君を照らす月
中学生の頃は多感な時期だと大人はよく言う。
多感が何なのかよくわからないけど、なんとなく面倒だとか複雑だとかそんな感じだろう。
その多感っていう病気なんだろうか。
俺は同級生に気になる奴がいる。俺と同じ性別。この「気になる」っていう気持ちも正直よく分からない。
気づくと目で追っている。ただそれだけ。
色々むしゃくしゃして家を飛び出した、ある満月の夜。行く宛てがなくて家の近くをただ彷徨っていた。
「わ!変質者だ!」
と、突然後ろから声をかけられてビクッとした。
あいつだった。
「…お前、こんな夜中に何してんだよ?てか、変質者じゃねぇし。歩いてただけだし。…なんでいんの?…って、ちょっ!」
無言で俺の手を引いてどこかへ連れて行く。
着いたのは近くの公園にある高台だった。
来いと言わんばかりに台の上に登る。
自然と俺も隣に腰掛けた。
「みて、月。満月。」
俺に向かってそう言うとすぐ月に視線を戻した。
チラっと月を横目で見て、俺は月に照らされたその横顔を見た。
多感の病気だ。
心臓が苦しくてドクドクする。
この病気が早く治りますように、俺たちを照らす大きな満月に向かって願った。
木漏れ日の跡
小さかった頃、私はよく地面を見て歩いていた。
木漏れ日の跡がマダラに映る地面が珍しくて面白くて、目が離せなかった。
木漏れ日が流れ込んでくるところに手を出して光を掴んでみたり木漏れ日の跡を踏んで歩いてたり。
光は常に私の身近なところにあった。
いつからか、木漏れ日の跡を眺めるためでなく、私の視線は常に地面を見るようになった。
疲れきった日常の中、ふと昔のことを思い出して休日、よく行っていた公園に赴いた。
ちょうど天気も晴れで昔を思い出して木漏れ日の跡と遊んだら、なんだか嫌なことがどうでも良くなった。
木漏れ日は今も変わらず私の目の前に差し込んでいる。
ささやかな約束
お昼寝していると、子供たちの部屋から声が聞こえてきた。
寝ぼけた頭のまま、なんとはなしに彼らの会話に聞き耳を立てていた。
「…もう準備できた?」
「うん。」
「お前はお小遣い俺より少ないから300円でいいよ!兄ちゃんが残りの700円出すからな!」
「わかった。」
小声でコソコソお互いの貯金箱から小銭を取りだしてやり取りしている。
「明日、一緒に学校の帰りにお花屋さん寄ってコレで母ちゃんにプレゼント買って来ような?」
「うん!母ちゃんにプレゼント!!」
「しーっ!声でかい!バレたらダメなんだからな!」
そういえば、明日は私の誕生日だった。
可愛くてささやかな2人の約束。
一部始終聞こえてしまったが、なんにも聞かなかったことにしよう。
と思ったけれど、私の口角は上がりっぱなしで明日が待ち遠しくてたまらない。
祈りの果て
【祈りの果て】
僕はこの絵にそう名付けた。
荒廃して、人類の文明が消え去った瓦礫と土埃の街。
中央にはまだ幼い子供が1人、弱々しい小さな両手を重ねて天に向かって祈りを捧げている。
子供の傍らには飢餓の末に亡くなった人間の亡骸が転がる。
天からは祈りに応えるように光が差し込み子供に降り注ぐ。
しかし、子供の後ろからは絶望が迫っていた。
黒い影が様子を伺っている。
鎌の刃先はあと一歩で子供の喉元にたどり着こうとしている。
祈りの果てに待つものは希望だったのか絶望だったのだろうか?
"祈り"というものがいかに不安定で不確かなのかを描いた。
心の迷路
真っ暗闇の中進む。完全に迷ってしまった。
ここは一体どこなんだろう。
『嬉しい』『怒り』『悲しい』『楽しい』、
『モヤモヤ』『ドキドキ』『ヒヤヒヤ』、
ここは色んな感情で散らかっている。
"心"にはたくさんの感情が渦巻いている。
まるで迷路だ。
怒っていたかと思うと楽しくなったり、
モヤモヤしていたと思ったら急にスッキリしたり。
心はこの世で1番複雑な迷路だ。