雪原のその先へ進みたかった。長い冬を越えたその先に、春があるから。
手を伸ばした。けれど、届かない。
いつの間にか降り出した雪が、激しく吹き荒れた。濃い白が視界を覆っていく。前が見えない。
もう、先に進む力は残っていない。
仲間がいた。
今もなお別の場所で、使命を果たす為に戦っている仲間が。
自分がいなくなっても、世界は回る。あいつらが、世界を回してくれる。
……眠くなってきた。
このまま、終わっていくのだろう。……。
…………。
厚い雲の隙間から、薄い光が差した。徐々に吹雪が止んでいく。
雲もいつしか去っていき、太陽が辺りを温かく照らし出した。
目を開けると、どこまでも澄んだ青空が、視界いっぱいに広がっていた。
「…………春?」
春がやって来たんだと、そう感じた。
きっと使命は果たされた。凍えることはもうない。
雪原の先へ、仲間の元へと、再び歩き出す。
早く会いたいと、心から願っていた。
『雪原の先へ』
部屋の窓を開けると冷たい空気が流れ込んでくる。
外に向かって息を吐けば、それはふわりと白く浮かぶ。
「さむーい!!」
子供達はキャッキャッと笑いながら息を吐き出した。
「あ、ねぇねぇ」
窓を閉め、そこに向かって息を吹きかける。それは透明なガラスを白く曇らせた。
姉の指先が、その白いキャンバスにスマイルマークを描いた。
それを見ていた弟の目が輝く。
「僕もやる!」
窓ガラスにたくさんの『楽しい』が描き込まれていく。
「こら! 窓拭きの途中でしょ!」
ママの雷が落ちる。二人は残念そうに溜息を吐き、「は~い」と返事をした。
大掃除はまだまだ終わりそうにない。
『白い吐息』
今夜も全ての灯りを点けたまま眠る。
暗闇は怖いから。
全てを飲み込んでいきそうで、自分もそれに飲み込まれてしまわないように、灯りを点けておく。
自分の命の灯火まで消えてしまわないように。
『消えない灯り』
朝の空気は澄んでいて、冷たい。まだ明かりの灯っていないイルミネーションは静かに眠っているようだった。
明かりはなくとも、彼女には街がキラキラと輝いて見えていた。
「絶好の謎解き日和!」
「あー本当におまえはそういうのが好きだね」
今日は街歩きの謎解きをしようと、朝から表へ飛び出した。
テンションの高い彼女とは裏腹に、彼は少し眠そうだ。
それでも、彼にとっても街は輝いて見えた。
今日は彼女と謎解きデート。その後はサプライズを用意している。
用意された小さな箱。中身は何でしょう?
果たして、彼女はこの謎が解けるかな。
彼女の驚く顔を想像して、思わず顔が綻んだ。
『きらめく街並み』
登校して下駄箱を開けると、手紙が入っていた。
こ、これは! ラブレターに違いない!
自分の席に着いて、こっそり開封してみる。
かわいらしい便箋に、かわいらしい文字で……
『レまぅカゝ⊇″ぉ<∪″ょぅτ″маっτма£』
……ん?
どうやら、期待のものではなかったようだ。
なんだこれは? 暗号?
れ、ま、う、か……繰り返し記号だから、また、か? じゃあ次は?
わ、わからない……。
俺はいつから秘密組織のエージェントになったのだろうか。でも、必ずこの謎を解いてやる。
当時の俺はギャル文字の存在など知らず、何かとんでもないことに巻き込まれたんだとワクワクドキドキしていた。
今は勿体ないことをしたかもしれないと思う。
『秘密の手紙』