27(ツナ)

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11/6/2025, 10:24:51 AM

冬支度

来週から、ついに雪が降り始まるそうだ。
寒いのが嫌いな私は憂鬱な気持ちで、葉が落ちてすっかり寂しくなった庭を眺める。

よく見るとゴソゴソ動くものがいた。
小さな体で木の実や果物を巣へ運ぶリスだ。
他にも、夏より何倍もふくよかになった雀。
ウサギは茶色い体毛から雪のように真っ白い体毛に衣替えしていた。

見ているとなんだか、私もやる気になってきた。
動物達に負けじと私も重い腰を上げて冬支度を始める。

11/5/2025, 10:53:15 AM

時を止めて

『時が止まればいいのに』なんてこれまでの人生で一度も思ったことなかったのに。
貴方に出会って、私は変わってしまったのかもしれない。
あまり得意じゃないメイクに無頓着だった洋服のコーディネート。
女っ気がないのは自覚していた。

でも、貴方に出会ってからメイクや髪型を研究したり、コーディネートを勉強したり、私とは無縁だと思っていた色んな事に挑戦し始めた。

たくさん努力をしてようやく貴方とデートすることができた。
2人きりでいるだけで心が舞い上がって、
生まれて初めて『時が止まればいいのに』なんて思った。

11/4/2025, 10:48:54 AM

キンモクセイ

秋を感じるひとり旅へ出かける。
公園は山吹色に輝く銀杏並木に枯葉の絨毯。
暖色に染る景色に安らいでいると、不意に甘くてさっぱりした香りに誘われた。

彼女は僕なんかには目もくれず目の前を去っていった。
ほんの一瞬。
一瞬だったけど、とても印象に残る香り。
学生の時分に僕が焦がれたあの子も同じ香りを纏っていた。

キンモクセイ。
それは"初恋"の香りだった。

11/3/2025, 11:12:08 AM

行かないでと、願ったのに

なにもない田舎、閉鎖的で薄暗い、楽しい事なんてひとつも無い所だった。
でも唯一、先輩だけは明るくてかっこよくて一緒にいる時間が凄く楽しかった。
そんな日々を守りたくて、私は毎日のように神社にお参りしていた。
「先輩がどこにも行かんように。この幸せがずっと続きますように。」

ある日の夕方、村の大人たちが何故か騒がしくて私は外に出た。「どーしたん?何かあった?」
よく見ると警察や救急車まで来ていて物々しい雰囲気に余計に不安が募る。
「あぁ、なんかそこん踏切で事故が。男子高校生が踏切ん中入ったか男ん子助けて、犠牲になったみたいやんな。」
近所の爺ちゃんも心配そうに遠くから事故現場を覗いていた。
私はなんだか凄く嫌な予感がして気づいたら事故現場の方に走り出していた。
「あ、こら!危なかけん、行ったらあかん!」
叫ぶ声を無視して、過呼吸になりながら全力で走った。

現場に到着して、すぐに警官に制止されたが腕の隙間から線路の方を見ると、スクールバッグが落ちていた。そこには私が先輩にプレゼントしたお揃いの手作りのお守りが付いていた。
「────ッ。」
声が出せない。体も動かなくて、目の前が真っ暗になって、その場に崩れ落ちた。

どこにも行かないでって、幸せが続くようにって、お願いしたのに。


11/2/2025, 11:52:31 AM

秘密の標本

人は強く禁止されると反発したくなる。
そこは立ち入り禁止の父の書斎。
県外で学会があるらしく今日は終日留守だと聞いていた。
書斎の鍵の隠し場所は事前に調べておいたので、
夜更けに母の就寝を確認し、静かに父の書斎へ侵入する。
室内を探るが、特に怪しいものもなく当てが外れたなと自室に戻ろうとした時、何か箱のようなものを落としてしまった。
鍵がかかっていたが落ちた拍子に古びていた錠が壊れ中身が飛び出した。

焦って元に戻そうと拾うと人の手や顔の一部のようなものだった。
人体模型の一部かとまじまじ触っていると、あることに気づいた。
「……これ、本物だ。本物の、人間の、もの。」
ガチャと書斎の扉が開く。
「…そうだ。本物の人体の標本だ。」
背後から、今日は居ないはずの父の冷徹な声が聞こえてきた。

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