風を感じて
車窓から少し顔を出して爽やかな海風を感じる。
隣で運転している友人はずっと口を噤んだまま。車内には未だどんよりした空気が漂う。
「…運転お疲れ。なぁ、横見てみ!海!」
明るく振る舞うが、友人は顔面蒼白でしかめっ面をして運転をしていた。
しばらくすると、崖の近くで車が止まる。
「着いたぞ。」
そう言うと、トランクを開けた。
「手伝え。絶対に誰にも見られるなよ!周りを確認しろ。誰かに見られてたら俺らはおしまいだ。」
辺りはすっかり暗くなっていた。暗闇にどこからともなく不気味な波音がこだまする。
「ん。誰もいないから大丈夫だ。…さっさと終わらせよう。」
トランクからビニールシートに包まれた遺体を出して、急ぎ足で海に投げ棄てる。
崖の下を覗きこむと生ぬるくて気分の悪い風を感じた。
夢じゃない
放課後の教室。
暖かい日差しに照らされて眠る君。
そっと隣に座って、あどけない寝顔を眺める。
「う、んー。ふ、ふへへへ。」
突然、笑いだした。
きっと面白い夢でも見てるんだろうな。
そのあまりの可愛さに君に近づいて呟いた。
「…好きだよ。」
「……ぁたしも。好き!ん〜んふふふ。」
「!?」
えっと、まさか、起きてる!?いや、完全に寝てる。それとも、これは俺の夢?
思いっきり自分のほっぺをつねった。
「…いっ、た。夢じゃ、ない。」
心の羅針盤
心には羅針盤がある。
『胸に手を当てて聞く』という言葉があるが、それこそが羅針盤だ。
答えに迷ったら、胸に手を当てて見て欲しい。
心が反応していれば答えはYES。
心が動かなければ答えはNOだ。
進むべき道は常に決まっている、誰もが心の羅針盤を持って人生という大海原を航海しているのだ。
またね
(※8/5 「泡になりたい」続きのお話)
泡になって消えてしまいたい。そう思って海に飛び込んだ。
海の中でひたすらもがく。潔く消えればいいのに本能が体が "生"に執着する。
だけど息は続かなくて意識が遠のいていく。
そんな時、不意に背後から抱き抱えられて海面に上昇していく。
「ぷはっ、うぇっ。ゴホッ、ヴ……ゲホ、ゴホッ。はぁはぁ…。だ、誰?」
そのまま浅瀬まで運ばれた。
「……なんでこんなことするの?あなたは人魚じゃないでしょ!?危ないよ!」
「に、人魚…?」
「荒れた海は私たちでも危険なの!だからもう二度とこんなことしないで!穏やかな海に戻ったらまた君の元気な顔を見せてね!それじゃ、またね!」
そう言うと彼女は荒れた海にまた戻って行った。
彼女の下半身は足の代わりに、まるで魚のような鮮やかなヒレが付いていた。
「また、ね。」
また。その言葉に僕は救われた。
泡になりたい
友人も家族も頼れる人は誰もいない。
孤独だ。
人間として生きている意味がわからなくなってしまった。
泡になって消えてしまいたい。
泡になって消える……。
あれ、なんかこんな話、昔聞いたことがあるような。
人魚姫?だっけ。
どんな話か忘れたけれど、泡になって消えるんだよな。
そんな事を思い出しながら、僕は荒れた海に身を投げた。
人魚姫のように泡になって消える様に。