川柳えむ

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 突き抜けるように青く晴れ渡った空に、緑の木々が映える。
 そこに、ぽつんと一軒建っている小さな赤い屋根の家。
 庭には色とりどりの花が咲いている。

 まるで一枚の絵画のような、そんな美しさを感じるこの風景が好きで、この家を買った。この風景は、自分の物だった。
 美しさと喜びに、溜め息が漏れた。


 まるで一枚の絵画のような、いや、実際にこれは一枚の絵画であった。
 キャンバスいっぱいに広がる風景を見て、溜め息が漏れた。
 この風景が好きで、この家を買った。
 今はもう見ることができない風景。空の青さえ、見られない。

 核が落ち、地下のシェルターに逃げ込んでから、もうどれくらい経っただろう。
 外はまだ放射能が辺りに濃く漂っていて、到底ここから出ることはできなそうだ。
 それに、出たとしても、もうこの風景はなくなってしまっている。

 突き抜けるように青く晴れ渡った空に、緑の木々が映える。
 そこに、ぽつんと一軒建っている小さな赤い屋根の家。
 庭には色とりどりの花が咲いている。
 時間を潰す為に描いた、今はもうこのキャンバス上にしか存在しない美しい風景。


『風景』

4/13/2025, 6:14:46 AM