souki

Open App

10(みかん)

寒い寒いとひょこひょこつま先で歩きながら家主が今しがた届いた荷物を両手に抱えて戻ってきた。
「実家からだったわ」
「みかん?」
「ん、毎度だけど1人じゃ食えない量なんだよなぁ」
確かに一人暮らしに1箱丸々は多いだろうなと思いコタツに足を突っ込んでくる家主の脇に置かれた箱に視線を向ける。
「冷てぇよ。退けろ」
「俺ん家で〜す。おらっ」
「止めろバカ」
突っ込んで来た足が俺の足に当たってヒヤリとした感触がする。ただでさえ一人暮らし用の狭いコタツだ。宅配を取りに行った少しの距離の廊下を歩いただけで素足のコイツの足裏はすっかり冷たい。それを悪気も無く折角コタツの温もりで温まった俺の足に押し付けてくるのだからこちらも負け時と押し返す。半分から出てくるな、俺の陣地だ。なんなら明け渡して欲しい。俺がいる間は。寒いし。
「みかん食べる?」
「食べる」
「お前帰りさ……」
「なんだよ」
体を捻ってビリビリと音をたてながら封をしたダンボールのガムテープを剥がして、丸めたガムテープをコイツはコタツから出ないままゴミ箱を投げながら言う。丸めたガムテープはゴミ箱の縁に当たって床に落ちた。それをあー……と声を漏らして見ていたがコタツから出て拾うのが億劫なのだろう。数秒見つめていたが開いたダンボールに視線を落として中のみかんを手に取った。明るい色のオレンジ色が目に入る。
「半分、持ってく?食いきれねぇから」
「いいのか、そんなに。お前みかん好きだろ」
「好きだけど1日何個も食えねぇって。腐らせんのも勿体ねぇべ」
手に取ったそれを俺に投げて寄越し、もう1つを手に取ってコタツに上体をだらしなく倒してみかんの皮を剥き始めながらコイツは言った。
「じゃあもらう」
「ん」
「それと、そのみかんであれ作れよ」
「あれ?」
「牛乳寒天」
えぇ、と顔を顰めて難色を表した。まぁ確かにこんな寒い冬で寒天は無いだろうと言いたいのはわかる。しかし先程勝手に冷蔵庫を開けた時に牛乳パックがあったのは把握してる。ゼラチン粉は……無かったら近々買ってくればいいだろう。どうせまた日をおかずにここに来るだろうし。缶詰めがデフォルトなんだろうけど、丁度新鮮なみかんがあるのだからそれで作って欲しいと言うと皮剥き手伝うのを条件にしぶしぶ了承してくれた。
コイツが元カノに影響されて暇な時に簡単な菓子を作れる様になったのは俺としては有難い限りだ。なんせ、甘党なので。
「頼むぜ親友」
「調子いいなぁ〜」
善は急げだ。ケラケラ笑うコイツの気が変わらぬうちに、次来る時にとは言わず必要な物を揃えるべく俺はコタツから渾身の覚悟を持って寒い外へ出る決意をした。

12/29/2023, 10:01:22 PM