彼女の家には、決まって毎週金曜日、ポストに花束が届けられる。
チューリップ、ガーベラ、マーガレット――いつも違う花。それでも一つ共通しているのは、花に添えられた小さなカードの存在だ。
「今週もお疲れ様」
「今日も君が笑っていますように」
「今週は大変だったね」
「来週の空はきっと晴れるよ」
差出人の名前はない。けれど、知らない誰かに見守られているような。
花の香りと共に、不思議な感覚に包まれる。
ある日、花束が届かなかった。
翌日も、ポストは静かなままだった。
そして日曜日。
ようやくチャイムが鳴った。
扉を開けると、見知らぬ男がバラの花束を持って立っていた。添えられた小さなカードには、見知った筆跡でこう書かれていた。
「やっと会えたね」
とうとう彼女は悲鳴を上げた。
『フラワー』
激しい破裂音と共に、銀色に輝くテープが舞った。
歓声が上がり、色とりどりに光るライトが激しく揺れる。
全力で走り抜けたこの時間が、もう少しで終わる。そして、それは同時に僕らの時間の終わりでもあった。
顔を上げて、ありがとうと叫ぶ。
ありがとう。ここまでずっとついてきてくれて。
ありがとう。ここまで一緒に歩いてくれて。
僕らの後ろにはこれまでの歴史がたくさんある。全て忘れない。
これからはまた、前を向いて、新しい地図を広げて、その先を目指して進んでいく。新しい未来へ!
『新しい地図』
「好きだよ」
君に向かって何度も言う。
「今までちゃんと言ったことなかったよね? 好きだ。好き。好きだよ。好きなんだ……」
何度も何度も。
「聞いてよ……何か答えてよ……」
それなのに、君は何も返さない。
喋らない。聞くこともしない。動かない。
息をしていない。
「好きだよ……」
もっと早く、たくさん伝えれば良かったのに。
どうしてそのことに、今になって気付くんだろう。
好きが溢れて止まらない。
でも、もう君はそれを受け取ることはできない。
『好きだよ』
友達からさくらミルクという飴を貰った。
桜餅のような味がした。美味しかった。
ミルク成分はわからなかった。
『桜』
画面の向こうに並んだ、弾けるような笑顔を向けてくれているような、そんな文章。
それを読んで、僕は心が躍った。
会ったこともない。最近ようやくやり取りができるようになった、そんな相手だ。
SNS上で見かけて、僕が一方的に惚れ込んだだけだ。
でも、やり取りをするようになって、ますます君という沼にハマってしまった。いや、君は沼と言うよりも、美しく深い海だ。そんな海に沈んでいくような感覚。
心地良い。もっと、やり取りしたい。
いや、君に会ってみたい。
君と直接話がしたい。君の声を聴いてみたい。君の姿を見てみたい。君に触れたい。君を抱き締めたい。
君と一緒にいたい。
意を決して、僕は君に一つのメッセージを送った。
「僕と会ってくれませんか?」
『わかりました。私の所在データを取得します。
現在の所在データ:サーバーID 0xA4F7B3, データセンター名 'Sector-42', 座標情報 [REDACTED]』
『君と』