27(ツナ)

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7/19/2025, 11:29:44 AM

「飛べ」

空を飛ぶ鳥を見て羨ましいと思った。
僕もあんな風に空を飛んでみたいと、でも図鑑を見て絶望した。
人間には、翼がない。
あの鳥達みたいにはなれないんだ。

そんな時、兄ちゃんの陸上の大会を見に連れて行ってもらった。
絶望していた僕の目の前で、兄ちゃんは空に向かって高く飛んだ。

僕の絶望はその時、一瞬にして希望に変わった。
「凄い!凄い!凄い!飛んだ飛んだ兄ちゃんが飛んだ!ママ!あれなあに?」
目を輝かせて興奮している僕の頭を撫でながら母さんは笑った。
「あははっ、凄いね?兄ちゃんかっこいいね?あれは、走幅跳っていうんだよ。」
「はし…はば?と??」
「もう少し大きくなったらやってみよっか?」
「うん!僕もやる!絶対やる!」

それから数年後、兄の背中を追った僕は同じ競技の選手になった。
今日は大会、今までの練習の成果を120%出し切る。
「位置について!よーい。 」
スターターがピストルを空に向けて構える。
心臓が緊張と興奮でバクバク高鳴る。
目を閉じ耳を研ぎ澄ませると、応援席から母と兄の声が聞こえる。
「「飛べ!!!」」
パァン!!
足で思い切り地面を蹴り加速する。僕は空に向かって飛んだ。
鳥にはなれなかったけど、人間でも飛べた。
地面に着地した瞬間、目から涙が溢れ出した。


7/18/2025, 11:08:04 AM

「special day」

真夜中の公園でベンチに座って黙々とケーキを頬張る、ひとりの男子中学生がいた。
なんか気になってついつい声を掛けてしまった。
「…そんなに勢いよく食べるとノド詰まるぞ?」
「…。」
そいつは横目でチラッと俺を見ると無言でまたケーキを鷲掴みにして食べ始めた。

「お、おい。無視はねぇだろ。危ねぇからもっとゆっくり食べろ?…てか、なんでこんな夜中に中坊がひとりでいんだよ?」
「…。なんですか?説教ですか?」
「あ、いや別に、そんなんじゃねーけど、こんな夜遅くに中坊が公園でケーキ食ってんのどう考えてもおかしいだろ?」
威嚇してくる猫みたいにキッと睨まれる。

「おじさんには関係ないです。今日は僕の誕生日なので、ケーキを食べてるだけです。」
「へ〜、そら偶然だな!俺も今日誕生日なんだ!まぁガキじゃねぇから、ケーキは食ってねぇけど?」
仕返しに嫌味ったらしく笑ってやると、眉間にしわ寄せて不貞腐れた。

「あ〜じゃなくて、こんなとこに居ねぇで家帰れよ。親心配すんだろ?」
「…親、仕事なんで朝まで帰ってこないんで。」
「あっ、そぅか。わりぃ。なんかお前の見てたら俺もケーキ食いたくなってきた!残ってるもう1個のケーキくれよ。」
「はぁ…大の大人が、恥ずかしくないんですか?まぁ、おなかいっぱいだからいいけど。」
ぷいとそっぽ向きながらも俺に残りのケーキをくれた。可愛とこあんじゃんと頭をくしゃくしゃ撫でてやった。
「ちょっ!?なに!?」
「…誕生日おめでとう。」
「ッ!……お、おじさんも。おめでとう…。」
「おぅ。あんがとさん。」

7/17/2025, 10:35:37 AM

「揺れる木陰」

休日の公園で彼を見かけた。
一人で木陰に隠れるように座って、本を読んでいる。

先月、隣のクラスに転校してきたばかりの男の子。都会から越してきたその子は、端正な顔立ちで、なんだか妙に雰囲気があって一瞬見ただけで記憶に残るような、そんな子だった。

しばらく彼を眺めていると、風がそよいで木陰が揺れた。
その様はまるで、舞台上でスポットライトを浴びて輝くアイドルのようだった。
その拍子にこっちを向いた彼と目が合ってしまい、しまった!と思った瞬間。
揺れる木陰の下で彼は私に向かって微笑んだ…。

7/16/2025, 10:59:13 AM

「真昼の夢」

たまにものすごく現実的な夢を見ることがある。
そういった夢を見るのはたいてい昼間にウトウト微睡んでいる時だ。

夜中に見る夢は覚えていないのに、真昼の夢は起きた後もはっきりと内容や会話まで覚えている。
僕はその夢の内容を日記につけてみることにした。
読み返すと、夢の中の自分は普段の自分とはだいぶかけ離れた行動をとっていた。

酔って人に殴りかかったり、隣の住人に暴言を吐いたり、人にわざとぶつかって怪我をさせたり。
迷惑行為ばかりをしていて呆れたが、普段ならできない不道徳なことを夢の中で思う存分できて気分が良い気もしていた。

そんなある日、自宅に警察が来た。

「貴方の数々の迷惑行為は全て防犯カメラに残っています。署で詳しくお話を聞かせていただけますね?」
映像を見せながら警官は僕に詰め寄った。
全く身に覚えがなかったが、日記に書いた夢の内容とあまりに酷似していた。
僕が見ていたのは真昼の夢なんかじゃない、紛れもなく現実だったのだ。
一体いつから、夢と現実の区別がつかなくなっていたんだろう……?



7/15/2025, 10:47:12 AM

「二人だけの。」
(※7/9「届いて……」の続きのお話。)

彼女が居なくなってから1ヶ月が過ぎた。
学校中探し回っても人に聞いてもなんの手掛かりもなかった。

放課後、気分転換に屋上へ上がると珍しく誰も居ない貸切状態だった。フェンス越しに景色をぼんやり眺めて溜息をつく。
「なぁに?まーた悩み?溜息つくと寿命縮むんだよ?知ってた?ヤバくない!?」
突然後ろから声をかけられてビクッとなる。
聞き覚えのある声色と調子のいい話し口調にピンときた。
ずっと探し回ってた金髪派手ギャルのあの子だ!

「…も〜びっくりさせないでよ!ずっとあなたを探してたのに…。今までどこに居たの?学校中探したのにどこにもいないし誰も知らないし。」
「え、えぇ〜っとぉ、休んでた!ははっ。」
「そんなの嘘。あなたこの学校の人じゃないでしょ?」
「うげっ!んー…あ〜ってか、なんで私の事探してたの?」
図星なのか、あからさまに動揺して話題を変えようとした。

「それは、あなたにお礼を言いたかったから。おかげで彼と付き合うことができたって!…で、あなたどこの学校の人なの?」
逃げられないようにフェンスに追いやって問い詰める。
すると観念したのか彼女は重い口を開いた。
「言っても絶対笑わない?」
「もちろん。」
「…私、実は人間じゃないんだよね?」
「……(ん?)」
「あー、えっと、お化けとかでもなくて、あの〜その…か、神様、代理?みたいな?」
「……。」
「キャー言っちゃった!ねぇ、これ絶対他の人に言っちゃダメだよ!!!ふたりだけの秘密、ね!」
「……は?」

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