ゆーらゆーら。
そんな音が本当に聞こえそうなくらい、隣のあの子の乗るブランコは現実の音を一切出さずに揺れている。
私の乗るブランコはギィ、カチャ、と金具が擦れる音が断続的に鳴っている。
この違いはなんだろう。
あの子がこっちを見た。にこっと笑うと、ブランコから飛び降りる。
両足をそろえて音もなく着地したその子は、もう一度こちらを振り向いて笑ってみせると、公園の出口へと走り去っていった。
私も真似してブランコから飛び降りる。
ギッ、と金具の擦れる音、次いでドシュッ、と私の着地する音。
どうしてこうも違うのだろう。
体重の違いかな。もしかして私、重いのかな。
そう思いながら、公園の出口に向かう。
そして気づく。
昨日は雨が降ったせいで地面はぬかるんでいて、後ろを見れば私の足跡が点々とついてきていた。少し左には公園に来たときにつけた靴の形が。
それ以外の足跡は、どこにもない。
だけれど確かに、背後のブランコは2つともゆーらゆーらと揺れていた。
旅路の果てには、無数の風船が浮かんでいた。
下から上へ、不揃いな色が飛ばされては空に消えて見えなくなる。
手に届くヒモをつかめる限りつかむ。飛べるなんてことはなく、たくさんの風船を手に入れただけだった。
風船は足元の谷間から浮かんできている。
谷底には、地獄がある。
天国を求めて、死後の世界を旅してきた。
ふさわしいものは天国にたどり着ける。そうでないものは……。
そうか、と悟るしかない。
行き先は谷の下だ。そういう思し召しなのだ。
谷の底を見下ろしていると、上から呼ぶ声がした。
雲のそばで、誰かが手を振っている。
羽がはえ、布をまとい、頭には輪が浮いていた。
こちらまで降りてきて、手を握ってくれる。体が浮いた。
谷間から上がってくる風船が人へと姿を変える。
彼らは地獄で十分苦しんで、許されたらしい。
彼らと私は遥か空へと舞い上がった。
よかった。天国に行けるのだ。
あなたにこれを届けるとき、迷いがあったのは認める。
だけどそうするしかなかったので、あなたに渡した。
あなたは戸惑って、罰の悪そうな顔になったが、それを見る私だってどんな顔すればいいかわからない。
包みにはご丁寧にメッセージカードがついていて、あなたへの愛が恥ずかしげもなく晒されている。
私まで赤面してしまうようなセリフだった。それを受け取ったあなたも、照れているよりは私に見られたことで顔が真っ赤になった。
ありがとう、とあなたは受け取って、扉を閉める。
閉める直前、ばっちりと視線が合った。
閉じた扉を見つめながら、私はしばらく立ち尽くしていた。
去年までは、あなたへ贈り物をするのは私だった。
毎年趣旨を変えて、メッセージカードはあなたにだけ読めるように箱の中に入れて、欠かさず贈っていた。
しかし今となっては、プレゼントを贈れる関係ではなくなっている。
私は配達員の仕事に就いたことを後悔した。
本当は、あなたに届けたいのは他人からのプレゼントではなく、私が選んだプレゼントなのに。
I love mine.
彼女の座右の銘である。
ナルシストだと最初は思ったが、彼女は彼女自身を愛しているからか、とても健康で、いつも機嫌がいい。
愛される人生はいいものだ、それが自分自身ならば嘘ではないだろうと。
彼女は効率もいい人だ。
街を目指す。
宿屋を出て、知らない場所を転々とするのは、私にとって苦痛でしかなかった。
しかし、やめるつもりはさらさらなかった。
安息の地を探すことは、一生をかけてでもしなければならない。
その街は他の街と大差ないように見えた。
しかし、大きく違っていた。
やってきたよそ者を迎えに、家々から人が飛び出してくる。
彼らの目は希望に満ちていた。
私は荷台から荷物を下ろし、人々にお見せした。
歓声が上がる。こちらに走りよってくる。
彼らは荷物ではなく、私の方に全員で抱きつくように囲み、私の訪れを祝い、体の調子を心配した。
私は疲労でこわばった表情をしていたが、心の内は彼らと同じくらい喜びで震えていた!
どの街にいっても人はいない、いたと思い駆けつければとっくに息絶えている。もうこの世に人は生きていないのではないか。私は人と暮らすことが叶わないまま死んでいくのか。
そう思っていた。
飢えながらも旅人を受け入れる彼らの背中に手を回す。
ようやく手に入れた安息の地で、安心しきった私は眠気に襲われ、彼らの腕の中でまどろみ始めた。