僕は馬鹿。対して、君は天才。
君はそれはもう難しそうな参考書や医学書をたくさん読んで、それはもう難しそうな大学に入り、それはもう難しそうな仕事に就いた。
僕の母が当時では不治の病と言われる病気にかかった時も、君が研究を重ねていたその病に効く薬が丁度一般的に使用できるようになり、その命を助けてくれた。
本当に君は天才で、母の命の恩人だ。
僕は馬鹿なので、そんなすごいことはできなかったし、できたことといえば、入院をしている母の下へと足繁く通うくらいだった。
病室でも母はいつも君を褒めていた。君を信じていた。
君が薬を作ってくれることを信じていたから病を恐れていなかったし、実際にその薬を完成させて治してくれたので、一層君を褒め、それこそまるで神様のように崇めていた。
君は天才。
君は完璧。
君は素晴らしい。
対して、僕は馬鹿。
僕は馬鹿だから、善悪の判断もつかなかった。と言えば、許されるだろうか?
そんなことを、ナイフを握り締めながら考えていた。
『善悪』
今夜は流星群らしいことを、朝のニュースで知った。
天気は良好。観測にはもってこいのようだ。
わくわくしながら日が暮れるのを待った。学校を終わらせてすぐ帰宅し、ベランダに出て空を見上げる。もうすぐ夜だ。
あたりが暗くなり、ぽつぽつと星が流れ始めた。
「!」
一つ目の流星にはとても感動した。空に弧を描き、しかし、次の瞬間には消えている。
流れ星に願いを……なんて考えていたけれど、そんな余裕はなかった。
また次の流星を待つ。
一番活発になるという時間帯に近付くにつれ、少しずつ流星も増えていった。
姿を現すのは一瞬だけど、急いで願いを呟いた。
お小遣いが増えますように。テストで良い点取れますように。みんなが元気でいますように。平和でありますように。えぇと、それから……。
願っても願っても願い足りない。あぁ、もっと大きくて長いのが流れたらなぁ。そしたら、たくさんの願い事をゆっくりちゃんと言えるのに。
そんなことを考えていたら、一際大きな流星が流れていくのが見えた。何あれ、大きい。めちゃめちゃ大きい。
これならたくさん願い事を叶えてくれそうだなと思った。
『流れ星に願いを』
「暇だねぇ…」
「そうだなぁ…」
二人は暇を持て余していた。
とにかくこの退屈をなんとかしたい。そう思った一人が提案をした。
「ちょっとゲームでもやらない?」
その提案に、相手は手を叩きながら楽しそうに笑った。
「いいねぇ。どんなゲーム?」
乗ってきた相手を満足そうに見て、にやりと笑う。
そして、地図を机の上に広げ、二つのコマを転がした。
「ここに二つの無能な人間の魂がある。それぞれどちらかを選び、そいつをいくつまで生かすことができるか。ってゲーム」
「そんなのすぐ死ぬんじゃないか?」
無能なんだろ? 能力もないのに生かすのは難しい。まぁ短期決戦なら問題ないか。
そんなことを考えていると、それじゃあつまんないでしょ。と、指を向けて振ってくる。
「どうしようもない時は、私達が手を出すことにしよう。ただし、三回まで。ほら、仏の顔も三度までって言うしね?」
「それはいいな。あと、生まれる地域も選べることにしないか? 選べないとすぐ終わりそうだし、逆に細かく設定できると、金持ちで権力を持ってるようなところに生まれさせれば簡単に生きられそうだし。そういうのは選べないようにしよう」
「そうだね。地域だけ、他はランダム。あとはどこで私達が手を貸すか。それで長生きした方が勝ち。ルールはそれだけ。シンプルだけど、それなりに時間掛けて遊べそうじゃない?」
「よし、決まり」
地図を指し、場所を決めてコマを置く。
そうして、二人はゲームを始めた。
暇を持て余した神々の遊び。
人間の与り知らぬところで、笑いながらコマを進めていく。ただ、自分達の欲求を満たす為だけに。
『ルール』
今日は朝からなんだかもやもやしている。なんとなくこれかもしれないという理由はあるが、はっきりとそれが原因だとも言い切れない。
曇りの空に、更に霧までかかっている。そんな気分。
でも、そんな日はそんな心を逆に楽しむのだ。
思い切り浸る音楽を聴いて、無駄に暗い妄想でもしてみる。久々の厨二病全開である。
天気だって毎日違うんだ。こんな日があったっていい。
『今日の心模様』
間違いだと理解っていても、愛さずにはいられなかった。
私と貴女は敵対している種族だった。
初めて会った貴女は薄汚れた奴隷だった。そして、逃げて辿り着いた先がここだったようだ。
私には仕える主人がいた。
主人は、気まぐれか、貴女を拾った。まるで捨てられた動物を拾うかのような、そんな扱いで。
正直、敵対している相手だし、そもそもこんな薄汚れた娘を拾うなんて、理解ができなかった。
でも、きっと主人も彼女にどこか惹かれる部分があったのだろう。彼女を拾い、信頼できる人の力を借り、匿った。
この気まぐれがいつまで続くのだろうと思っていた。どうせそのうち飽きる。彼女に様々な物を与え、様々なことを教えるのは無駄に感じていた。彼女は申し訳なさそうにしていた。
しかし、時折見せる屈託のない笑顔に、いつしか惹かれていった。温かい。心が溶かされていく……。そう感じた。
彼女を愛することは間違いだと理解っていた。
きっと、主人も、何も言わないが彼女を愛している。
そもそも私達は本来敵対している相手なのだ。たまたま彼女がここに来ただけで、本当は別の世界の人間だ。
愛してはいけない。
それでも――。
たとえ間違いだったとしても、愛さずにいられなかった。
この間違いが火種となって、いつか大きな炎に変わり、私を燃え尽くすことになるとしても。私は貴女を愛している。
『たとえ間違いだったとしても』