街を見渡せる丘からは、見慣れた夜景の姿は確認できず、ただ墨を流し込んだような夜闇がどこまでも広がっているだけだ。
あんな遊びするんじゃなかった……。
私だけではなく、みんなも同じことを考えていることだろう。
マンションのエレベーターを使った遊び──決まった手順で昇降を繰り返すと異世界に行けるというオカルトチックな遊び──
ふざけ半分でやってみたばかりに、まさか本当に異世界に迷い込んでしまったとは。
見た目は私達がいた世界と全く同じだ。けれど、決定的に違うのは無人だということ。
無人ゆえにインフラが機能しておらず、街に明かりがない。だから、それまで当たり前にあった夜景を見ることができないというわけだ。
明かりがない=電力が供給されていない──つまりそれは、エレベーターも動かせないということ……。
エレベーターが使えない=元の世界に帰る術がない。
そんな恐ろしい事実を叩きつけられ、私達は呆然と立ち尽くすしかなかった。
テーマ【夜景】
「ごめんよ、許しもなく君を連れ出したりして。でも、どうしても君とここに来たかったんだ」
愛する人は僕の言葉に反応せず、助手席で目を閉じたまま微動だにしない。
フロントガラスの向こうに広がるのは、薄いブルーの花の群れ。
生憎、草花には疎いので名前は知らない。そんな名も知れぬ花達が織り成す花畑が広がっている。
今頃病院は大騒ぎになっているだろう。
何せ臨終を告げられた患者の遺体が消えてしまったのだから。
「さて、名残惜しいけど帰らないとね……」
君は火葬されて骨と灰になってしまう。
君の美しい身体を燃やしてしまうくらいなら、この名も知れぬ花達を棺にして花葬にしてしまいたい
──そんな身勝手な願いを抱いてしまったことを、どうか許してほしい。
テーマ【花畑】
重苦しい灰色の空は、俺の心情を代弁しているかのようだった。
あれは事故だったんだ──
何度も言い聞かせてはみるものの、心はそれを頑なに受け入れようとはしない。
当然だ。俺達は仲間の一人を殺してしまったのだから……。
殺した? 違う、俺達に殺意なんてなかった。あれは事故だったんだ。
ならばどうして、あいつの死体を隠すようなことをした──?
深い深い穴の中にあいつを埋めた。
今更ながら自分のやったことの重大さに手が震えだす。
隠蔽──死体遺棄──そんな恐ろしい言葉が頭の中を占領し、小刻みに震える手に死体となったあいつを持ち上げた時の感触が蘇る。
ぽつりぽつりと水滴が顔に落ちてきたかと思えば、激しいにわか雨になった。
空が泣く──というフレーズが、ふと思い出される。
空が、俺の代わりに後悔の涙を流している──そんな風に思えてならなかった。
テーマ【空が泣く】
親の転勤の都合で遠くに引っ越すことになった。
君とは会えなくなってしまったけれど、毎日LINEで話しているおかげで疎遠になることはなかった。
なのに、七月に入ったあたりから君からのLINEは途絶えてしまった。
こちらからメッセージを送っても既読すら付かない。
やがて夏休みが始まった。
直接会いに行けば君はどんな反応をするだろうか。
迷惑そうな態度を取られたらその時は、残念だけどそこで君との友情は諦めるつもりだった。
緊張しながら君の家を訪ねると、君のお母さんが快く迎えてくれた。
しかし、君に会いに来た旨を告げると彼女の顔は怪訝なものとなり、
「そんな子はうちにいない」
と、信じがたい言葉を発した。
これは一体どういうことだ──?
君からのLINEが途絶えたあの瞬間から、君という存在が、この世界から消失したとでもいうのか──?
テーマ【君からのLINE】
私から全てを奪った憎き外道に報復する。
それが悲願であり、私の生きる意味だった。
何年もかけて綿密に立てた計画だ。
そこには一分の隙もなければ破綻もないはずだった。
なのに、なぜ露見した。
あの外道を亡き者にしてやるはずが、返り討ちに遭い私が亡き者にされようとは。
なんて笑えない冗談だ。
我が悲願は塵となって消える。
ならばせめてもの抵抗として、命が燃え尽きるその時まで、あの憎き外道を呪うとしよう──
テーマ【命が燃え尽きるまで】