早く夜が明けてほしい。
怖くて指先の震えが止まらない。
夜が明けさえすれば“あれ”はしばらくの間鳴りをひそめるから。
夜が明けたら、仮眠を取ろう。
そのあとは“あれ”を封じる手掛かりを探す。
大丈夫、私は助かる。
そう思った時だ。
禍々しい気配を背後に感じた。
私の身体は縫い止められたように固まる。
視線だけをずらして時刻を確認する。
夜明け前──あと数分で夜が明けるのに……。
嫌だ、私はまだ死にたくない!
テーマ【夜明け前】
それなりに恋はしてきたつもりだ。
けれど、ここまで誰かにのめり込むことはなかった。
この火焔にも似た感情は、本気の恋……とでもいうのだろうか。
だからこそ君を傷つける存在は許せない。
君がずっと笑顔でいられるように、今夜、僕は一人の人間をこの世から消す──
テーマ【本気の恋】
目が覚めるとガリガリと壁に印を刻むのがすっかりルーティンとなってしまった。
そうでもしないと気が狂いそうになるからだ。
いや、自覚していないだけでとうに狂っているのかもしれない。
ここは地下室だろうか?
全く日光が差し込まない小部屋に私は監禁されている。
太陽の光がないせいで時間の感覚が喪失した私には、今が朝なのか昼なのか夜なのかもわからない。
四角い枠の中に印が七個並んだ。一応これで一週間としている。
ガリガリと今度は新しい枠を作るために壁を刻む。これで三つ目の枠になる。
また手製のカレンダーが増えてしまう。
新しいカレンダーが完成するのが先か──私が脱出できるのが先か──
テーマ【カレンダー】
君は世界でたった一人しかいない。
そう、世界中をくまなく捜しても君という人間はどこにもいないのだ。
即ち、君の心も世界に一つだけしか存在しないということ。
僕は君の心を手に入れることはできなかった。
だから代わりに、世界に一つだけしかない君の心臓を手に入れることにしたんだ。
テーマ【世界に一つだけ】
静まれ、静まれ……!
うるさい胸の鼓動を黙らせるように手を胸に当てた。
規則正しいリズムを刻む靴音が接近する。
静まれ、静まれ!
恐怖と緊張で暴れる胸の鼓動が“あいつ”に聴こえてしまったら……。
そんなことはあり得ないが、極限状態の私はそんな妄想を抱いてしまう。
“あいつ”に捕まってしまったら、明日という日を迎えることができないだろう。
そうならないためにも、早く“あいつ”から逃げなければ──
テーマ【胸の鼓動】