの女の人、なんか言ってない?」と呟く。
青江は「え?」と声を漏らし、改めて女の霊に向き合う。
「.......」
確かに何か、口が動いてるように見える。
「斬っちゃダメだかんね。あの人の伝えたい事を聞くのは、青江の責務だかんね」
姫鶴の言葉に青江は頷き、一歩近づく。
霊は笑ったまま青江に近付く。
そしてようやく音が聞き取れた。
「私たちを斬ってくれてありがとう。あなたのお陰で苦しみが無くなったのよ」
そしてフッと霊は消えたのだ。
目が覚めると朝日が昇り、時告鳥が鳴いている。
「ははっ....。なんだ....それを伝えたかったんだね....」
長い夜の終わりを告げる時告鳥の鳴き声は、青江にとっての暗く終わりの見えない夜の時間に終わりを告げていた。
呪いとも呼べる己の逸話に苦しむ時間は、ようやく終わったようだ。
《聞こえるのは波の音か》
(刀剣乱舞/数珠丸恒次)
「おや、何をされているのですか?」
数珠丸恒次が審神者の部屋の前を通った時、審神者は何かを耳に当てていた。
審神者は、「貝殻を耳に当てると波の音が聞こえるのだ」と答えた。
数珠丸は、ほう。と呟き、自分にも聞かせて欲しいと頼んだ。
審神者は応え、貝殻を数珠丸に渡し、彼も審神者と同じように耳に当てて音を聞いていた。
数珠丸は「なるほど」と感心したような声を出した後、
何処でこれを手に入れたか問いかけた。
審神者は連隊戦で部隊の一振りが持ち帰ってきた物だと答える。
数珠丸はその答えにも「なるほど」と、今度は何かを考えるような様子で反応をし、
「しかし、戦場より持ち帰るのは資材のみ。この様なものを本丸に持ち込むと、時として災いを招くかもしれませんよ」
と続け、この貝殻を自身で処分すると言った。
審神者は納得した様子でそのまま貝殻を彼へ託す事にした。
そして数珠丸はその貝殻を持ったまま、自室へと戻った。
そこには同派のにっかり青江がおり、彼は数珠丸の手元の貝殻を見ると、「おや、そんなものを持ってどうしたんだい?」と、不敵に笑った。
「波の音が聞こえる、と言っていたので預かりまして」
「波の音、ねぇ....」
にっかりも気付いている事は数珠丸も分かっていた。
この貝殻に耳を当てた時、聞こえて来たのは波の音のようなノイズではなかった。
"助けて" "苦しい"
そんな悲鳴のような、怨念のような声が数珠丸には聞こえた。
にっかりも、その逸話の事もあり、この貝殻に内包する"良くないモノ"が見えているようだった。
「正しき道へと導いてあげなくてはなりませんからね」
「優しいねぇ、数珠丸さんは」
そんな夏の日の話。
《あの日見た煌めき》
(刀剣乱舞/ソハヤノツルキ)
夏の夜。夜火奪還作戦の甲斐があり、花火が打ち上がる景趣を手に入れたとのことで、本丸の皆で花火を見ようという話になった。
ソハヤは軽装に着替え、兄弟の大典太と共に花火が打ち上がるのを待った。
そして審神者の合図で花火が華やかに空に咲く。
色とりどりの夜の花が、夜空を彩る。
多くの刀剣男士が「おぉ!」と声を上げて喜ぶ中、ソハヤは、ふとある記憶が蘇る。
こんな打ち上げ花火ではなく、もっと身近で見れた....。
「手筒花火だ....」
あの日、駿府城で見えた煌めきを、ソハヤは朧気だが思い出したのだ。
かつての主、徳川家康が見た手筒花火の煌めきを。
「刀でも打ってんのか、ってくらいの火花だと思ったが、花火だったんだな....」
何百年の時を経て、あの日見た煌めきは
今はより一層美しく輝いている。
《些細な事の積み重ねが理由となる》
(刀剣乱舞/大典太光世)
病に伏した際は枕元に置けば治るとも言われた霊刀。
その強大な霊力ゆえ、小鳥も近付けない為、かつては蔵に厳重に仕舞われた刀剣。
強さに縋るのも、その強さを恐れて蔵に閉じ込めたも人間だと言うのに、その身勝手さを許し、愛した刀。
それが【大典太光世】なのだ。
主が苦しむなら元凶を断ち切ろう。
皆と見る明日を信じられたのは、外の世界に連れ出してくれた"審神者"のおかげだから。
蔵の窓から見えた四季の移ろいを、この身をもって体感できた。
些細な事と笑うかもしれないが、与えられた愛を返したいから、刀を振るい、過去を守り、未来へと繋げるのだ。
人々に愛され、守られて、今の主に会えたのだ。
歴史を守るには十分な理由にはなるだろう?
そう言って微笑む大典太光世の顔には、出会った頃の暗さはもう見えない。
《灯火が消えぬように》
(刀剣乱舞/石切丸)
石切丸という刀剣男士は、戦より神事に親しみを持つ刀だ。
敵を斬ることより病魔や厄災を断つ。
人の為に、人ならざるモノを斬る刀。
その点においては、今の彼の斬る敵も人ならざるモノであり、大差ないと思えたのが修行先での気付きらしい。
病魔や厄災を斬ることで、人々の心に灯る灯火を守り、
敵を斬ることで、その先を生きる人々の生命という灯火を守る。
誰かを救う、ということ。
誰かを守る、ということ。
それは人々の笑顔と明日を護ること。
それが今の石切丸が刃を振るう理由なのかもしれない。