川柳えむ

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 間違いだと理解っていても、愛さずにはいられなかった。

 私と貴女は敵対している種族だった。
 初めて会った貴女は薄汚れた奴隷だった。そして、逃げて辿り着いた先がここだったようだ。
 私には仕える主人がいた。
 主人は、気まぐれか、貴女を拾った。まるで捨てられた動物を拾うかのような、そんな扱いで。
 正直、敵対している相手だし、そもそもこんな薄汚れた娘を拾うなんて、理解ができなかった。
 でも、きっと主人も彼女にどこか惹かれる部分があったのだろう。彼女を拾い、信頼できる人の力を借り、匿った。
 この気まぐれがいつまで続くのだろうと思っていた。どうせそのうち飽きる。彼女に様々な物を与え、様々なことを教えるのは無駄に感じていた。彼女は申し訳なさそうにしていた。
 しかし、時折見せる屈託のない笑顔に、いつしか惹かれていった。温かい。心が溶かされていく……。そう感じた。

 彼女を愛することは間違いだと理解っていた。
 きっと、主人も、何も言わないが彼女を愛している。
 そもそも私達は本来敵対している相手なのだ。たまたま彼女がここに来ただけで、本当は別の世界の人間だ。
 愛してはいけない。
 それでも――。
 たとえ間違いだったとしても、愛さずにいられなかった。
 この間違いが火種となって、いつか大きな炎に変わり、私を燃え尽くすことになるとしても。私は貴女を愛している。


『たとえ間違いだったとしても』

4/22/2024, 10:53:35 PM