川柳えむ

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1/20/2026, 10:31:03 PM

 海の底って宇宙みたいだな。

 宇宙が好きな男はそう思った。
 海の底は暗くて静かで、遥か彼方にキラキラと輝くものが見える。
 手を伸ばしても届かない。
 近付き過ぎたら翼は溶けてしまうから。
 堕ちていく。意識と共に、底の方へと。
 でも思ったよりも暖かくて、心地良くなって、目を閉じた。
 まるで宇宙に放り出されたようで、なんだか幸せな気持ちになった。

 浴槽の底で発見された男の顔は、どこか幸せそうな顔をしていた。


『海の底』

1/19/2026, 10:36:57 PM

 桜の花びらが静かに舞っている。
 大きく枝を、花を、広げているその桜を見上げて、そっと思い出す。
 君のいなくなった季節がまたやって来たよ。
 あれからどれだけの時間が巡ったのだろうか。
 暖かい陽射しが僕を包む。そんな、優しい季節がまたやって来た。
 君はそちらで元気にしていますか?
 随分ともう、姿を見ていないけれど。もう、二度と君には会えないけれど。 
 君がいなくなって、そうして、僕らの心にちくりと、棘のように残していったものが痛い。それは、僕らの罪だろうか。君を救えなかった罰だろうか。
 あの頃、「苦しい」と泣いた君が、今、もうここにはいない。
 あの頃、「会いたい」と泣いた僕は、今、この季節を、この世界を噛み締めている。
 せめて――君の旅立ったその先が、こんな風に暖かい場所でありますように。桜の花びらが舞う、そんな優しい場所でありますように。


『君に会いたくて』

1/18/2026, 11:02:06 PM

 実家にある倉の中を探険していた。子供が探検したいと言うからだ。
「危ないからいたずらするなよ」と子供に声を掛けるが、内心自分もわくわくしていた。小さい頃から何があるのか気になっていた。
 工具や農具、木棚の影に隠れ、古い木箱があった。
 それをなんとなしに開いてみると、木箱の奥底に一冊の古い本が入っていた。どうやら日記帳のようだ。
 日記帳には白黒写真と、殴り書きのような文字が綴られていた。
 その写真を見て驚いた。祖父か、それよりももっと前のご先祖様かはわからないが、自分にそっくりな人物が写っていた。
 日記帳を読んでみる。

『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
 私を捨てるあの男が
 私の場所を奪うあの女が
 二人の間に生まれたあの子供が
 呪ってやる
 全員呪ってやる
 呪う』

 そこには、恨み辛みが綴られていた。
 嫌な気持ちになりながら、静かに日記帳を閉じる。直後、突然背後が冷たく感じた。
 ――何かいる。
 冷や汗が額に浮かんで流れ落ちた。


『閉ざされた日記』

1/18/2026, 8:28:02 AM

 木枯らしが吹いた。
 着ていた上着が薄くて、体が小刻みに震えた。
 さっさと帰った方がいいとは思ったが、今日は絶対に譲れない予定があった。
 君と一緒に出掛けるって約束をした。
 そして、その時、気持ちを伝えるって、決めたんだ。

 君が約束の場所で待っている。
 君は僕の姿を認めると、「遅い!」と笑いながら言った。
 その笑顔もかわいくて、僕は――、

 木枯らしが一層強く吹いた。声は風に乗って掻き消された。

「え? 何?」
 息を切らして、笑う君のすぐ傍へ。
 今度こそ君の耳に届くように。


『木枯らし』

1/16/2026, 10:35:26 PM

 君が笑う。僕に向かって。

「あはははは。いい気味! その格好がお似合いね!」

 校舎の裏庭で殴られ、蹴られ、水をかけられ、ボロボロになった僕に。
 笑った君に向かって、僕もへらりと笑う。

「……何笑ってんのよ。気色悪いわね!」

 更に蹴られる。
 鳩尾に当たり、息が一瞬できなくなる。

「はぁ……はぁ……。すっきりした……。もう帰るわ……」

 疲れた表情で君が去っていく。
 その後ろ姿すら美しい。
 高笑いしている君も、憎悪を向ける君も、見下したような表情を浮かべる君も、蔑むような目で見る君も、僕にたくさんの感情を向けてくれる君は、とても美しい。
 また明日も、美しい君と一緒にいたい。


『美しい』

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