イブリ学校

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10/5/2023, 12:56:58 PM

死んだら星になるって素敵だね。
何気ない顔で夢見がちな彼女は言った。
そして僕はこう答えた。
星は遠いから嫌だ。せめて海の底がいい、暗くて落ち着きそうだし。
それに対して、彼女は相変わらず夢がないと笑った。

彼女は夢だったプロのチェロ奏者を目指していた。だから、毎日毎日遅くまで音楽教室で練習して、帰りに塾の僕と合流するのがお決まりだった。
そして、彼女の遠くまで響くチェロの音は、僕のような卑屈で深い海の底がお似合いのような人間の心にも温もりをくれるようだった。だから、僕は彼女のチェロが好きだった。

ある日、僕は彼女といつも合流する場所で待っていた。しかし、待てども彼女は現れなかった。僕は、まだ音楽教室にいるのかもしれないと思い迎えに行ってみることにした。しかし音楽教室はとっくに光を失い非常灯だけが不気味についていた。
僕はなにか怒らせるような事をしてしまったかと思ったが、一応の先に帰るという連絡だけを冷たい携帯で彼女に送り家に帰った。

帰宅早々、慌てた母から彼女が亡くなったことを告げられた。事故死だった。どうやら、母が言うには「小さな子を守ろうとトラックに飛び出してしまった。小さな子の命に別条はなかったらしいが彼女は即死だった」ということだった。
「彼女らしいな」僕はそう思った。

自分も目の前の小さな子も助かるという夢を見て、トラックにぶつかったのだろうか、
自分の夢はどうした、
チェロ奏者になるんじゃなかったのか、
夢の見過ぎだ、
現実を見ろ、
死んだらすべて意味ないじゃないか、

涙は出なかった。
親友の死だというのに僕は何も感じなかった。
自分が嫌いになった。
自分に向かって「やはりお前は海の底がお似合いだ」そう言って、気持ちの悪い湿気ったベッドの中で眠った。

僕はその日、夢を見た。それは見渡す限りの黒い空と夜独特の不気味な海が広がり、そこにぽつんと裸足の僕が岩の足場に突っ立っていた。
冷たい岩肌が足に刺さり、夢なのか疑った。そして僕は足の痛みに耐えられず思わず膝をついた。膝をついた瞬間、海の中を覗いてしまった。そこには、ただ暗闇と無音の何もない世界が気持ちよさそうに広がり僕を誘っていた。僕はいよいよ膝と足の痛みに耐えられなくなり、海に飛び込もうと思った。その時、海面に光の点が一瞬煌めいた。なぜだか、僕は絶対に見逃してはいけない気がして、その光の点が煌めいた場所を凝視した。すぐ後ろでまた煌めいた気がして僕は振り返った。また別の場所で光っては僕は見失った。見失う度に僕の胸にはなにか熱いものが湧いた。そして一瞬、あのチェロの音が聞こえた気がした。僕は、目を閉じてもっと集中して耳を澄ました。それは波の奥、聞こえにくいがはっきりと存在した。彼女の暖かいチェロだった。何かが光った気がして僕は目を開けた。
そこには、さっきまでの何もない暗い海面に眩しいほどの光の点が波に揺られながら無数に散らばっていた。
とても綺麗だった。
不意に上を見上げないと何かが垂れてしまいそうになり、顔を上げた。
そこには、すべてを許すように満天の星空が悠々と広がっていた。僕は何処かに彼女がいるんじゃないかと思い探そうとした。それなのに僕は海の底から出てきたばかりのようで目から暖かい海水が溢れ出てしまって、ぼやけてなにも見えなくなった。海の底に居続けたせいでそれは一向に止まらなかった。そして僕は心に誓った。もし彼女にもう一度会えるなら僕は最後、星になる。


10/4/2023, 1:13:49 PM

「お前みたいなガサツな女お嫁に行けるわけ無いだろw」
「うーわノンデリ過ぎてモテなさそー、一生童貞乙w」

中学の頃からの腐れ縁の俺等は花の高校二年生になり雑草も枯れてしまいそうな軽口を叩きながら、お決まりの公園で少し湿った進路希望の紙を見ながら。

俺は言った
「つか進路とか決まってないのにさあ、いきなりすぎじゃね。お前どこ行くとか決まってる?」
そいつは言った
「あー私も決まってないわー、やりたいことってぼんやりしすぎててわかんないよな」
俺はなんとなく言った。
「やっぱ無難に受かりそうで偏差値高いとこにするかー」
そいつは何も言わなかった。

翌日先生に呼び出されて私は鬱々と職員室に向かった。先生はできるだけ私を落ち込ませないように、でも正直に言った。
「私さん今のままだとこの進路は厳しいかもしれないね」
私は言った。
「…ですよね。やっぱり変えようかなって」
先生は慌てて言った
「高い目標を持つことはいいことなんだよ。でもそこに行くにはやっぱり覚悟がないと難しんだ。志望理由が『偏差値が高いから』ってあるけどこれだけだとどうなのかなあって思うんだ」
私は死にそうになりながら
「ん゙ん゙ー」
唸った
先生も
「ん゙ん゙ん゙ー」
唸った

教室に帰ったあとあいつが私に言ってきた。
「お前聞いたんだけど、第一志望◯◯大学だろ。絶対無理だから先生に呼ばれたろw」
私は言った。
「キモ、人の進路盗み見んなよ」
あいつは言った
「いや聞いたんだよ、でも喜べ俺もそこだから。」
私は言った
「アッソ」

それから私は死ぬ気で勉強した。でも、あいつに会う時間が少なくなってしまって一体何のために勉強しているのか分からなくなりそうになった。苦しい時は、この後も一緒にいられるためだと思って頑張った。

合格発表日、私はネットで神様に何度もお願いしながら番号を確認した。合格していた! 次に、盗み見ておいたあいつの番号を確認した。合格だ!
嬉しくてたまらなかった。
すぐにあいつに私は電話をかけた。
「おいおいおい、おいーやったよー合格だったわあ。いやー中々に難しい試練だったよ。あれもしかして落ちちゃったのかなぷーくすくす」
あいつは少し暗い口調で言った。
「あー一応受かったわ。でも俺やっぱ行かないわ。」

「え」
「なんでどした、何かあったの?」

「あーそれがさ実は…」
あいつは何か後ろめたそうな声で、実は落ちると思っていた芸大に受かった事、やりたいことができた事を伝えてきた。私は何も考えられなくなって一言だけ
「そっか頑張ってね応援してる」
そう言って電話を切った。
あいつはなにか付け加えようとしていたみたいだった耐えられなかった。
私は毛布に抱きつきながら泣いた。
芸大はいまレベルの偏差値に加え、デッサンが必要だった。それは私には無理だった。

翌日あいつから電話でいつもの公園で話そうと言われ鬱々と家を出た。公園についたときあいつはソワソワしていた。私はそっけなく
「来たぞー、このクソ裏切り者が」
といった。
あいつはいきなりこう言った。
「大学行ったら俺たちって別々の道になるのかなやっぱり」
私は言った。
「あーまあそうなんじゃね」
それからのあいつはおかしかった。いやぁだの、そのぉだの、遠いとはなにかだの意味のわからない事ばかりを言っていた。私はしびれを切らして
「要点だけ言えよ。もう帰るぞ」
といった。あいつは追い詰められたネズミのような顔をしながら
「俺と付き合ってくださぃ」
小さな声でいった。私は確かに聞こえた。でも信じられなかった。私は嬉しさよりも戸惑いが勝って、
「今なんて言った」
そう言ってしまった。
あいつは限界を迎えて、顔を真赤にしながら言った。
「俺の踊りに付き合ってください」
「え」
あいつはいきなり変な歌を歌いだして、奇妙な踊りを踊り始めた。私は呆気に取られ。一つ間をおいて笑ってしまった。そこから私は踊ってるあいつが差し出した手を取って、一緒に笑いながら踊った。

10/3/2023, 12:04:51 PM

「もう終わりにしよう」
ヒーローはそういった
「お前が終われ」
悪役は答えた

ある時、ヒーローはすべてを手にした場所で生まれた。
ある時、悪役はすべてを失った場所で生まれた。

その後、ヒーローは最善の未来を選択する力を手にする代わりに弱き者に寄り添う心を失った。
その後、悪役は最悪の状況に身を置く代わりに、全ての弱き者に寄り添う心を得た。

ヒーローは最善の未来のために、許容できない人間を切り捨て、最低の人間だと言われるようになった。ヒーローは泣いていた。
悪役は切り捨てられた人間を哀れみ慈しみ、最も素晴らしい人間だと言われるようになった。悪役は怒っていた。

そして革命が起こった

ヒーローは自分の家族を逃がすために、急いで自分の家に帰った。そこにはヒーローの家族の首元にナイフを押し当てる悪役がいた。ヒーローは泣きそうになりながら言った「頼むやめてくれ…」
悪役は言う
「切り捨てられる人間の気持ちを知っているか?」
それから、ヒーローは泣きながら、切り捨てた理由、そうせざるを得なかった事情、それらに対する後悔を説明をした。その時、悪役はヒーローの後悔に動揺した。悪役は、もしも出会う形が違ったならば理解し合うことができたかもしれないと思った。悪役が迷っていると、外で革命を起こす切り捨てられた人間たちの声が聞こえてきた。それを聞いた悪役は無表情になりこう告げた。
「これで少しは分かるだろう」
ヒーローの家族は喉を切られ苦しそうな呼吸をしながら息を引き取った。そしてヒーローは泣き叫びながら自分で切り捨てた人間たちに取り押さえられた。そして、人々は悪役に対して
「彼こそがヒーローだ」
そう言った

悪役は死刑台に立ちヒーロに向かって言った。
「もう終わりにしよう」
ヒーローはいった
「お前が終われ」


10/2/2023, 1:03:33 PM

勝てる!
eスポーツ世界トーナメント準決勝、俺は意識が朦朧とする中、老けたシワを抱えたレジェンドを見た。レジェンドはコントローラーを重そうに持ちながら俯いている。視線を俺の画面に戻すとそこにはデュースを表す2-2の文字が点滅していた。

ゲームは所詮、有利不利の押し付け合い。そして、相手は歴戦のレジェンド、このゲームに関わってきた時間という絶対的な有利が存在していた。しかし、今0-2からの逆転デュースによって完全に観客たちの心を支配し勢いという圧倒的有利を俺は手にしていた。観客たちは今この瞬間も俺へのコールを続けていた。感謝の意を込めて手を上げれば声援は指揮者に従うように勢いを増した。

いける。
覆せる!時間という絶対的な有利を!

最終ラウンド開始に向けて俺はもう一度コントローラを握り直した。そしてレジェンドをもう一度見たとき俺は驚愕した。それはレジェンドがまるで疲れなど感じさせないような力強く落ち着いた様子でコントローラを持っていたからだった。ついさっきとは別人だった。
落ち着け今有利は俺にある。
そして、息をつく暇もなく最終ラウンドが始まった。
その瞬間レジェンドのとてつもない猛攻が襲いかかった。ガードするのが精一杯だった。俺が手を出せば一瞬でカウンターをもらいあっという間に壁際に追い込まれた。すべてを対策されていた。そして壁際で必死に攻撃を捌きながら、俺は

「レジェンドは敗北を予感して俯いていたのではなく、脳と手を休ませ対策をねっていた」

と悟っていた
そしてHPが半分を切った瞬間、レジェンドは冴え渡った読みを通し凄まじいコンボと必殺技を流れるように繰り出した。それは永遠に思える時間をゲームに費やさなければできない動きだった。
俺は自分の勘違いと弱さに絶望した。

その後、大会の全試合が終了したあとレジェンドは俺のもとに来てデュースに持ち込んだ時の気迫を褒めてくれた。そして一言、
「時間は若者の味方だ君はもっと強くなれる」
そう言って去っていった。

そして今、俺は老いたシワを抱え、時間という有利を振りかざし若者の前に立ちはだかっている。

レージェンド!レージェンド!レージェンド!

10/1/2023, 3:20:24 PM

青白い肌の少年は絵を描く道を選んだ。
芸術の才能は25で死ぬらしい。
それでも描き続けた青年は壮年になった。
昼下がり絵以外何もない自室で彼は白い首に湿った縄をかけた。

跳ぼうとした瞬間、床の隅に置いておいたラジオからザーザーと音が流れてきた、
「ゆ…夕日が…落…ば」
彼は気になって縄を外し、ラジオのコマをいじった。
「今日、夕日が落ちる瞬間世界は爆発すると政府が…」
ラジオはその瞬間壊れて何も聞こえなくなった。
彼はラジオの内容を頭で何度も反芻した。
彼は爆発するそれまで生きることにした。

暇になった彼は思い出の夕日の見やすい丘の上を目指した。
夕暮れに沈むオレンジの夕日、それを讃えるように広がる青や桃色の雲、うっすらとのぞく夜の紫、疲れた赤色に染まる街並み。
彼は思い出していた。絵を描く理由を。
彼は現実よりもきれいな絵を描きたかった。
未来の自分と約束していた。
彼は涙が止まらなかった。
奇妙な鉄がひしゃげるような音がした。
彼がそちらを向くとそこには地面に接してしまいそうなほど暮れた夕日が無慈悲に存在した。
彼は戦慄した。
彼はおもむろに手帳とペンを取りだし泣きながら風景を写し始めた。彼はペンが急いで紙はボロボロで何もうまくかけなかった。
今日ラジオが流れた瞬間、縄を首からはずした理由も丘の上にきた理由も彼には分かっていた。
彼はまだ死にたくなかった。

世界が爆発することなどなかった。
彼の名はどこにも残らなかった、それでも作品は誰もが目を見張る夕日の名画として残り続けていた

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