雫と聞くとどこか美しいイメージがある。
でも、たくさんの雫が集まると雨になる。それはさながらキングス○イムのように。つまり、雫はス○イムである。美しいというよりはかわいいだ。
……いや、なんでもない。
たくさんの雫が集まると雨になる。今日の天気のように。
雨も悪くはないけど、やっぱり晴れが好きなんだよね。
明日は天気になぁれ。
『雫』
何もいらないというよりも、そもそも何も持っていない。
何かを手にしたらどう変わってしまうのか、想像もできない。
きっとこのまま何も手にすることはない。それで構わない。
何も持っていないからこそ、何でもできる。
僕は無敵だ。
そうして今日も、ギリギリを生きていく。
『何もいらない』
いかにも怪しい骨董屋で、その水晶玉を見つけた。
友達に連れられて入っただけで、正直店に入るのも嫌だったし、絶対に何も買わないと決めていたのに。
その水晶玉はどの品物よりもきらきらと輝いていて、他の品物はまるで脇役のように見えた。悪く言えば、浮いている。そんな風に感じた。
「その水晶玉は未来が見えるという話ですよ」
店の奥からお婆さんが出てきて、そんなことを言い出した。
「えー? 未来が見れる水晶!? すごいじゃん! 買ってみたら? 見惚れてたみたいだし」
友達が気軽に勧めてくる。
たしかに、見惚れてたけど。綺麗だなって思ったけど。金額見えてる?
「実は品物がなかなか売れなくて、そろそろこのお店も閉めようと思っていたの。もし良ければ安くしますよ」
うぅ〜……それなら?
「それに、私には何も見えなくて。もうこんな歳ですしねぇ」
それって単純にこの水晶玉が偽物なのでは? そもそも本当に未来が見られるなんて、そんな夢のような話があるわけない。
でも、その水晶玉があまりにも綺麗で――気付いたら手元にあった。
「買ってしまった……」
家に帰り、とりあえず机の上に置いてみる。
水晶玉は一層きらきらと輝いている。
なんだかんだで、あまり後悔はしていなかった。
「未来なんて本当に見えるのかなぁ」
もしも本当に未来が見られるとしたら。私は、どんな生活をしているだろう?
素敵な人と出逢って、郊外に赤い屋根のお家を買って、犬や猫と一緒に暮らしたい……。そんな様子が見られたらいいなぁ〜。
なんて、そんなことを考えながら、水晶玉を覗いてみた。少し期待しながら。
水晶玉には何も映らなかった。
「……って、そりゃそうだよねぇ」
当たり前である。そんな上手い話があるはずない。この世には魔法なんて存在しない。
少し残念に思いながらも、インテリアとして部屋に飾っておくことにした。
でもそれから暫くして、映らないのは正しかったのだと実感した。
私も、お婆さんも、きっと、誰が見ても。未来は映らなかった。
『もしも未来を見れるなら』
何をしたって何も感じない。笑うことも怒ることもない。
そんな人生だった。
両親は大層心配していたが、僕は何も感じない。感じる必要もない。
ただ過ぎる時を眺めているだけの人生だった。
君に出逢うまでは。
君の笑顔で、無色だった僕の世界に初めて色が付いた。
君が一つ一つ何かをする度に、世界が彩られ、輝いていく。今や、僕の世界は色に溢れている。あまりの鮮やかさに、瞳に溢れ返った色が、涙となって零れてしまいそうだ。
世界は美しかった。そして、君の笑顔も。
この美しい世界を大切にしたい。
『無色の世界』
浮かれた男とは対象的に、女は沈んだ表情をしていた。
「こんな日なのに、もっと笑えよ」
男が咲き乱れる桜と『入学式』の看板を背景に、女に向かって言った。
女は溜息交じりに答える。
「笑えないよ。だって、やっぱり、違うもん」
彼女は元々別の学校を受験していた。しかし結果は桜散り、滑り止めで受けていたこの学校に通うことになってしまったのだ。
変わらず暗い表情をしている女に、男は少し苛ついてしまった。
「笑えって! 俺がいるだろうが! 俺がおまえを笑顔にしてやるから」
思わず告白していた。
男は内心喜んでいた。彼女が受験に失敗したことに。
俺は嬉しい。おまえも喜べよ。一緒にいられるんだ。絶対に楽しくなる。楽しくする。おまえを笑顔にする。
女が顔を上げた。
「何言ってんの。あんたは希望の学校に浮かれて嬉しいのかもしれないけどさ。落ちた人の隣でずっとヘラヘラしてて不快だったわ。あんたの隣で笑顔になれるわけないじゃん」
冷たい表情を向けている。
風が強く吹いて、桜の花弁が勢い良く散っていった。
『桜散る』