川柳えむ

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 いかにも怪しい骨董屋で、その水晶玉を見つけた。
 友達に連れられて入っただけで、正直店に入るのも嫌だったし、絶対に何も買わないと決めていたのに。
 その水晶玉はどの品物よりもきらきらと輝いていて、他の品物はまるで脇役のように見えた。悪く言えば、浮いている。そんな風に感じた。

「その水晶玉は未来が見えるという話ですよ」

 店の奥からお婆さんが出てきて、そんなことを言い出した。
「えー? 未来が見れる水晶!? すごいじゃん! 買ってみたら? 見惚れてたみたいだし」
 友達が気軽に勧めてくる。
 たしかに、見惚れてたけど。綺麗だなって思ったけど。金額見えてる?
「実は品物がなかなか売れなくて、そろそろこのお店も閉めようと思っていたの。もし良ければ安くしますよ」
 うぅ〜……それなら?
「それに、私には何も見えなくて。もうこんな歳ですしねぇ」
 それって単純にこの水晶玉が偽物なのでは? そもそも本当に未来が見られるなんて、そんな夢のような話があるわけない。
 でも、その水晶玉があまりにも綺麗で――気付いたら手元にあった。

「買ってしまった……」
 家に帰り、とりあえず机の上に置いてみる。
 水晶玉は一層きらきらと輝いている。
 なんだかんだで、あまり後悔はしていなかった。
「未来なんて本当に見えるのかなぁ」
 もしも本当に未来が見られるとしたら。私は、どんな生活をしているだろう?
 素敵な人と出逢って、郊外に赤い屋根のお家を買って、犬や猫と一緒に暮らしたい……。そんな様子が見られたらいいなぁ〜。
 なんて、そんなことを考えながら、水晶玉を覗いてみた。少し期待しながら。
 水晶玉には何も映らなかった。
「……って、そりゃそうだよねぇ」
 当たり前である。そんな上手い話があるはずない。この世には魔法なんて存在しない。
 少し残念に思いながらも、インテリアとして部屋に飾っておくことにした。

 でもそれから暫くして、映らないのは正しかったのだと実感した。
 私も、お婆さんも、きっと、誰が見ても。未来は映らなかった。


『もしも未来を見れるなら』

4/19/2024, 10:43:04 PM