《聞こえるのは波の音か》
(刀剣乱舞/数珠丸恒次)
「おや、何をされているのですか?」
数珠丸恒次が審神者の部屋の前を通った時、審神者は何かを耳に当てていた。
審神者は、「貝殻を耳に当てると波の音が聞こえるのだ」と答えた。
数珠丸は、ほう。と呟き、自分にも聞かせて欲しいと頼んだ。
審神者は応え、貝殻を数珠丸に渡し、彼も審神者と同じように耳に当てて音を聞いていた。
数珠丸は「なるほど」と感心したような声を出した後、
何処でこれを手に入れたか問いかけた。
審神者は連隊戦で部隊の一振りが持ち帰ってきた物だと答える。
数珠丸はその答えにも「なるほど」と、今度は何かを考えるような様子で反応をし、
「しかし、戦場より持ち帰るのは資材のみ。この様なものを本丸に持ち込むと、時として災いを招くかもしれませんよ」
と続け、この貝殻を自身で処分すると言った。
審神者は納得した様子でそのまま貝殻を彼へ託す事にした。
そして数珠丸はその貝殻を持ったまま、自室へと戻った。
そこには同派のにっかり青江がおり、彼は数珠丸の手元の貝殻を見ると、「おや、そんなものを持ってどうしたんだい?」と、不敵に笑った。
「波の音が聞こえる、と言っていたので預かりまして」
「波の音、ねぇ....」
にっかりも気付いている事は数珠丸も分かっていた。
この貝殻に耳を当てた時、聞こえて来たのは波の音のようなノイズではなかった。
"助けて" "苦しい"
そんな悲鳴のような、怨念のような声が数珠丸には聞こえた。
にっかりも、その逸話の事もあり、この貝殻に内包する"良くないモノ"が見えているようだった。
「正しき道へと導いてあげなくてはなりませんからね」
「優しいねぇ、数珠丸さんは」
そんな夏の日の話。
9/5/2024, 11:49:44 AM