「飛べ」
空を飛ぶ鳥を見て羨ましいと思った。
僕もあんな風に空を飛んでみたいと、でも図鑑を見て絶望した。
人間には、翼がない。
あの鳥達みたいにはなれないんだ。
そんな時、兄ちゃんの陸上の大会を見に連れて行ってもらった。
絶望していた僕の目の前で、兄ちゃんは空に向かって高く飛んだ。
僕の絶望はその時、一瞬にして希望に変わった。
「凄い!凄い!凄い!飛んだ飛んだ兄ちゃんが飛んだ!ママ!あれなあに?」
目を輝かせて興奮している僕の頭を撫でながら母さんは笑った。
「あははっ、凄いね?兄ちゃんかっこいいね?あれは、走幅跳っていうんだよ。」
「はし…はば?と??」
「もう少し大きくなったらやってみよっか?」
「うん!僕もやる!絶対やる!」
それから数年後、兄の背中を追った僕は同じ競技の選手になった。
今日は大会、今までの練習の成果を120%出し切る。
「位置について!よーい。 」
スターターがピストルを空に向けて構える。
心臓が緊張と興奮でバクバク高鳴る。
目を閉じ耳を研ぎ澄ませると、応援席から母と兄の声が聞こえる。
「「飛べ!!!」」
パァン!!
足で思い切り地面を蹴り加速する。僕は空に向かって飛んだ。
鳥にはなれなかったけど、人間でも飛べた。
地面に着地した瞬間、目から涙が溢れ出した。
7/19/2025, 11:29:44 AM