夜空を越えて
こんなの初めてだったよ。
君といると時間の流れが早くて、あっという間だった。一緒にいるだけで幸せで、気づくと時間が過ぎていた。
夜空を越えて、ふたりで朝日を浴びることもあったね。
本当に、君が僕の運命の人だと思ったよ。
君と残りの人生を歩んでいくんだって。
でも、僕の隣には君はいない。
僕は、君の運命の人になれなかったんだ。
それでも僕はずっと君の幸せを願っているよ。
君の笑顔が好きだったから。
ぬくもりの記憶
赤ちゃんの頃の記憶ってありますか?
赤ちゃんの頃、私は前世の記憶を覚えていました、厳密には産まれてくる直前の記憶。
前世亡くなって、天国に行った私は今の"私"として転生しました。
天国には転生するための滑り台があって転生先を選んで産まれてくる母体の中に滑り落ちます。
その時、私の隣には同じように滑ろうとしている女の子がいましたでも、その子は滑ることはできませんでした。
その子は私と同じ場所へ行くはずだったのに行けませんでした。
「私は行けないみたい。あなたはあのお家にちゃんと行って幸せに暮らしてね。」
私の手をぎゅっと握りしめてその子は言いました。
その話を聞いた私の母は泣き出してしまいました。
私が産まれてくる少し前に、お腹の中にお姉ちゃんがいたけれど、流れてしまったんだと泣きながら話してくれました。
天国で出会ったあの女の子は私のお姉ちゃんになるはずの子だったんです。
私は私の人生が終わるまでこのぬくもりの記憶を忘れないよう胸に刻みました。
凍える指先
指先が凍えて何度も何度も手を擦ったり息をかけたりするけど、全然あったまらない。
ギュッと彼に手を包まれる。
暖かくて大きな手に安心して思わず顔が綻んだ。
「知ってる?手が冷たい人は心が温かいんだ。君は温かくて優しい人って証拠だね。」
その言葉に私はムッとした。
「じゃあ、手が暖かいあなたは冷たい人?」
「…そうかもね?」
彼はからかうように私の手を包み込んだまま応える。
「ねぇ、知ってる?手が暖かい人は手が冷たい人よりももっともっと温かくて優しい人なんだよ!」
彼の口調を真似て得意げにすると、彼は目を丸くしたあと、子供みたいに笑いだした。
雪原の先へ
記憶が日に日に薄れていく。
完全に消える前に行かなくては、あの場所に。
あの、雪原の先にあった小さくて暖かいあの家。
村の人々はあそこには人ならざるモノが住むと恐れ、誰も近づくことはなかった。
僕は孤児で身寄りもなく街をただ彷徨っていた。
ある吹雪の日、寒さと飢えで僕は雪原の中に倒れた。
死を覚悟したが、意識が戻り目覚めると小さな小屋の中で手当され寝かされていた。
その小屋には1人のおじいさんがいた。
子供の僕とほぼ変わらない背丈で長くて立派な髭を蓄えていた。
「おぉ、人間の少年。目が覚めたようでよかった。だが、まだ弱っているようだ。まだ眠っていなさい。」
目の上からゴツゴツした彼の大きな手に包まれ、僕は静かに目を閉じた。
次に目を覚ますと、村の村長の家で目覚めた。
村はずれの道端に倒れていたらしい。
説明したが、誰もそんな小屋もそんな人物も知らないという。
あれから成長するにつれて、その時の記憶がだんだん薄れていく。
あの時の記憶だけが、誰かに意図的に消されているかのように、僕の記憶から抹消されていく。
覚えているのは雪原の先の小さな小屋、小さな老人だけ。
記憶が完全に消えるまであとどれ程の猶予があるのかもわからない。
僕は雪原に向かって歩き出す。
あの日と同じように吹雪の日、無計画に飛び出した僕はまた寒さと飢えで雪原に倒れた。
暖かな空気を感じてうっすら目を開けると、
僕を手当する小さくて立派な髭を蓄えたあの老人が見えた。
雪原の先へ辿り着いたんだ───
白い吐息
朝から凍てつくような寒さだった。
その日、今年の初雪が降った。
そしてその日、私は生まれて初めてキスをした。
16時過ぎに辺りは真っ暗になった。
けれど、お互いまだ帰るのは惜しくて、なんとなく公園のベンチに座る。
肌に刺さるような空気に思わず身震いをすると、君はおそるおそる距離を縮めて、背中から腕を回して私をぎこちなく抱き寄せた。
長い沈黙。
だけど自然と苦痛ではなくて、でも、なんだかソワソワしている。
そうこうしてるうちに空から雪が舞い降りてきて
「あ!雪だ。」 そう言って、君の方を向いた時、君の顔がゆっくり近づいて唇が触れ合った。
スローモーションみたいにゆっくり。
頭の中で理解が追いつかないけど、頬と唇が熱を持ったように熱くなって、
火照った唇を覚ますように口をうっすら開けると、きれいな白い吐息が漏れた。