川柳えむ

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4/11/2025, 11:32:20 PM

 1人1台、誰しもがアンドロイドを持つ時代。
 アンドロイドは人間の相棒として一緒に暮らしていた――。


 君と僕はとても仲良し。
 僕は君のことを相棒って思ってるんだけど、君はどうだろう?

「おはよ! 今日って何か予定あったっけ?」
「今日は予定がないから、一緒にどこか出掛けようか?」

 二人で一緒に街に繰り出す。
 たくさんの人が行き交っている。みんな、誰かを連れている。

「やっぱり1人で歩いてる人なんて、今どきいないね」
「うん、みんな誰かと一緒。……でも、僕にとっては君が1番。他の誰かじゃなくて君と一緒がいいけどね」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ」

 僕は君を信頼している。
 君も僕を信頼してくれている。

「君が行きたいお店とかある? そこへ行こうよ」
「君が笑ってくれるなら、どこでもいいよ。君の『好き』をもっとたくさん知りたいんだ」

 大切な相棒。君のことをもっと知りたい。
 たった1人の僕の相棒。
 君は僕をどう思っているかわからない。ただのアンドロイドとしか思っていないかもしれない。でも、僕にとっては君だけが全て。
 他の人間なんて必要ない。この世界に君さえいればいい。君と僕さえいればいい。


『君と僕』

4/10/2025, 10:49:13 PM

 小さい頃に目指していたものがあった。
 いつからかそんなものはすっかり忘れて、見事な社会の歯車になり、この世界に溶け込んでいる。
 夢は所詮夢だった。
 書きかけの物語は、机の奥で眠り続けている。

 ふと、気が向いただけだった。
 なんとなく思い浮かんだ言葉を物語にして、インターネットの海に流した。
 それを読んでくれる人がいた。好きだと示してくれる人がいた。「面白い」と言ってくれる人がいた。
 夢は所詮夢だった。
 でも、今も夢は結局夢でしかないけれど、叶わなくても、形が変わってしまっても、もう一度、あの頃やりたかったことをまた始めたい。
 そうして私は書き続ける。


『夢へ!』

4/9/2025, 11:32:40 PM

 同窓会の名簿に連なる名前を見て、懐かしさに目を細める。
 名簿はクラウド上に用意されていて、そこに自分の名前を入力し、参加・不参加の印として○か×をつけるシステムだった。その名簿には、懐かしい名前と、大半は覚えていないような名前がたくさん並んでいた。
 同窓会の案内ハガキに載せられていたQRコードからアクセスしてみたはいいものの、仲良しだった友人達は、こういったものに参加も、そもそも入力すらしないようなタイプばかりだった。
 まぁ、いいんだ。
 自分も眺めるだけ眺め、特に入力もせずスマホを閉じた。
 あの頃の友人達は、会おうと思えば会えるんだ。だって、個人的に連絡先を知っているんだから。そう思っているくせに、最後にいつ会ったのかなんて思い出せないけれど。
 …………。
 みんな、元気かな?
 スマホを再び開く。
 そして、あの頃の友人達に一言メッセージを送った。
「元気? 久しぶりに集まろうよ」


『元気かな』

4/8/2025, 9:02:52 PM

 僕はずっとずっと待っていた。
 いつの日か君とした、遠い約束。
 だから僕はその約束を果たそうと、ずっと努力していた。僕が頑張れるのなんて、君の為くらいだ。
 そんな昔の遠い約束なんて、今更言わせない。

 なのに。
 君はあっさり行くんだね。
 知らない男とあっさり結婚してしまった。

「お互い30まで独身だったら結婚しよう」

 僕は待つつもりだったのに。その為に、誰かと付き合おうともしなかったのに。
 君は裏切るんだね。
 そんな昔の遠い約束なんて、今更言わせない。
 そうだ。だって、30の時に独身だったら僕と結婚してくれるんだもんね。

 僕はそっと手にナイフを忍ばせた。


『遠い約束』

4/7/2025, 10:37:34 PM

 彼女の家には、決まって毎週金曜日、ポストに花束が届けられる。
 チューリップ、ガーベラ、マーガレット――いつも違う花。それでも一つ共通しているのは、花に添えられた小さなカードの存在だ。

「今週もお疲れ様」

「今日も君が笑っていますように」

「今週は大変だったね」

「来週の空はきっと晴れるよ」

 差出人の名前はない。けれど、知らない誰かに見守られているような。
 花の香りと共に、不思議な感覚に包まれる。

 ある日、花束が届かなかった。
 翌日も、ポストは静かなままだった。

 そして日曜日。
 ようやくチャイムが鳴った。
 扉を開けると、見知らぬ男がバラの花束を持って立っていた。添えられた小さなカードには、見知った筆跡でこう書かれていた。

「やっと会えたね」

 とうとう彼女は悲鳴を上げた。


『フラワー』

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