川柳えむ

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 僕は馬鹿。対して、君は天才。
 君はそれはもう難しそうな参考書や医学書をたくさん読んで、それはもう難しそうな大学に入り、それはもう難しそうな仕事に就いた。

 僕の母が当時では不治の病と言われる病気にかかった時も、君が研究を重ねていたその病に効く薬が丁度一般的に使用できるようになり、その命を助けてくれた。
 本当に君は天才で、母の命の恩人だ。

 僕は馬鹿なので、そんなすごいことはできなかったし、できたことといえば、入院をしている母の下へと足繁く通うくらいだった。
 病室でも母はいつも君を褒めていた。君を信じていた。
 君が薬を作ってくれることを信じていたから病を恐れていなかったし、実際にその薬を完成させて治してくれたので、一層君を褒め、それこそまるで神様のように崇めていた。

 君は天才。
 君は完璧。
 君は素晴らしい。

 対して、僕は馬鹿。

 僕は馬鹿だから、善悪の判断もつかなかった。と言えば、許されるだろうか?
 そんなことを、ナイフを握り締めながら考えていた。


『善悪』

4/27/2024, 7:17:38 AM