月が君を照らしていた。
雲の隙間から顔を覗かせた月が、まるで君だけのスポットライトのように、ぽっかりと。
そんなことがあるのだろうか? 君は月の精のように見えた。
儚く笑う君は、今にも月に帰っていきそうで。
思わずそっと優しく抱き締めた。
『君を照らす月』
誰も来ないような薄暗い森の中、一人突っ立っていた。
風が吹いて、木を揺らしていく。
木々の間から木漏れ日が照らし、一瞬視界を白く眩ませる。何も見えない。
ただ、ざわざわと騒ぐ木々の声が、耳を掠めていく。
感じるのはその音と、木漏れ日の暖かさだけだった。
それが体を包み込んでくるから、まるで慰めのようにも感じて、悔しくて。
木漏れ日の下で、しばらく泣いた。
気付けば、いつしか光は去ってしまっていたが、暖かさが跡をつけたように、心を照らしていた。
『木漏れ日の跡』
「大きくなったらパパと結婚するー!」
「パパとは結婚できないんだぞ。パパにはママがいるからね」
「やだー! 結婚するの。約束して、パパ!」
そんな娘の頭を撫でて宥めていたのはどれくらい昔のことか。
大きくなった娘は、俺とじゃなく、娘自身が見つけた素敵な男と結婚する。心底嬉しそうな笑顔で、涙を浮かべている。
俺の目頭にも熱いものが込み上げてくる。
ささやかな約束は、果たされない。誰よりも幸せになれ。
『ささやかな約束』
毎日祈り続けた。
どれだけ悲しいことが起きても、どれだけ苦しくても、いつか報われると、いつか神様が声を聞かせてくださると。
虐げられても、死にそうになりながらも、ただひたすらに奉仕して、毎日の祈りを欠かさずにいた。
神様、私が救われるのはいつでしょうか?
瞼を閉じる。どんどん意識が薄れていく。
日毎夜毎の祈りの果て、神様はようやく私を呼んでくださった。
『祈りの果て』
『この迷路を抜けて脱出せよ』
目の前の看板にはそう書かれていた。
いつの間にか私は迷路の真ん中にいて、曲がりくねった道が四方八方に伸びていた。
どちらに行けばいいかわからず、その場に蹲る。
小さな声で「助けて」と呟いたところで、誰も気付かない。ここには私だけ。
徐々に、このままでもいい気がしてきた。このままずっとここに、誰にも会わずに、このまま。
わかっていた。この迷路が、今の私を表しているものだと。たくさんの迷いが、誰にも心を開きたくない思いが、私をここに閉じ込めている。
この先に出口があるのかすらわからない。でもどうせ出たくないから、私はこのままここで眠り続ける。
目の前にあった看板はいつの間にか朽ち果てて、もう何も読むこともできない。脱出は叶わない。
『心の迷路』