ぼさぼさのかみにメガネの女が教室に入って来て隅の席に座った。それを見た俺の周りにいた奴らはクスクスとメガネ女の話をし始めた。俺もそれに同調する言葉を並べてテキトーにヘラヘラ同意した。その時、俺の周りの奴らの中で一番中心的な男が、ニヤニヤと言った。
「今からじゃんけんで負けたらあのメガネと一週間付き合うドッキリしようぜ」
俺はメガネ女を屋上に呼び出し、好きだったと言うこと(嘘)と付き合ってほしい旨をロマンのかけらもない言い方で伝えた。メガネ女の方は顔を赤らめ小さく一言「よろしくお願いします」そう言った。俺は後ろに隠れてニヤニヤしている奴らやメガネ女にばれないように空に向かって特大のしかめっ面をした。
それからメガネ女こと佐々木萌と登下校を一緒にするようになり色々な話をした。それによるとどうやら萌は毎晩遅くまで漫画を描いているらしい。朝の支度が遅れて困ると嘆く萌と萌の髪の毛を見ながらなるほどと俺は手をうった。その日、俺は萌の部屋に呼ばれた。俺はどうしても萌の漫画を見てみたかったが萌は結局、自身がないと見せてはくれなかった。その代わり一枚のイラストを萌は見せてくれた。そこには美味しそうなハイライトで表された鯉と宝石のように輝く水面が描かれていた。
「うますぎだろ」
俺の口からは感嘆の言葉が自然にこぼれていた。それを聞いた萌は小っ恥ずかしそうに下を向いていた。
次の日俺が萌の家まで登校の迎えに行くとそこには、すごくきれいな髪の毛のメガネっ娘がいた。それはもちろん萌えだった。どうしたのか聞くと、どうやら俺が髪の毛を気にしているようだったから美容院できれいにしてきたとのことだった。バレていたのかと俺はドキッとすると同時に
俺は萌を尊敬し、嫉妬した。
「萌はすごいよ」
「なんで?」
「萌は目標に向かって歩ける人間だから」
「?」
「俺は萌みたいに漫画を描くわけでも誰かのために努力しているわけでもない、自分がないんだ」
「ん~、光輝くんだってちゃんと目標に向かって歩いている人間だと思うよ。よっと。」
萌はいきなり俺に拳を向けじゃんけんを仕掛けてきた。俺は反射的に手を出した。俺の負けだった。
「光輝くんじゃんけんよわーい。」
ムスッとする俺を見ながら萌は続けて言った。
「今光輝くんは負けたけどそれも、それはじゃんけんに勝つっていう目標に向かって歩いた証でもあるよね。人間生きてれば必ずなにかに向かって歩いているものだと思うよ。だから大丈夫だよ。光輝くんきっと歩けてるよ。」
萌は背伸びしながら俺の頭をなでた。俺は萌に顔を見られないようにしながら小さく一言「ありがとう」と言った。
「ドッキリ大成功ー!」
構内に響き渡る声でニヤついた奴らが近づいてきた。俺は血の気が引いた。萌はよくわからない様子で少し怯えていた。ニヤついた奴らは俺と萌二人をちらちらと交互に見てから一言
「メガネさんごめんね~。こいつ仕掛け人なんだわ。」
萌から心配そうな視線を感じるが、俺は萌の顔を見ることが出来なかった。
「一週間恋人ドッキリでした」
構内の人間がちらちらとこちらを見てヒソヒソと何かを話している。萌の呼吸が粗くなって鼻をすする音が俺に聞こえた。周りの雰囲気は段々と異様になり、笑えない雰囲気を悟ったニヤついた奴らは焦り始めていた。
「おい光輝」
にやついた奴らは俺の名前を呼んだ。
泣きそうな萌の顔が見えた。
「この人は僕の彼女です。変な言いがかりはやめろ」
俺はそういった
ふらふらと歩いていた
僕は今日死ぬだろう
お腹がすいた
何かが食べたい
僕は勇気を出して誰かに助けを求めた
しかしその勇気はその人にとって嫌なものであったらしい
無視され突き飛ばされ見下ろされた
僕は死ぬ準備をした
その時ポツリポツリと雨が降ってきた
ああなんでなんだ
神様、僕は今から死ぬのに
なぜ試練を与えるのでしょう
死ぬときくらいきれいな青空が見たかった
雨が肌に伝って地面にしみる
その度僕の体からぬくもりが消えていく
もうどうでもいい
そう思ったとき。
大丈夫ですか?
そう聞かれた
みるとそこには大きな傘をさし小さな傘を持った、可愛らしい少女がいた
僕は何も言わず、死ぬのを待っていると
ピタッと雨がやんだ
上を見ると、そこには先程少女が指していた大きな傘があった。
少女の方を見ると、少女は小さな傘をさしてどこかへ歩いていってしまった。
僕はまた目を瞑った
傘があるのに顔から何度も水滴が頬を伝って地面にしみた
僕はそのまま寝てしまった
日の出とともにお前の友人を殺す
多重債務のエロスは処刑を覚悟で王の御前に出た
しかしエロスに向けられた言葉は友人への処刑宣告だった
エロスは理由を尋ねるも王は答えずエロスを見つめ続けた
その時の王の顔はまるでリーチを外したパチカスのようだった
エロスは走った
王に渡すかねを集めるため、友のため
野をこえ山を越え
ただひたすらに地面に頭をこすりつけ
身内や知り合いに微々たる金を恵んでもらい
エロスは走った
あと一人ですべての返済金に届く
そう思って訪れた叔父の家で
エロスの足は折れてしまった
エロスが叔父に頭を下げたところ叔父の逆鱗に触れてしまい持っていた木刀で滅多打ちにされ捨てられたのだった。
エロスは泣いた
泣きながらそれでもエロスは走った
愛のためでも性愛のためでもなく
ただ心から湧き出る何かに突き動かされ
エロスは走った
エロスは転げた
エロスは這った
そしてエロスは角の取れた肉の塊となり王の前に現れた
その肉を見た王の顔には表情が宿り
友人は肉を優しく抱きかかえ涙とともに墓に埋めてやった
リンゴンリンゴン
やつがやってくる
僕は見つからないことを祈りながら押し入れに隠れた
ランドセルに今日の教科書を詰め込むいつもの朝、お母さんが曇った顔で言った。
「電気もガスもつかない」
僕も部屋のスイッチをカチカチしたが何も反応がなかった。そこでお母さんに携帯でニュースが何か言っていないか提案をして、ニュースを見た。それが始まりだった。ニュースの記事は異常事態を知らせるように同じような内容を示していた。
「赤い服を来た何かが各地で発生」
「厚手の赤い服の男が人を襲っている」
なんだコレ、
お母さんと怪しんでいるとチャイムが鳴った。
しかしチャイムとは別にベルのような音もなっていた。
リンゴンリンゴン
ギイイギイイ
部屋を歩くあいつの音がする
ガシャン
ダンダン
バコンッバコンッ
僕を探している。
ズズ…ズズ…ズズズ
近づいてきた。僕は息を潜めた。瞬間音は僕の前で止まった。死にたくない。死にたくない。鼓動が漏れてしまわないか心配で仕方がない。
ズズズ…ズズ
僕は息をした
良かったバレて…
ドカあああああああああん
轟音とともに押し入れにあながあきやつの手が僕の首を掴んだ。僕は引きずり出され、部屋の真ん中へ放り投げられた。僕はなんとか体制を整え逃げようとした。しかしその時やつを見てしまった。真っ赤なコートに黒いブーツ目や顔のある部分から毛が無数に生え、毛をかき分けるように歯茎と血まみれの歯だけが見えた。
僕は腰を抜かし這いずったがすぐに何かにぶつかった。テープだった。お母さんが僕にプレゼントを作るために買っていたテープ紐だった。
「お母さん助けて」
やつが近づいてく来て僕を持ち上げた。醜い口が僕の首に噛みつこうとした瞬間、僕は隠し持っていたハサミでやつの顔の毛を切った。やつは、とんでもないうめき声を上げ床にうずくまった。
「お母さんのかたきだあああああああああああ」
僕はテープ紐を持つとやつの首に巻き付け窓から飛び降りた。ガクンとやつはベランダで引っかかりビクビクとしたあと動かなくなった。
やった僕はやったんだ。やつの死体を見ていると外から悲鳴が聞こえてきた。僕はハサミとテープを持って走った。
「サンタころーす!」
勝ちたい
負けたくない
は
生きたい
死にたくない
に
似ている
勝ちたいと負けたくないは違う
負けたくないの先にあるのは
戦わないこと
勝ちたいの先にあるのは
戦うこと
戦わない考えを弱さと言えるだろうか
戦うことを愚かだと言えるだろうか
生と死に言い換えれば
きっとどちらも尊べる