ティーカップ
15時庭園のガゼボでティータイム。
少し冷たい秋の風が肌を撫でる。
15時にはガゼボで庭を眺めながら必ずお茶をする。
これは結婚してから貴方が決めたルール。
アールグレイの香りに満たされて、可愛らしいバラの花が描かれたエルトリア・シェイプのティーカップを軽く持ち上げる。
このティーカップも貴方が私に買ってくれたもの。
私の宝物。
愛する貴方から与えられた沢山のものに囲まれたティータイム。
でも、私の心は欠けたまま満たされない。
ただひとつ、貴方さえいれば完璧なのに。
寂しくて
私の母は寂しがり屋だ。どこに行くにも何をするにも私か父が一緒じゃないと嫌だと駄々をこねる。
私が結婚して出ていく時も最後まで私を引き留めようとして、うんざりした私は逃げるように母の元から去った。
私が去った後しばらくして、母がこの世を去ったと報せが届いた。
まさかとは思ったが、病死だったらしい。
私は「忙しい」となんだかんだ言い訳を作って葬儀以来、お墓参りはほとんど行かなくなっていった。
結婚して3年、子供が生まれた。
愛しい我が子、これからはこの子のために生きる。
幸せを噛み締めていたのも束の間、ある夜、寝ていると夢を見た。
亡くなったはずの母が私に会いに来て言うのだ。
「寂しくて寂しくて仕方がないの。その子、頂戴?」
「ダメ!」
と声を上げると、汗だくで夢から覚めた。
そして、そんな夢を見た翌日、最愛の我が子が亡くなった。原因不明の急死だった。
それから私は塞ぎ込んで外に出ることも減っていった。
でも少しずつ回復して、また子供を授かることができた。
今度は絶対に奪わせない。
子供が産まれてから私は主人や子供に執着するようになった。
どこに行くにも何をするにも、常に一緒。
「寂しくて寂しくて、仕方がない。」
心の境界線
彼女は良い意味で誰に対しても同じ態度だった。
例外はなく、僕にも。
みんな平等に親しげに接するけれど、絶対に踏み込めない境界線がある。
笑顔だけど、誰にも心を許していない。
誰にも心からの笑顔を向けない。
決してその境界線は越えられない。
そんな君に僕は恋してしまった。
叶わなくてもいい。
一度でいいから君の心の境界線を超えてみたい。
そう、思ってしまった。
透明な羽根
空を飛んでみたくなった。
これはきっと人生で最後に見る空だ。
前日まで曇天だったのに、今日に限ってなんて綺麗な青空なんだろう。
すると目の前に小さな女の子が突然現れた。
おかしい、そんなはずない。
だって目の前はビルの谷間。建物は何にもない。
何かで浮いているようだった。
「だめだよ。ヒトは羽根がないと飛べないんだよ?」
大きな瞳をぱちぱち瞬いて不思議そうに言う。
「……て、天使?」
思わずそう言った瞬間、意識がプツリと切れた。
目を覚ますと、元いたビルの屋上の真ん中に寝ていた。
夢だったのかと体を起こすと、手に何か握っていた。
目を凝らして見ると、一枚の透明な羽根だった。
灯火を囲んで
灯火を囲んでやることなんかひとつしかない。
そう、百物語。
と言っても私たちの百物語は一味違って、怖い話を百ではなく面白い話、すべらない話を百、語るのだ。
ひとつの灯火を5人で囲んで、1人ずつ面白い話を繰り出していく。
薄暗い部屋に5人の狂ったような笑い声がこだまする。
これがわたしたちの秋の風物詩、
オリジナル・おもしろ百物語だ。