茶茶葉

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2/4/2023, 11:00:45 AM


 お互いを想いあって、ドキドキしながら初めてしたキス。緊張して歯がぶつかったね。その内上手になっていって、情熱的なキスもしたね。
 もう貴方とは何年もキスをしなくなった。私の唇はすっかり貴方の唇を忘れてしまった。それなのに…貴方は誰か知らない女と何度も何度もキスをしていますね。きっと私の唇なんてもう見向きもしてくれない。
 結局離婚もせず、貴方を野放しにした。最期まで。沢山の花に囲まれて…ああ悔しい。最後に花を手向けるのは妻の私。最後位私を思い出して欲しい。
「…私は貴方を愛していました。貴方は私を愛してくれていましたか?酷いじゃないですか。一方通行なんて。せめてあっちに行く時に持っていって下さいな」
手向けの花を置き、唇を合わせる。すっかり体温を失ってしまった唇。頬に一粒の涙を落として−



「kiss」

2/3/2023, 12:18:55 PM

 
 人間からすれば1000年なんて途方も無く長く、それこそ自分には関係ない年数。でも私達吸血鬼は永く長く生きるの。
 毎日が退屈。夕暮れに起きて、明け方に寝る。起きてる時間が虚しくて200年位寝た事もあったわ。
「ふわーぁ…」
牙の生えた口を開けて欠伸。こんな欠伸もし飽きちゃった。あーあ、楽しい事ないかしら。
 午前3時。今日はとっても綺麗な三日月だからお気に入りの傘をさして夜のお散歩。気分良く鼻歌なんかも歌っちゃったり。
「〜♪」

ガサ「いてっ!」

「誰かいるのかしら?」
「ご、ごめんなさい…」
物陰から出てきたのは1人の少年。
…人間?こんな時間に?
「こんな時間に子供が出歩いちゃダメよ?わるぅい吸血鬼に襲われちゃうわよ?」
「…きれい…」
「へぁっ…??」
いけない、思わず素っ頓狂な言葉が漏れてしまった…。今、え、なんて…
「お姉さん、凄く綺麗。赤い眼に夜なのに透き通る様な白い肌、とんがった牙も…」
…私、魅了の魔法なんてかけてない筈よね?出来ないし…。
「ちょ、ちょっと、君…」
「俺、お姉さんの事好きだ。一目惚れした。一生一緒にいたい」
ちょちょ、ちょっと待って??プロポーズ?え、プロポーズ?
「噛んで」
「え」
「俺を噛んで。血を吸ったら眷族になれるんでしょ?漫画で見た!」
あー…なるほどね。うん、うん、なるほど。
「…人間やめるのよ?貴方きっと後悔するわよ…?」
「いい。お姉さんといられるなら人間なんかやめる」
やだ決心固め即決。はあ、とため息を吐く。これはもう何言っても聞かないパターンね。私だって色んな人間見てきたし。
「いいのね?」
「ぜひ」

つぷ…っ 

肩に噛みつき血を吸う。もう後戻りは出来ない。
「貴方、名前は?」
「俺は裕二。喜多川裕二です。…お姉さんは…?」
「ミサよ。これからよろしくね、ユウんむっ⁉︎」
唇が重なる
「…っぷは。ミサさん、大好きです!」
「〜〜っ!!もうっ!」
真っ赤になってそっぽを向くミサが可愛くて抱きしめてしまう。
「これからも、ずっとずーーっと一緒です!!」



「1000年先も」

2/2/2023, 10:23:07 AM


 この花言葉を知っているだろうか。花の名の通りの言葉だが、なんとも切ない花言葉。

 その青色の小さく可憐な花を君は綺麗だと言い微笑んだ。ヒマワリやサクラの様に咲く季節も知らない。薔薇の様に愛を伝える華やかさも無いように感じる。そもそも僕は君から名前を聞くまではただの雑草だと思ってすらいた。

 君は植物が好きだったね。いや…きっと目に映る全てを愛していたんだろう。全てを慈しむ様な目をしていたね。そんな君は最後まで慈悲に満ちた目で僕をみていた。大きな瞳に透き通った涙を浮かべながら。

「さようなら。私の愛しい人。私は貴方を忘れない。これだけ愛した人を、決して忘れない。最後まで面倒な女でごめんね。それでも−」


『私を忘れないで』

  

「勿忘草(わすれなぐさ)」

2/1/2023, 12:44:57 PM

 昼間のブランコは人気者だ。子供だけで競ったり、親が押して子供がはしゃいで。心なしかブランコも楽しそうに見える。色褪せた赤色のブランコが本来の色を取り戻したかの様に。


 誰もいなくなった夜の公園。風に揺られて時折「キィ……キィ…」と悲しげに軋む音が辺りに響いていた。夜のブランコは名の通り宙ぶらりん。誰にも構って貰えず、ただただ寂しく日が高くなるまで耐える。明日も沢山遊んでもらえるように。


「ブランコ」

1/31/2023, 11:49:21 AM

 頭にはライトを付けた帽子。寒さを凌ぐ厚手の防寒具を身につけて、背中には荷物がタップリ入っている愛用のリュック。たった1人の終わらない旅。

 ここは名も無き廃墟。瓦礫まみれ、隅では見たこと無いような虫が走っている。天井の隙間から僅かな月明かりが差し込んでキラキラと埃を反射させている。きっと僕が歩いたせいで静かだった埃が舞い上がったのだろう。

 旅に目的はない。きっといつかなにかあるだろう、位の軽い気持ちで始めたからいつ終わるかは自分でも分からない。
 
 床に気をつけながら歩く。廃墟は床が脆くちょっとした衝撃で崩れてしまう。「ぐうぅ…」大した成果もないのに一丁前に腹は減る。とりあえず廃墟の中じゃカビ臭くて飯が不味くなってしまうから、一旦外に出よう。

 この旅を始めて随分経つが、肉にありつける回数はごく僅かだ。大方住んでるのが魚と虫。あとは身を削って覚えた食べられる野草。ごく稀にウサギに似た生き物を獲って食べる。残念ながら今晩のご飯は昼間に釣り上げた魚だ。白身なのか、淡白だが臭みもなく食べやすい。
 魚を調理(焼いただけだが)し、野草をサラダに見立て夕食の完成だ。見た目は質素だが味は保証する。…多分。熱いうちに食べ終えて一息。

 この旅の最終目的はない。今やめてしまってもいい。こんな静かなカビ臭い世界じゃなくて、都会の喧騒にまみれた華やかな世界に行っても構わない。それでも分からない「何か」を夢見て僕は進む。


「旅路の果てに」

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