8(花咲いて)
「飽き性なのに、花買ったの?」
鉢を大事そうに抱える女の手元を覗き込み男は問う。つい最近始めたと言っていた趣味をここ数日やっている様子は無い。そういった事は今まで何度かあったので女を見る彼の目は胡乱げだった。
生き物でないだけマシかもしれないが、とはいえ植物も世話をしなければ枯れてしまうもの。ハマっては飽きるを繰り返す女がちゃんと世話を出来るのか不安以外のなにものでもない。
「大丈夫よ。お水は毎日でなくてもいいみたいだし、これなら私でもお花咲かせられるかなって」
「そう?サボテンの花って咲かせるの難しいんじゃないっけ?」
「みたいだけど、お水あげなきゃだからちょくちょく貴方の家に来る口実になるじゃない?」
そう言った女は男の部屋の、日当たりのいい窓の所に鉢を置き振り向いて笑みを男に向ける。女の言葉に不安そうに見ていた男の表情が途端に眉を下げニヤけそうになる口元を手のひらで覆う。
不意打ちで言われた事に不安要素は吹っ飛んでしまった。彼女の笑顔とストレートな言葉はいつも男にとっては魅力的で刺激的だ。
「もう……また調子いい事言って……」
「ふふ、本当にそう思ってるわよ?」
女が手を伸ばして男の首に腕を回した。女の温もりを感じながら男は女を抱き締め返し日の匂いと女の匂いを感じながら、ほっと息を吐いた。
「花、咲いたよ……」
男は呟く。水を与えたサボテンが陽の光を浴びてキラキラと雫が反射して綺麗だ。男のこまめな世話のお陰か、緑もつやつやとしていて小ぶりで可愛らしい花が咲いた。
陽の香りを纏った、飽きっぽい彼女はもうこの部屋に来る事はなく……。日当たりばかりが良い部屋には、残された男と、綺麗な花咲くサボテン。一人と一本ぼっち。
7/24/2023, 5:22:21 AM