朝の空気は澄んでいて、冷たい。まだ明かりの灯っていないイルミネーションは静かに眠っているようだった。
明かりはなくとも、彼女には街がキラキラと輝いて見えていた。
「絶好の謎解き日和!」
「あー本当におまえはそういうのが好きだね」
今日は街歩きの謎解きをしようと、朝から表へ飛び出した。
テンションの高い彼女とは裏腹に、彼は少し眠そうだ。
それでも、彼にとっても街は輝いて見えた。
今日は彼女と謎解きデート。その後はサプライズを用意している。
用意された小さな箱。中身は何でしょう?
果たして、彼女はこの謎が解けるかな。
彼女の驚く顔を想像して、思わず顔が綻んだ。
『きらめく街並み』
登校して下駄箱を開けると、手紙が入っていた。
こ、これは! ラブレターに違いない!
自分の席に着いて、こっそり開封してみる。
かわいらしい便箋に、かわいらしい文字で……
『レまぅカゝ⊇″ぉ<∪″ょぅτ″маっτма£』
……ん?
どうやら、期待のものではなかったようだ。
なんだこれは? 暗号?
れ、ま、う、か……繰り返し記号だから、また、か? じゃあ次は?
わ、わからない……。
俺はいつから秘密組織のエージェントになったのだろうか。でも、必ずこの謎を解いてやる。
当時の俺はギャル文字の存在など知らず、何かとんでもないことに巻き込まれたんだとワクワクドキドキしていた。
今は勿体ないことをしたかもしれないと思う。
『秘密の手紙』
冬の足音が聴こえた。
振り返ると、しんと静まり返った街。そこに、突然冷たくなった空気だけが漂っている。
北風が頬を撫でる。
体が芯から冷えていく。風邪を引きそうだなと、鼻をすすった。
『冬の足音』
最近彼女が冷たい気がする。たぶん冬のせいだろう。
今日はそんな彼女の誕生日。
これを機にもっとアツアツの仲になるぞ!
そう意気込んで、彼女の喜ぶ贈り物を考える。
冷たいとは言っても、彼女は俺のことが大好きだってわかっている。だから、喜ぶものはこれしかない。
彼女が帰ってきた。
プレゼントボックスに見立てた部屋の、豪華に飾り付けた扉がゆっくり開かれる。
「ハッピーバースデー! プレゼントの中身は俺だよ!」
自分自身もリボンで飾り立てた。最高のプレゼントだろう?
そうして、彼女に抱き着こうとした。
「テメーの中身ぶちまけてやろうか」
――そう言われ、プレゼントの中身は捨てられた。
『贈り物の中身』
北の国の夜空は美しく澄んでいた。街の灯り一つもなく、空にある月や星達だけが頼りだ。
この完全な美しさは、北の国の神様すら羨んだのかもしれない。そのまま氷の檻に閉じ込めてしまいたいと、そう願ったのだろうか。
優しく煌めく星空とは裏腹に、ここはとても寒い。
雪原の上に横たわり、星空を見上げる。
この世界には魔物が蔓延っていた。
その源が北の国にあると知り、仲間達と共にここへやって来た。
先程まで激しい争いが行なわれていたとは思えないほど、今は静寂に包まれている。
「あいつらは、上手くやったかな……」
仲間達の半分は、別の場所へと赴いていた。
大元を断つ為、もっと根本的な出処へ。魔界と呼ばれるその場所へ。
みんなで一緒に行ければそれが一番良かったが、今の最善はそれぞれが役目を全うすることだった。
雪の上を駆ける風は一層寒さを強め、彼らの体を凍えさせる。
赤く染まる雪原さえ、何事もなかったと、星空と共に静寂の底へ閉じ込めていく。
その運命に抗うかのように、一筋の光が空から流れた。
『凍てつく星空』