信号
ひとつ先の信号で君を見た。
追いつきたくて走り出そうとすると、僕の目の前の信号が赤になる。
君の信号は青に変わって、また僕から遠ざかって行く。
「待って!」と叫ぶ声が届かない、姿が見てえているのに追いつけない。
僕の目の前の信号が青に変わった。
僕は走って、赤信号で待つ君を追いかけた。
君に恋する気持ちはこの信号に似ているかもしれない。
想いが届かない、触れられない、行く手を阻まれる。だけど、僕は君に追いつくために必死に走る。君のことが好きだから。
ページをめくる
彼女を初めて見たのは市営の図書館だった。
腰まである長い綺麗な黒髪から日本人とは思えない彫りの深い横顔がチラっと見えた。
伏し目がちに本を読むその目からは、まるで人形のような長いまつ毛が伸びていた。
ページをめくる度に目を輝かせて微笑む彼女にいつの間にか魅入っていた。
僕の視線に気づいたのか彼女は顔を上げて、目が合う。僕はフッと視線を逸らしてしまった。
彼女は僕の横にやって来て再び本を開いた。
「私ばかり見ていないで、あなたも本を読んでみてください。」
小声でいたずらっぽく彼女は囁いた。
夏の忘れ物を探しに
もう夏休みも終わり学校が始まった。
夏休み中は都会からたくさんの人が来て賑わっていたのに、今は地元民しか居ない、また寂れた町に戻ってしまった。
学校帰り1人の男の人を見かけた。
ここら辺では見ないような、オシャレな服に帽子に鞄に。
まるで小説の世界から出てきたような独特な雰囲気のある人。一目見て都会の人だとわかった。
キョロキョロと辺りを見渡して何かを探しているようだった。
「…あの。なんか探しもんですか?」
おそるおそる声をかけると、男の人はふっと笑いかけた。
「あぁ、ちょっと夏の忘れ物を探しに、ね。」
「夏の…忘れ物。」
「うん。」
無我夢中でカメラのシャッターを切る彼にそれ以上話しかけられなかった。彼の独特な雰囲気に飲み込まれそうで怖かった。
彼の去った方を振り返って見ると、もう影も形も無かった。
「…忘れ物は見つかったんかな?」
8月31日、午後5時
8月31日、午後5時。
私は家で動画を見ながらくつろいでいた。
8月31日、午後5時。
ある所では1つの命が天命をまっとうして、家族に見守られて空に旅立った。
ある所では新たな命が産声を上げ、祝福を受けたた。
ある所では汗水垂らして働いていた。
ある所では、またある所では──。
同じ日の同じ時間。
人の数だけ色んな物語がある。
色んな事が起こっている。
これって実は、凄く面白いことなんじゃないか?
ふたり
「…いよいよ、この星には私達ふたりだね。」
星を眺めていると、隣に君が来た。
僕は何も言わずに微笑んだ。
荒廃する地球、刻一刻と崩れ落ちていく。
「最後の時、君とふたりで居れて僕は幸せだよ。」
君は何も言わずに微笑む。