これからも、ずっと
彼女と別れて1週間経った。
その間何度も何度もスマホを見ては君から連絡が来てないか、俺の方から連絡しようか迷っていた。
嫌いになって別れたわけじゃないから、未練タラタラなんだ。
突然、君から連絡が来た。
俺の心臓は喜びなのか驚きなのかそれとも恐怖なのか様々な感情で乱れた。
おそるおそるスマホを見ると
『これで最後にするね。もう、ブロックするから連絡しない。ありがとうね。さようなら。』
付き合ってる頃と変わらない淡白なメッセージに少しホッとして、もう二度と連絡できない事実に胸が締め付けられた。
『わかった。俺の方こそありがとう。もう二度と関わることは無いだろうけど、俺はずっと、これからも、ずっと君の幸せを願ってるよ。ありがとう。さようなら。』
まだまだ残る未練のせいで、みっともなく涙を流しながら、俺は大好きな君への最後のメッセージを打った。
沈む夕日
同級生が死んだ。
昨日まで普通に生活して普通に生きていたのに、突然この世界から居なくなってしまった。
友達と呼べるほど親しかった訳じゃないけど、無関係と言う程の仲でもなかった。
友達同士の集まりにたまたま居て、少し話したり、すれ違った時に軽く挨拶を交わす、その程度。
だけど、一瞬の交わりでも彼女の存在、体温、息遣いは私の中に残っていた。
私はあまり感情的な人間じゃなかったから、テレビで誰かが亡くなったニュースを見てもドラマで誰かが死ぬシーンを見ても何も感じなかった。
そんなふうだったから、彼女の死も驚いたけど、きっと感情は動かないんだろうななんて思っていた。でも違った。
彼女の死を知った日もその次の日も次の日も、ずっと心に残り続けた。
自分でもどうして彼女のことがこんなに忘れられないのかわからなかった。
共通の友人との帰り道、
「あの子の死をずっと忘れられないんだ。」と相談すると友人も「同じ」だと言う。
河川敷から沈んでいく夕日を眺めながらふたりで涙を流しながら歩く。
「…でもね、夕日が沈むと、月が出て、月が沈んで太陽が出てまた新しい1日が始まるでしょ?…私たちはまだ生きてるから、少しずつでも前を向いてまた新しい1日を進んでいかなくちゃいけない。いつまでも囚われてちゃダメなんだ。そろそろ、前向いて歩かないとね。」
友人のその言葉に、私の中でずっと止まったままだった時間が動き出した。
君の目を見つめると
瞳の中にはその人の感情が宿っている。私は幼い頃からその感情に色がついて見えた。
だから昔から人の目をじっと見る癖があってよく叱られた。
「あの人、赤い!怒ってる!!…あの人は黄色!楽しいんだって!あの人は〜。」
そんなふうに人を観察しながら街を歩くからよく母に「やめなさい!…気味悪い。」と言われた。
母の目は赤と紫が混じったようなドロドロした色をしていた。
それ以来、私はずっとこの能力を隠しながら生きて、いつの間にか大人になった。
恋人もできたが言えずにいた。でも、彼に隠し事がある後ろめたさに耐えられなくなっていた。
そんなある日、彼とデートで喫茶店でお茶をしてると「なにか僕に言えないこと、ある?」その言葉にドキッとした。なんで、わかるんだろう。
「な、なんで?」おそるおそる尋ねる。
「…灰色だから。君の瞳。灰色に曇ってるから。」
下を向いていた私は思わずパッと顔をあげると彼と目が合った。
彼の目は曇りのないまっさらな透明の色が見えた。
「実は、僕、変な能力?みたいなのがあって目を見るとその人の感情の色がついて見えるんだ。……なんとなく、君も同じなんじゃないかなって思ってたけど、そうだったんだね?」
私は口を開かないかわりに彼の目を見つめた。
星空の下で
朝から人生で1番ツイてない日だった。
目覚ましがいつもより遅れてて、
こんな時に限って信号は赤ばっかで、
遅刻した挙句、仕事では失敗しまくって、
温厚な上司がさすがにブチ切れて、
なんにも身が入らなくて、
出先から帰ってきたらスマホがなくて、
会社中探し回って、気づいたら仕事が溜まってて残業する羽目になり、帰りは23時。
もう日付が変わる。
結局スマホは見つからなくて、もう何もかも嫌になって上を向いた時、そんな俺の頭上には数え切れない程の星が爛々と輝いていた。
その圧巻の景色に一瞬、今日の悪夢みたいなできごとを忘れ去った。
「スマホなんか、なくてもいいじゃん。こんな景色子供ん時以来、見てなかったな…。」
次の日、早めに仕事に行くとあんな探し回ったスマホが俺のデスクの中からポロッと出てきた。
なんかもう1周まわって面白くなって、まだ誰も来てないオフィスの中でひとり大笑いした。
それでいい
忘れ物をして急いで教室に戻る。
教室に人の気配があって入るのに躊躇っていると、私の名前が聞こえて扉を開ける手を止めた。
「あいつってさ、化粧濃すぎてケバいよな?」
「あーたしかに、キャバ嬢みたい。」
クラスメイトの男の子達が私の話をしてる。
私は息を潜めて扉の死角に隠れて盗み聞きした。
「あいつの母ちゃん有名なデリ嬢だったの知ってる?」
「え?マジ!?じゃあ、頼めばヤらせてくれっかな?」
「ほんと、お前はそれしか考えてねぇよな、猿だわ猿。」
悪意ある言葉と笑い声に胸が苦しくて泣きそうになる。確かにママは褒められた仕事をしていたわけじゃないけど、立派に私を育ててくれた。化粧だってママが教えてくれてすごく気に入ってるのに。
ガタッと大きな音をたてて男の子がひとり席を立つ。
「…くだらない。胸糞悪いから帰る。」
グループの1番目立つ子だった、その子は最後まで私の悪口を言うことはなかった。
扉を開けられ不意にその子に見つかってしまった。
「あっ…。」
彼は私に声を出させないように口に手をあてて、シーッとジェスチャーした。
そのまま扉を閉めると私の手を引いて教室から遠ざかる。しばらく歩いて渡り廊下に出た。
「ごめん!明日、あいつらにも謝らせる。酷いこと言ってごめん。お前にもお前の母ちゃんに対しても。」
私は驚いて口を閉じたまま首を横に振った。
「俺は……その化粧、似合ってると思ってるよ。お前はそのままで大丈夫。それでいい。」
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓はドカン!って爆発したみたいに大きく跳ねた。