1つだけ
『1つだけ、約束して───。』
何を約束したのか忘れた。
なんだったっけ?誰だったっけ?
死に際になって、なんか思い出した。
人を殺すことを生業にしてるのに、いざ自分が死ぬとなると恐怖心がでてくる。
ようやく思い出した。昔組んでた相棒の最期の言葉だ。
私の腕の中で安らかに亡くなった。
相棒はこんな仕事にしては気の弱いやつだった。
殺した後に毎回「安らかに。」と手を合わせるような人間。
だから死んだ。
そんなあいつは最期に、
『1つだけ、約束して。私が死んだら、あなたは必ず足を洗って。だって、あなたには人殺しなんか向いてないもの。そんな泣き虫じゃ。』
そう言って震える手で私の頬を伝う涙を拭ったんだった。
「ごめん。約束破った…。地獄で待っててな。すぐ行く。」
大切なもの
長く生きると大切なものが増えていき、その分、失うことも増えていく。
初めて大切なものを失ったとき、その衝撃は大きくて心にぽっかり穴が空いたようだった、けれど次第に失うことを経験していくと、穴が大きくなっていく。
「大切なものを失う事に慣れてはいけない。」と誰かに言われた。
別に慣れた訳じゃない、心が穴だらけで使い物にならなくなって、大切なものを失うことへの恐怖に鈍感になっただけ。
エイプリルフール
俺の友達の姉の話だ。
友達の姉は超がつくほど凶暴な女で。
友達は昔から口喧嘩でも取っ組み合いの喧嘩でさえも勝てなかったそうだ。
そんな姉から今度結婚すると連絡があり、友達は
「あんな怪獣みたいな女でも結婚とかできるんだ。」と度肝を抜かれていた。
しかし連絡を貰ったのが4月1日だったらしく、なにかを察した友達はすぐさま姉に返信したらしい。
『結婚おめでとう。素敵な嘘だな。ゴリラ姉貴。ハッピーエイプリルフール!!!』
それからすぐ、姉からひと言だけ返信が来たらしい『事実だ。殺す。』と。
その後、俺はその友達と連絡が取れなくなってしまった。
エイプリルフールだからといって全てが嘘だとは限らないということだ。
幸せに
母が亡くなった。最愛の母が。
わたしは病室で母の最期の言葉を聞いた。
「……幸せになってね。幸せに。」
わたしは泣きながら、その言葉に何度も頷いた。
それからその言葉は私を縛る呪いの言葉になった。
ことある事に「幸せにならなくちゃ。」と焦る。でも次第に幸せがなんなのかわからなくなっていった。
「お母さん…お母さんがいない世界に幸せなんて、なかったよ。だから、私もそっちに行こうと思う。」わたしは、そう呟いて天井から下がるロープに首を通した。
「幸せに、なる、ね゛ッ……。」
何気ないふり
前の席に座る君。
男の子らしい大きくてガッチリした背中、綺麗なうなじが見える短髪。
私はそんな君の男らしい後ろ姿に密かにときめいていた。
プリントを回収するときに、私はよそ見していて君が手を伸ばしているのに気づかなかった。
不意に前を見ると背を向けたまま君が私の方へ手を伸ばしていて、何を勘違いしたのか反射的にその大きくてゴツゴツした手をギュッと掴んでしまった。
「えっ!」君が驚いて振り向いたから私も思わず「わっ!」と叫んで急いで手を引っ込めた。
「えっと…プリント。回収するから。」
「あ、あ、ごめんね。なんかぼーっとしてて。あプリント!はい、お願いします。」
恥ずかしすぎてまともに顔を見られなかった。
「ん。ども。」
君はなんともなかったみたいにプリントを受け取るとすぐに前を向いてしまった。
でも、その時。
よく見ると君の両耳が真っ赤に染まっていて、私はなんだか少し嬉しくなった。