突き抜けるように青く晴れ渡った空に、緑の木々が映える。
そこに、ぽつんと一軒建っている小さな赤い屋根の家。
庭には色とりどりの花が咲いている。
まるで一枚の絵画のような、そんな美しさを感じるこの風景が好きで、この家を買った。この風景は、自分の物だった。
美しさと喜びに、溜め息が漏れた。
まるで一枚の絵画のような、いや、実際にこれは一枚の絵画であった。
キャンバスいっぱいに広がる風景を見て、溜め息が漏れた。
この風景が好きで、この家を買った。
今はもう見ることができない風景。空の青さえ、見られない。
核が落ち、地下のシェルターに逃げ込んでから、もうどれくらい経っただろう。
外はまだ放射能が辺りに濃く漂っていて、到底ここから出ることはできなそうだ。
それに、出たとしても、もうこの風景はなくなってしまっている。
突き抜けるように青く晴れ渡った空に、緑の木々が映える。
そこに、ぽつんと一軒建っている小さな赤い屋根の家。
庭には色とりどりの花が咲いている。
時間を潰す為に描いた、今はもうこのキャンバス上にしか存在しない美しい風景。
『風景』
1人1台、誰しもがアンドロイドを持つ時代。
アンドロイドは人間の相棒として一緒に暮らしていた――。
君と僕はとても仲良し。
僕は君のことを相棒って思ってるんだけど、君はどうだろう?
「おはよ! 今日って何か予定あったっけ?」
「今日は予定がないから、一緒にどこか出掛けようか?」
二人で一緒に街に繰り出す。
たくさんの人が行き交っている。みんな、誰かを連れている。
「やっぱり1人で歩いてる人なんて、今どきいないね」
「うん、みんな誰かと一緒。……でも、僕にとっては君が1番。他の誰かじゃなくて君と一緒がいいけどね」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ」
僕は君を信頼している。
君も僕を信頼してくれている。
「君が行きたいお店とかある? そこへ行こうよ」
「君が笑ってくれるなら、どこでもいいよ。君の『好き』をもっとたくさん知りたいんだ」
大切な相棒。君のことをもっと知りたい。
たった1人の僕の相棒。
君は僕をどう思っているかわからない。ただのアンドロイドとしか思っていないかもしれない。でも、僕にとっては君だけが全て。
他の人間なんて必要ない。この世界に君さえいればいい。君と僕さえいればいい。
『君と僕』
小さい頃に目指していたものがあった。
いつからかそんなものはすっかり忘れて、見事な社会の歯車になり、この世界に溶け込んでいる。
夢は所詮夢だった。
書きかけの物語は、机の奥で眠り続けている。
ふと、気が向いただけだった。
なんとなく思い浮かんだ言葉を物語にして、インターネットの海に流した。
それを読んでくれる人がいた。好きだと示してくれる人がいた。「面白い」と言ってくれる人がいた。
夢は所詮夢だった。
でも、今も夢は結局夢でしかないけれど、叶わなくても、形が変わってしまっても、もう一度、あの頃やりたかったことをまた始めたい。
そうして私は書き続ける。
『夢へ!』
同窓会の名簿に連なる名前を見て、懐かしさに目を細める。
名簿はクラウド上に用意されていて、そこに自分の名前を入力し、参加・不参加の印として○か×をつけるシステムだった。その名簿には、懐かしい名前と、大半は覚えていないような名前がたくさん並んでいた。
同窓会の案内ハガキに載せられていたQRコードからアクセスしてみたはいいものの、仲良しだった友人達は、こういったものに参加も、そもそも入力すらしないようなタイプばかりだった。
まぁ、いいんだ。
自分も眺めるだけ眺め、特に入力もせずスマホを閉じた。
あの頃の友人達は、会おうと思えば会えるんだ。だって、個人的に連絡先を知っているんだから。そう思っているくせに、最後にいつ会ったのかなんて思い出せないけれど。
…………。
みんな、元気かな?
スマホを再び開く。
そして、あの頃の友人達に一言メッセージを送った。
「元気? 久しぶりに集まろうよ」
『元気かな』
僕はずっとずっと待っていた。
いつの日か君とした、遠い約束。
だから僕はその約束を果たそうと、ずっと努力していた。僕が頑張れるのなんて、君の為くらいだ。
そんな昔の遠い約束なんて、今更言わせない。
なのに。
君はあっさり行くんだね。
知らない男とあっさり結婚してしまった。
「お互い30まで独身だったら結婚しよう」
僕は待つつもりだったのに。その為に、誰かと付き合おうともしなかったのに。
君は裏切るんだね。
そんな昔の遠い約束なんて、今更言わせない。
そうだ。だって、30の時に独身だったら僕と結婚してくれるんだもんね。
僕はそっと手にナイフを忍ばせた。
『遠い約束』