※「鳥のように」「時を告げる」はシリーズ物です。
※ 今作もそのシリーズに当たりますが、読んでいなくても楽しめるように努めております。
生きていて欲しかった。
只、普通に生きて、寿命を迎えて、死んで欲しかった。
それだけだったのに。世界は、それすらも許してくれない。
崖に連なる墓を見つめて、涙を堪えて、前を向く。
後戻り出来ないのは知っている。させてはくれないのも知っている。だから、前を向くしかない。
虚無に包まれても笑顔を絶やさない我等がヒーロー。それを貴方が、貴方達が望むのなら、幾らでも成ろう。それで救われるのなら、前を向いてくれるのなら。
…一緒に、前を向こう。それが一番良い方法なのだから。
だから捜し求めた。一緒に前を向いてくれる人を。
そして見つけた。ぶっきらぼうだけど優しい少年。
彼に好かれる事は如何やら難しかったらしいけど、寧ろその方が良いと思う時もあったから、不満なんて無い。
不満なんて無いのに。ねぇ、神様。
ある日起きた事件で昏睡状態に陥った彼。
何年もの歳月が経ち、漸く目を覚まし、一日たりとも看病を欠かさなかった自分を見て一言。
「…誰だ、手前」
がつんと、衝撃。
また、独りで前を向く。
後ろを見れば墓。山積みの墓。
___喪失感に溺れる。
先日、久し振りに外国人の友人とたこ焼きを食べました。
その時に、どこかで見た「鰹節が踊っている」というのを教えられた外国人が「可哀想じゃないか!」と泣きそうになっている動画を思い出して、真似をしてみようと思ったんです。
「ねぇ、知ってる?」
「何が?」
「たこ焼きの上に乗っているこれ、踊るんだよ。ほら、今もたこ焼きの上で苦しんでる」
友人はまだ鰹節と言ってもイマイチ理解出来ないようなので、こそあど言葉で表してみました。
友人はまんまと信じ込み、「WOW!本当だ。踊っているよ」と、ましまじと鰹節を見つめました。
「ほら、食べてみなよ。美味しいよ?」と言うと、「そんな残酷な事出来ないよ!」と拒否します。それが面白くて、ひとしきり笑った後、食べ切ってしまったので、お皿を返しに行こうと思いました。
友人はまだ食べていません。「冷めるよ?早く食べてね」とだけ声をかけて、その場を立ち去りました。
「……もう行ったね。ほら、早く行くんだ」
そう言うと、人間はたこ焼きの上に乗っていた"それ"を逃がした。
"それ"は必死に何かを言おうとしている。恐らく、有難う、という感謝の言葉なのだろう。人間は優しく微笑んだ。
"それ"は逃げて行く。命拾いしたのだ。この人間の好奇心や、物をまじまじと見つめる癖に救われた。
…人間は、帰って来た友人に一言こう告げた。
「新たな友達が出来たよ」
如何して気付いてやれなかったんだ。
お前はこの世界を、必死で生き抜いてきたのに。
誰よりも優しくて、健気で、愛に溢れていて。その根底にある想いは只一つ。『皆が幸せに天寿を全うする』。それだけだった。
なのに、こうも世界は、人間を残酷な運命に閉じ込めてしまうのだ。
それに気付いた時には遅かった。
引かれた境界線は、越えたくても越えられなくて。お前はいつも通りの笑みで此方を見つめている。
まるで、「また会えますよ」と言いたげに。
そうかもしれない。屹度俺等はまた巡り会える。その時は、その時こそは、お前のSOSを、ちゃんと聞き届けるから。ちゃんと、絶対、手を差し伸べるから。
お前は人の死を見過ぎた。見過ぎて、絶望した。俺等はずっと、お前に護られていた。
手遅れな手は、虚空を切る。
「…また、もう一度、会いましょうね」
*タイムオーバー
*人生 を 再スタート しますか ?
▼ YES
NO
*人生 を リスタート します。
時が告げられる。
また、絶望の幕が開ける。
「初めまして」
「…あ"?誰だお前」
私はよく『泣き虫』と言われる。
自分でも自覚があるし、そう言われるのも仕方ないと思うし、直したいとも思っている。
初めて自覚したのは小学5年生の頃。委員会の仕事で、ルールを守れていない子に注意する役割をもっていた私は、クラスのカースト上位である女の子に注意をした。
その女の子は頑なに守れていない事を認めたくないようで、私に対し苦しい言い訳を繰り返し、大声で怒鳴った。
私が正しいのは明らかだ。絶対彼女が間違っていると断言出来た。それなのに、目の前にいる彼女の責めるような口調、態度、声量に押し負け、涙を流してしまった。
「何で泣くの。私が悪いみたいじゃん。やめてよ」
それ以来私は、その子が苦手になった。そして同時に、私は自分が悪かろうと悪くなかろうと、そう言う言い方をされると泣いてしまう程泣き虫で弱いのだという事を知った。
__そして私は今、カフェで幼馴染と向かい合わせで座っている。
私は、他愛の無い話をする幼馴染の顔を見る事が出来ない。昔のあの出来事がフラッシュバックし、怖くなってしまうから。
幼馴染は、私にメニューを見せてきた。「これ美味しそうじゃない?一緒に食べようよ」と言った。シェアが苦手なタイプなのに珍しい。と思った私は、思わず顔を上げた。
「あっ、やっと顔見てくれたね」
ガシッ、と顔を両手で挟まれる。しまった、罠に嵌ってしまった。幼馴染は私をじっと見つめると、やがて柔らかく微笑んで言った。
「貴方と真正面から向き合いたいの。だからここに座ったんだよ?…昔のまま、弱虫で良いの?」
幼馴染のその一言が、何故か私を鼓舞した。私は否定すると、自分の意志で幼馴染の顔を見つめた。ほんのり嬉しそうにするのを捉えた。
…何だ、案外、単純に克服出来るものなんだな。
私の中の過度な恐怖心が消え去った気がした。
私は幼馴染と、向かい合わせの席で、暫く紅茶を嗜むのだった。
私には3つ上の姉がいる。
姉は中学時代生徒会長をやっていたらしい。先生からの信頼も厚く、姉が卒業すると同時に入学した私はすぐ様有名人となった。
"出来ない妹"として。
姉は勉強が出来た。学年上位の成績を残していた。
姉は運動が出来た。運動会で団長として活躍していた。
姉は芸術が出来た。絵は入賞し歌は上手かった。
ありとあらゆる才能を、あの人は持っていた。
母には姉と同じ高校に進学しろと言われた。その方が制服代を浮かせられるからって。
この辺りじゃ有名な進学校。勉強の出来ない私からしたら雲の上の存在。高嶺の花な姉と同レベルになれ、なんて。
__嗚呼。本当、遣る瀬無い気持ちになる。
私には3つ下の妹がいる。
妹は小学校の頃から独創的なアイディアであっと人を驚かせたらしい。ボランティアにも積極的に参加していて、他地域にも行く事があるからか、クラスメイトが何故か妹を知っていた、なんて事もよくあった。
大好きだ。
妹は気遣いが出来た。人の体調不良にすぐ気付いた。
妹は手伝いが出来た。母と共によく台所に立っていた。
妹はお世話が出来た。近所の子供の遊び相手になっていた。
ありとあらゆる思いやりを、あの子は持っていた。
あの子が母から私と同じ学校に行けと言われているのを見て、申し訳なかった。私は流され易い人間だ。薦められるままに高校を受験して、薦められるままに通っている。
私というブランドをあの子が背負わないように、私は私を抑えなくては。高校では生徒会には入らない。何にも関心の無い、一般女子高校生でいよう。
__嗚呼。本当、遣る瀬無い気持ちになる。