souki

Open App
1/6/2024, 11:03:04 AM

12(君と一緒に)

どうか、頷いて欲しい。
首を振るきみに私は懇願した。
耐えられないのだ、1人でいるのは。
私は1人でいるなんて平気だった、他人の温もり無しで生きてきたのだ。
なのに私の手を取り私の唯一になっておいて、病気だろうと、私の身に危険が及ぶ事になろうと、やむにやまれぬ事情が有ろうと許されない。
君と一緒に、私と共に。
そう先に言ったのはきみなのだから。

12/30/2023, 11:24:50 AM

11(1年を振り返る)

振り返り、確認。ヨシ。何事も無く無事過ごせました。
はい、Happy!なんて。
世の中はお祝いムードで、また新しい1年を待ちわびて浮かれている。
新しい1年の何がそんなに目出度いのか。また空虚な1年をやり直す事の何が。
『偏屈って言われるだろ。根暗とも』
「うるさい」
うるさい、黙れ。幻影に歯噛みして憎々しげに男は言う。幻影、いや幻覚か。
幻覚は何年も前に事故で死んだ、男の兄。人当たりが良く、真人間。非の打ち所のない兄。両親も周りも、口には出さずとも目が、態度が示していた。何故兄の方がと。
男のコンプレックスは肩を竦めて苦笑する。
『お前は俺の自慢の弟だよ』
あぁ、うるさい。
出来る事なら、俺の手で殺したかったよ兄貴。
12月31日、今日は兄貴の命日だった。

12/29/2023, 10:01:22 PM

10(みかん)

寒い寒いとひょこひょこつま先で歩きながら家主が今しがた届いた荷物を両手に抱えて戻ってきた。
「実家からだったわ」
「みかん?」
「ん、毎度だけど1人じゃ食えない量なんだよなぁ」
確かに一人暮らしに1箱丸々は多いだろうなと思いコタツに足を突っ込んでくる家主の脇に置かれた箱に視線を向ける。
「冷てぇよ。退けろ」
「俺ん家で〜す。おらっ」
「止めろバカ」
突っ込んで来た足が俺の足に当たってヒヤリとした感触がする。ただでさえ一人暮らし用の狭いコタツだ。宅配を取りに行った少しの距離の廊下を歩いただけで素足のコイツの足裏はすっかり冷たい。それを悪気も無く折角コタツの温もりで温まった俺の足に押し付けてくるのだからこちらも負け時と押し返す。半分から出てくるな、俺の陣地だ。なんなら明け渡して欲しい。俺がいる間は。寒いし。
「みかん食べる?」
「食べる」
「お前帰りさ……」
「なんだよ」
体を捻ってビリビリと音をたてながら封をしたダンボールのガムテープを剥がして、丸めたガムテープをコイツはコタツから出ないままゴミ箱を投げながら言う。丸めたガムテープはゴミ箱の縁に当たって床に落ちた。それをあー……と声を漏らして見ていたがコタツから出て拾うのが億劫なのだろう。数秒見つめていたが開いたダンボールに視線を落として中のみかんを手に取った。明るい色のオレンジ色が目に入る。
「半分、持ってく?食いきれねぇから」
「いいのか、そんなに。お前みかん好きだろ」
「好きだけど1日何個も食えねぇって。腐らせんのも勿体ねぇべ」
手に取ったそれを俺に投げて寄越し、もう1つを手に取ってコタツに上体をだらしなく倒してみかんの皮を剥き始めながらコイツは言った。
「じゃあもらう」
「ん」
「それと、そのみかんであれ作れよ」
「あれ?」
「牛乳寒天」
えぇ、と顔を顰めて難色を表した。まぁ確かにこんな寒い冬で寒天は無いだろうと言いたいのはわかる。しかし先程勝手に冷蔵庫を開けた時に牛乳パックがあったのは把握してる。ゼラチン粉は……無かったら近々買ってくればいいだろう。どうせまた日をおかずにここに来るだろうし。缶詰めがデフォルトなんだろうけど、丁度新鮮なみかんがあるのだからそれで作って欲しいと言うと皮剥き手伝うのを条件にしぶしぶ了承してくれた。
コイツが元カノに影響されて暇な時に簡単な菓子を作れる様になったのは俺としては有難い限りだ。なんせ、甘党なので。
「頼むぜ親友」
「調子いいなぁ〜」
善は急げだ。ケラケラ笑うコイツの気が変わらぬうちに、次来る時にとは言わず必要な物を揃えるべく俺はコタツから渾身の覚悟を持って寒い外へ出る決意をした。

7/26/2023, 8:52:33 AM

9(鳥かご)※BL

逃げていいと、彼は言う。

「……どうしてまた、そんな事?」

首を傾げてしまった。それをされて困るのは彼自身だろうに。別に拘束され、繋がれている訳ではない。なし崩しに連れて来られた時出るなと言われた、ここから。いや、なし崩しでは無いか。
一週間前に共に飲んでいた。二人でよく行く居酒屋で、いつもの様に楽しく気楽に。そうして気付いたらここに居たから、薬でも盛られたのだろう。別に、それはいい。彼が自分に向けていた感情がどういったものか、気付かない程自分は鈍感ではない。自分が誰それと何をしたという話を聞くと自分では誤魔化しているつもりなのだろうが、険を帯びる視線もとっくに自分は気付いていた。だからと言って自分から彼を求める事はしないが。言葉も気持ちも、これは彼自身が答えを出さなければいけない事だ。だというのに。
こっちに選択権を委ねて、自分の心の言い訳に俺を使う腹積もりか。
人を思い通りに動かすのは好きだ。だが、自分が使われるのは好ましくない。この男の逃げに自分が使われるのは許せない。

「……」

黙りか。ふざけやがって。
こちらから歩み寄るつもりは無い。向こうが始めた事で、いつでも逃げられる状態のこのドアの開いた鳥かごに居るのは自分の選択だ。決してこの男がどうこうという理由ではない。
俺が選んで傍に居るのに、なにが逃げていいだ。帰って来て俺が変わらずここに居ると、心底安心した顔をするくせに。そんな顔をする癖にそんな試し行動をしないと安心出来ないか。くだらない。

「諦めるふりのごっこ遊びに付き合うつもりはねぇぞ」

ソファの背に寄りかかり、目の前で膝を着き項垂れる男を見下ろす。

「お前、俺じゃなきゃとか言ってなかったか?確かにお前は俺が居なきゃだろうが、俺はお前居なくてもやってけるぞ?」

ゆっくりと、俯いていた顔が上がる。その顔を見て、ソファに深く腰掛け直し笑みを浮かべた。
逃げろと言っておいて、他の人間の存在を匂わせた途端これだ。暗いながらも奥に強い光が灯っているのを確認して、この鳥かごに居着く事の確信を得る言葉を、男の口から出るのを待った。

7/24/2023, 5:22:21 AM

8(花咲いて)

「飽き性なのに、花買ったの?」

鉢を大事そうに抱える女の手元を覗き込み男は問う。つい最近始めたと言っていた趣味をここ数日やっている様子は無い。そういった事は今まで何度かあったので女を見る彼の目は胡乱げだった。
生き物でないだけマシかもしれないが、とはいえ植物も世話をしなければ枯れてしまうもの。ハマっては飽きるを繰り返す女がちゃんと世話を出来るのか不安以外のなにものでもない。

「大丈夫よ。お水は毎日でなくてもいいみたいだし、これなら私でもお花咲かせられるかなって」
「そう?サボテンの花って咲かせるの難しいんじゃないっけ?」
「みたいだけど、お水あげなきゃだからちょくちょく貴方の家に来る口実になるじゃない?」

そう言った女は男の部屋の、日当たりのいい窓の所に鉢を置き振り向いて笑みを男に向ける。女の言葉に不安そうに見ていた男の表情が途端に眉を下げニヤけそうになる口元を手のひらで覆う。
不意打ちで言われた事に不安要素は吹っ飛んでしまった。彼女の笑顔とストレートな言葉はいつも男にとっては魅力的で刺激的だ。

「もう……また調子いい事言って……」
「ふふ、本当にそう思ってるわよ?」

女が手を伸ばして男の首に腕を回した。女の温もりを感じながら男は女を抱き締め返し日の匂いと女の匂いを感じながら、ほっと息を吐いた。



「花、咲いたよ……」

男は呟く。水を与えたサボテンが陽の光を浴びてキラキラと雫が反射して綺麗だ。男のこまめな世話のお陰か、緑もつやつやとしていて小ぶりで可愛らしい花が咲いた。
陽の香りを纏った、飽きっぽい彼女はもうこの部屋に来る事はなく……。日当たりばかりが良い部屋には、残された男と、綺麗な花咲くサボテン。一人と一本ぼっち。

Next